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携帯電話(スマホ)の料金に関し、総務省のしていることは、料金の分離表示とか、“〇〇年縛り”とか表面的なことばかり −問題の本質は「抱き合わせ販売(SIMロック)」の是非−

 9月7日の読売新聞は、「携帯大手 10月へ変革」という見出しで、次のように報じていました。
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[スキャナー]携帯大手 10月へ変革
2019/09/07 05:00  読売



(中略)

 携帯料金の見直し議論は、政府が主導してきた。
官房長官が昨年8月に「(携帯電話料金は)4割程度下げる余地があるのではないか」と発言。総務省で議論するなかで、端末代金の値引きの原資が、割高に設定された通信料金から捻出されていることに批判が高まった経緯がある。

 そのため、今回の法令改正では、
2年縛り違約金上限規制のほか、2年以上の契約を条件に端末代を値引く「セット販売」の禁止や、契約期間の自動更新の禁止なども盛り込まれた。

(中略) 

端末代 負担増の可能性

 消費者にとって気がかりなのは、通信料金と完全分離された後のスマートフォンなどの端末代金だ。これまで携帯大手各社がさまざまな割引制度をもうけ、実質的に半額以下の価格で購入できた端末もあったが、今後はこうした
大幅な値引きがなくなる。

 10月に施行する改正電気通信事業法などでは、通信の契約期間を縛らない場合、端末代金の
値引きは2万円までに制限される。2年縛りの契約では、端末代の値引きそのものが禁止される。端末代のみに限ってみれば、これまでよりも購入者の負担は増す可能性がある。

(中略)

 総務省は
極端な値引き商戦は「10月の法令改正の趣旨にそぐわない」としており、6日には携帯大手に2度目となる自粛要請を行った。米国では10日(日本時間11日)にアップルが「iPhone(アイフォーン)」の新機種を発表するとみられており、各社の対応にも注目が集まる。
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 まず、上記の一覧表に掲載されている、
「セット販売」「高額の違約金」「契約年数による値引き」などは、消費者に選択の自由がある中での営業であれば、大きな問題にはならないと思います。

 そして、これらの問題は
携帯電話だけに限ったことではないと思います。それにも拘わらず他の業界では問題とならず、携帯電話業界だけで問題となるのはなぜでしょうか。

 法律による
「セット販売の禁止」「違約金の上限額の制限」「値引きの禁止、またはその上限額の制限」などは、どれ一つとってみても、健全な市場経済の国ではあり得ない官庁からの規制で、その異常さにまず驚きます。「大幅」とか「極端」と言う表現は、非常に曖昧です。独占禁止法、公正取引委員会との関係、他の業界との整合性などに問題はないのでしょうか。

 更に注目すべき事は、料金表示について、通信料金と端末料金を別々に表示するだけではなく、合計額を表示するいわゆる
“総額表示”を義務化している点です。
 この料金表示については、下記のようなややこしい
経緯があります。
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携帯
「完全分離」義務づけ…端末・通信料 改正法が成立
2019/05/11 05:00  読売

 携帯電話料金の引き下げを促す改正電気通信事業法が10日、参院本会議で可決、成立した。携帯電話会社にスマートフォンの
端末代金通信料金を分ける「完全分離」を義務づける。これにより、端末購入と通信サービスの契約を組み合わせて割引する「セット割引」ができなくなる。今秋に施行される見通しだ。

(中略)

 セット割引に対し、端末代の値引きの原資として月々の通信料金が高めに設定され、
端末を長期間使う利用者に不公平との指摘があった。

(以下略)
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携帯料金の
総額表示を義務づけ、プラン比較しやすく
2019/07/04 21:20 読売

 総務省が今秋、携帯電話会社に対し、契約期間内に支払う料金の
総額表示を義務づける方針であることがわかった。利用者が事業者のプランを比較しやすくするためで、事業者の競争を促す狙いもある。

