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病院(特に国・公立)は“営利企業”ではない “赤字”が問題にならないのは公立小中学校と同じ −赤字を問題視するのは、公立病院潰しと私立病院・開業医支援が目的−
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 11月13日のNHKニュースは「昨年度の病院収支 国公立は赤字 民間は黒字」というタイトルで、次のように報じていました。
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昨年度の病院収支 国公立は赤字 民間は黒字
2019年11月13日 9時48分医療  NHK

 全国の医療機関の昨年度、平成30年度の収支は、
国公立の病院では人件費の増加などで赤字の状態が続く一方、民間病院黒字だったことが分かりました。

 医療機関に支払われる診療報酬の改定に向け、厚生労働省は、昨年度、平成30年度の医療機関の経営状況を調査し、13日に開かれた中医協=中央社会保険医療協議会に報告しました。

 それによりますと、病床数が20床以上の「一般病院」全体の収支は平均で9637万円の赤字で、前の年度よりも1025万円改善したものの、赤字の状態が続いています。

 これを経営主体別に見ますと、
国立病院が平均で1億7391万円公立病院6億4195万円赤字だった一方、医療法人が経営する民間病院5290万円黒字でした。

 また、病床数が19床以下の「一般診療所」は、前の年度よりやや減ったものの1785万円の黒字でした。

 このほか
医師の平均年収は、民間病院の勤務医が1641万円公立病院1514万円、国立病院1432万円、個人経営の一般診療所1079万円、医療法人が経営する一般診療所が1054万円でした。

 厚生労働省は「
国公立の病院は、診療報酬の改定などで一定の収入増加がみられたものの、人件費の増加など支出も増えたため、赤字が続いている」と分析しています。
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 記事は病院経営の収支が
赤字か黒字かを問題にしていますが、言うまでも無いことですが、医療機関は患者のためにあるのであり、本質的には(建前上は)営利を目的としていない機関の筈です。
 特に
国・公立の医療機関は私立に比べて、その点が強調されて良いはずですが、この記事にはその視点が欠けています。

 医療機関は例えて言えば
公立の小・中・高等学校と同じで、営利を目的とした機関ではないので、赤字=悪、黒字=善とは言えないはずです。そもそも公立学校には赤字・黒字という視点はありません。
 私立の学校であれば赤字経営は問題となり得ますが、それでも
経営母体(例えば宗教法人)が赤字に耐えられるのであれば、必ずしも問題とは言えません。

 私立病院に黒字が多いのは、
過疎地域には私立病院が存在しないからではないでしょうか。容易に想像できることです。これらの観点から考えれば、公立と私立を同列に論じるのは正しい認識とは言えません。

 公立の医療機関においても、その赤字を国に転嫁するなどの動きがあれば別ですが、その経営母体である
自治体が赤字を負担していて、各地の実情により住民が納得しているのであれば、敢えて国が口出しする問題ではないと思います。国はモデルとすべき標準的医療機関のデータを基に、妥当な医療費(保険医療費)を算定して、適用すれば良いのであって、それ以上医療機関の赤字・黒字に関わる必要はありません。

 記事を見て不可解に思えることは、医師の年収が1641万円と一番高い民間病院が、5290万円の黒字経営で、それよりも年収が1514万円と低い公立病院が6億4195万円の赤字、年収が1432万円と一番低い国立病院が1億7391万円の赤字と、
医師の年収と病院の経営収支が逆転の関係になっていることです。一体これは何を意味しているのでしょうか。

 私立病院は
医師の給与は高いが医師以外は低く、反対に公立病院は医師は低いが、医師以外の職員の給与が民間と比べて高いと言う実態でもあるのでしょうか。
 記事は「国公立の病院は、・・・、人件費の増加など支出も増えたため、赤字が続いている」と分析していますが、これだけでは
説明不足です。

 公立病院の赤字、民間病院の黒字には、過疎などの周囲の環境や、患者一人あたりの医療費額の多寡
(過剰治療、過剰検査、漫然治療)高額な差額ベッドなどの実態に左右されると思います。国による一律の議論は無意味であり、私立病院支援という他意があるのではないかとの疑問が生じます。
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 私はこのニュースを聞いていて、下記の9月27日の記事を思い出しました。
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「再編必要」424病院公表…公立・公的 厚労省、入院効率化へ
2019/09/27 10:31  読売

