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公的資金投入と規制緩和

 公的資金の投入をきっかけに、政治家が「金融機関の行員の給与が高すぎる」、「貸し渋りはけしからん」、「銀行経営者は退職金を返還すべきだ」などと、民間の金融機関の経営に干渉しています。
 公的資金投入とは国が様々な形で融資あるいは、出資することで、国は債権者であるに過ぎず、民間企業の経営に対する干渉は正当化できません。江戸時代の両替商に対する奉行所の役人のような言い方(野中官房長官の)は規制緩和の原則に逆行しています。政治家が公的資金を投入したことを理由に「貸し渋り対策」と称して銀行に融資を強要するのは、債権者の立場を越えた経営への不当な介入です。かつての国鉄の破綻の例を見ても分かるように、政治家が政治的な思惑で企業経営に介入してうまくいくとは思えません。それに、貸し出しとはリスクを伴うものです。貸し出しが焦げ付いたら一体誰が責任をとるのでしょうか。金融機関の経営基盤をさらに弱体化するおそれがあります。融資の可否はあくまで銀行経営者が企業の立場で判断すべきです。政治家は金融機関が貸し渋りをしなくて済むような経済環境を整備するのが仕事のはずです。

 また、現在の金融機関の経営破綻がなぜ起きたのかも考える必要があります。主たる原因はプラザ合意以後の超金融緩和とその結果の不動産価格の暴騰(いわゆるバブル)、その後の金融引き締め、不動産融資総量規制による不況(バブルの崩壊)だと言われています。一つ二つの金融機関が破綻したのではないのです。ほとんどすべての金融機関が経営不安、経営困難に陥った責任は銀行経営者が負うべきものではありません。

 長銀の頭取に日銀の安斎理事が選ばれましたが、民間企業の経営者が必死にやってできなかったことが官僚にできるでしょうか。企業経営の経験が全くなく、コスト意識の全くない、「予算」の世界で生きてきた人間に経営者が勤まるとは思えません。過去において、官僚出身者でも経営者が勤まったのは、護送船団、行政指導万能の時代で、官庁とのコネが大きくものを言い、逆にそれさえあれば経営が勤まった時代だったからです。これからはそういう時代ではないし、そういう時代であってはならないと思います。

平成10年11月1日     ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る     H目次へ