H115
泉佐野市は法廷で“ふるさと”納税制度の不公平・欺瞞を主張すべき −菅官房長官は宰相の器か−
----------------------------------------------------------------------------------
 10月4日の読売新聞は、「泉佐野『除外』 総務省、公平性を重視…『商品券返礼』法廷闘争に」と言う見出しで、次のように報じていました。
----------------------------------------------------------------------------------
泉佐野「除外」 総務省、公平性を重視…「商品券返礼」法廷闘争に
2019/10/04 05:00  読売

 総務省が3日、ふるさと納税制度から大阪府泉佐野市を除外する判断を維持したのは、返礼品の
規制を守っている地方自治体との公平性を重視したためだ。近く想定される大阪高裁での訴訟では主に、返礼品の規制を導入した新制度が始まる前の募集方法を審査基準にしたことの妥当性が争われることになる。

 2007年の総務相時代に
ふるさと納税制度の創設を主導した菅官房長官は3日の記者会見で、通知について「総務省において適切に判断した結果だ」と強調した。

 焦点となっているのは、地方自治体を審査する基準だ。今年3月に成立した改正地方税法に基づく総務省告示では、昨年11月から今年3月末までの5か月間に、制度の趣旨に反する方法で著しく多額の寄付を集めた自治体を除外できることを定めている。同省は5月、これらに基づいて
泉佐野市など4市町の除外を決めた。

 泉佐野市からの申し出を受けた総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」(委員長=富越和厚・元東京高裁長官)は9月3日付の勧告で、過去の募集方法だけを理由に除外するのは、改正地方税法が委任する範囲を超える恐れがあるとした。これに対し、総務省は通知で「(審査基準の)内容は総務大臣の政策的・専門技術的裁量に委ねられる。(今回の)
制度創設に至る経緯やその目的からしても明らかだ」と主張した。

 同省の恩田馨市町村税課長は3日の記者会見で「委員会の見解は間違っているのか」と問われると、「勧告を真摯しんしに検討し、慎重に判断した結果、適法であると整理した」と説明した。

 判断を変更しなかったのは、ネット通販
「アマゾン」のギフト券など豪華な返礼品で多額の寄付を集めた泉佐野市に制度利用を認めた場合、他の自治体から「正直者が損をする」という反発が相次ぐことが予想されるためだ。通知では「制度の根幹を揺るがしかねない」と非難した。

 泉佐野市が高市総務相を相手取って大阪高裁に提訴した場合、提訴から15日以内に第1回口頭弁論が開かれることになる。総務省は、訴訟を担当する法務省訟務局などと協議しながら準備を急ぐ考えだ。
----------------------------------------------------------------------------------

 この記事を読み、まずは
「ふるさと納税」制度の法的根拠を調べようと思いましたが、該当する法律を探すことに手間取りました。
 調べていく中で
、“ふるさと納税法”のような法律はなく、平成21年の「地方税法」改正が、ふるさと納税制度創設の法的な根拠らしいことが分かりましたが、「ふるさと納税」に関する部分を見つけ出すことが出来ませんでした。「ふるさと納税(俗語?)」などという言葉が、条文にあるのかどうかも分かりません。

 使われている言葉「ふるさと納税」が俗語で、その
定義目的も明確でないとすると、極めていい加減な制度と言わざるを得ません。

 その次に見つけた「総務省 ふるさと納税ポータルサイト」などで、総務省より次のように趣旨・目的が説明されていました(一部を抜粋)。

「総務省 ふるさと納税ポータルサイト」より抜粋
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/about/
 
多くの人が地方のふるさとで生まれ、その自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育ち、やがて進学や就職を機に生活の場を都会に移し、そこで納税を行っています。
 その結果、都会の自治体は
税収を得ますが、自分が生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。

 
そこで、「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」(出典:「ふるさと納税研究会」報告書PDF)、そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのがふるさと納税制度です。

「ふるさと納税制度について」より抜粋
https://www.soumu.go.jp/main_content/000254924.pdf
「自分の生まれ故郷や応援したい地方団体など、どの地方団体に対する寄附でも対象となる」

 概略以上のように説明されています。
----------------------------------------------------------------------------------
 本来は
自分の出生地に対する寄付趣旨・目的のようですが、「どの地方団体に対する寄附でも対象となる」の一言で、すべてを帳消しにしています。