全424病院の一覧はこちら(省略)

 厚生労働省は26日、再編・統合の検討が必要と判断した424の公立・公的病院名を初めて公表した。
がんや救急など地域に不可欠な医療の診療実績が少ない病院が主な対象。入院医療を効率化し、増え続ける医療費に歯止めをかけるため、停滞する再編・統合論議を加速させる狙いがある。都道府県などに対して2020年9月までに対応策を示すよう求める。

 公表されたのは、都道府県や市町村が設置する257の公立病院と、日赤や済生会など国が認めた団体が運営する167の公的病院。全国には民間を含めて約8400の病院がある。公立・公的病院は1652で、今回の公表分はこのうちの3割弱を占める。

 厚労省は病院名の公表にあたり、
がん、心筋梗塞こうそく、脳卒中、救急、小児などの医療について、17年度の手術・治療件数の診療データを人口規模ごとに分析。全国的にみて診療実績が一定以下だったり、これらの診療機能を代替できる病院が近隣に存在したりする場合は、「再編統合の議論が必要」と判断した。

 国は医療体制の効率化を図るため、16年度に将来の医療の需要見通しを示す「地域医療構想」を都道府県に作成させた。これを基に公立・公的病院の再編・統合などの対応方針の策定を求めたが、期限とした今年3月までに大きな進展はなかった。
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この9月27日の記事は、厚労省が今まで力を入れてきた、軽症患者の“大規模病院”への受診阻止には触れず、ひたすら「公立・公的」をターゲットにしていますが、その狙いはどこにあるのでしょうか。

 なぜ
公立・公的病院だけを整理・統合の対象にし、私立病院は除くのでしょうか。「増え続ける医療費に歯止めをかける」のが目的としていますが、医療費公定価格制度(公的医療保険制度)の下では、公立病院を減らしても患者がいる限り、患者が行く先が公立から私立の病院に変わるだけで、医療費は変わらないはずです。もしかすれば民間の方が余分な治療が多くて、医療費だけで考えればかえって増加するかも知れません。
 私立病院に比べて
公立・公的病院は(正味の)医療費がかかりすぎている(過剰診療の疑いがある)と言うデータは示されていません。

 
病院経営が赤字か黒字かという問題は、本質的に医療費の問題ではありません。公的医療保険の元での医療費は、病院が私立か公立かの別や、規模などで大きな差は無いはずです。もし、医療費の問題があるとすれば、それは高齢者の割合が多いかとか、低所得者が多いかとか、人口の割に患者数が多いか少ないかと言う問題で、医療機関以外の問題です。

 反対に
医療機関の問題があるとすれば、それは患者数に比べて、職員(医師・看護師・事務職員など)が多いとか、給与水準が高すぎる、物件費が高すぎるなどの問題です。
 これらはどう考えても各公立病院の
経営母体(都道府県・市町村など)が対応(例えば統合再編の可否)を考える問題であり、国が一律の基準でその可否を判断する事にはなじまず、その必要のない問題です。

 私立の経営を問題視しないのは、議論の目的が単なる
公立病院潰しだからではないのでしょうか。大規模病院(200床以上)への受診を、上乗せ診療費制度で抑制し、一方で診療実績が一定以下の公立病院の整理統合を促すというのは、上からと下からの挟み撃ちで公立病院を潰すと言う事を意味しています。「代替できる病院」とは競合する私立病院のことではないでしょうか。結局はどちらも公立病院潰しと、私立病院・診療所の支援だけが目的ではないのでしょうか。

 公立・公的病院がいいか私立病院が良いか、厚労省は
患者の意見は何故聞かないのでしょうか。患者の病院選択権を奪うべきではありません。そしてもう一つ、これらの問題にはマスコミが患者の立場に立つことがなく、厚労省を批判することなく報じていると言う共通点があります。

令和元年12月6日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