 総務省は、電気通信事業法の指針を改定し、総額表示を義務づける。対象は、主に2年などの定期契約を提供する携帯電話大手になる。契約時に各社が利用者に示す説明書面などに、
支払総額の目安のほか、通信料金や端末代金、手数料などの内訳も表示する。端末を分割払いで購入し、定期契約後にも支払いが残っている人には、残りの支払額も併記することも求める。

 NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクの携帯電話大手では、半年や1年間などの期間限定で月々の通信料金を割り引くキャンペーンを行っている。
割引終了後に月々の支払額は上昇するため、利用者が支払総額を把握しづらく、他社との比較も難しいとの指摘が出ていた。

 指針改定後は、事業者が
総額を示さなければ、業務改善命令などの対象になる可能性がある。
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 当初は
端末代金と通信料金が別々に表示されず、合算で表示されているのが、携帯電話料金が諸外国に比べて高額である一因とされ、その対策として「完全分離」が打ち出されたにも拘わらず、その後「利用者が事業者のプランを比較しやすくするため」、「契約期間内に支払う料金の総額表示を義務づける方針」が追加され、結局「支払総額の目安のほか、通信料金や端末代金、手数料などの内訳も表示する」として、通信料金と端末代金、それに料金プランの期間に支払う料金の総額をすべて表示させることとなりました。
 この間、監督官庁の
総務省にはかなり迷走があったように見られます。

 そもそも、通信料金と端末の代金の金額を
分けて表示するだけでは、不十分で余り意味がありません。いくら分けて表示しても、通信料金と端末を別々に購入できなければ、意味がないのです。分離して表示していても、それは合わせて同時に購入することが前提の価格であれば、分離して表示している意味がありません。

 総務省は通信料金と端末価格を別々に表記することを義務づけましたが、果たして顧客が
別々に調達することを可能とすることを義務づけているのでしょうか。そうではないようです。そうでなければ別々に表記するメリットはどこにもないと言って良いと思います。後から総額表示を追加したことからも分かるように、要は全部でいくらかかるか、それが比較の対象です。

 例えば住宅の販売価格は
分譲マンション建売住宅の場合は土地と建物の合計額で表示されていて、土地と建物の内訳は表示されていません。商品として土地と建物は一体不可分であり、購入先も同一であり、分けて表記する必要も、メリットもないからです。

 またこれとは別に自分で
土地を買って家を建てたい場合は、土地と建物は別々の売り手から別々に購入・発注することが可能で、当然金額表示は別々です。

 その中にあって例外的な“
建築条件付き土地販売”というのもあります。この場合は土地と建物の金額表示は別々ですが、購入先は同一で、通常は土地の売り主=建築会社です。
 このような建築条件付きの土地販売が、もし何らかの事情で急増して、
土地だけを購入するのが困難になり、建築条件に従って割高の住宅建設を余儀なくされるケースが頻発すれば、携帯料金と同じような問題が発生すると言えると思います。

 要は
価格表記の方法の是非の問題や、長期契約やそれに伴う違約金の問題ではなく、「抱き合わせ販売の是非」の問題なのです。
 
携帯電話サービスを「通信サービス提供」と「端末販売」を合わせた一つの商品と考えるか、通信サービス提供と端末販売を別々の2つの商品と考えるかと言うことです。

 
2つの商品と考えるのなら、当然価格表示は別々であるだけでなく、購入先も別々に自由に選択できなければなりません。
 反対に
1つの商品と考え、別々の販売を禁じるのであれば、端末と通信サービスの価格を別々に表記することは、余り意味がありません分譲マンションの価格を土地と建物に分けても意味がないのと同様です。

 総務省のしていることは、
料金表示とか、“〇〇年縛り”とか表面的なことばかりに注目していて、しかも一貫性がなく、「抱き合わせ販売の是非」と言う問題の本質を見ていないと思います。

令和元年9月11日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