 事実、“ふるさと納税”に際しては、自分の
出生地を証明する資料の提出などは全く必要がありません。“ふるさと納税”と言う言葉自体が、欺瞞と言うべきです。

 現在では「さとふる」などという名称の
業者他、多数の手続き代行業者が営業していて、そのほとんどが各自治体自身の紹介・説明ではなく、専ら返礼品の紹介のみをしています。
 この紹介業者の取扱件数や、そのうち
何%が“ふるさと”出身者に依るものかなどの統計が全く公表されていないので分かりませんが、寄付を受ける自治体の多くは北海道や東北などの他、人気の魚介類や果物などの産地が上位を占めていると思われますので、その地出身者以外の寄付がかなりの割合を占めていると思います。

 そうするとこの制度は、今はやりの
「ネット通販」と類似の制度と言え、地方税の控除額の範囲で、2,000円の自己負担で、無料で返礼品が受け取れるという制度です。
 これは
税制としても歪んだ制度であるだけでなく、ネット通販市場の健全に発展にとっても有害な制度と言うべきだと思います。

 総務省は
公平性を問題にしているようですが、そもそも寄付が出身者に限定されず、しかも返礼品目当ての寄付が横行していれば、公平性以前の制度としての正当性が問われるべきです。

 寄付を
必要としているか否かではなく、人気のある地場産品を抱えているかどうかで、寄付額の多寡が決まるという現実を招いているこの制度は、初めから「公平」とは程遠い制度で、総務省が何を以て公平・不公平の判断をしているのか理解できません。
 総務省が寄付を必要としているにも拘わらず、
人気のある返礼品を生産していない自治体に不利益を強制する方が「公平」を欠いているのではないでしょうか。

 公平を求めているのであれば、
返礼品を一律に禁止すべきです。純粋な寄付行為に返礼品は不要です。この「ふるさと」以外に、返戻品付きの寄付などは聞いたことが有りません。この返礼品があるために、返礼品目当ての寄付が横行して、巨大な「不公平」が発生しているのです。この現実を直視して歪んだ制度は即刻廃止すべきです。
 地方の問題対しては
地方交付税の制度があり、毎年巨額(令和2年度予算案では16兆円)の予算が割り当てられています。

 仮に今すぐそこまで出来ないとしても、
公平性にこだわるならば、返礼品に対する偽善的な制約をすべて撤廃して、金額・種類は自治体の自由とし、泉佐野市を免責する方が理にかなっています。そうすれば自治体間の競争が激化して、採算が悪化して、制度そのものが消滅するでしょう。

 この制度の発案者が
菅官房長官だと知りました。彼がこの程度の人物と知りガッカリしました。彼はこのほかにも「スマホ料金値下げ」“言い出しっぺ”として、騒いでいましたが、いつの間にかうやむやになってしまいました。
 彼を安倍総理の後継候補の一人にあげる声がありましたが、目先の
素人受けするような、経済音痴の素人的発想が目立ち、とても宰相の器ではないように思います。

令和元年12月25日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ


令和元年12月26日 追記

今日の週刊文春の下記ホームページに、菅官房長官の「ふるさと納税」を批判する記事がありました。ふるさととは無縁の人達による、返礼品目当ての「納税」を批判する私の論点とは多少視点が異なりますが、菅・ふるさと納税の批判で、ほぼ同時期でしたので、紹介します。

「ふるさと納税は間違い」 総務省元担当局長が実名告発
「週刊文春」編集部
source : 週刊文春 2020年1月2・9日号
https://bunshun.jp/articles/-/22291

 制度開始から11年が経ち、5000億円規模の市場に成長したふるさと納税。一方で、過熱する「返礼品」競争を受けて、総務省は今年6月、ついに法規制を余儀なくされ、改正地方税法施行で「返礼品は寄付額の3割以下の地場産品」と基準が設けられ、それを満たさない大阪府泉佐野市などは制度の対象から除外された。すると泉佐野市は国を訴え、来年1月に大阪高裁での判決を迎えるなど騒動が続いている。

「生みの親」菅官房長官 c共同通信社
 こうした混乱が起きることを危惧し、警鐘を鳴らしてきた官僚がいた。この官僚がこの度、ノンフィクション作家の森功氏の取材に対し、ふるさと納税は税制として間違っていること、そのことを「制度の生みの親」を自任する菅義偉官房長官に直言したが聞き入れられなかったことなどを詳細に証言した。

 取材に応じたのは、かつて総務省内で事務次官候補と見られていた平嶋彰英氏。「ふるさと納税」をさらに広めるための寄付控除の
上限倍増や、確定申告を不要にする「ワンストップ特例」などが懸案となっていた2014年から2015年にかけて、総務省自治税務局長を務めていた。15年7月の異動で自治大学校校長となり、その後は総務省に戻ることなく退官した。現在は立教大学経済学部特任教授を務めている。

 平嶋氏が語る。

「菅さんには、2014年の春先からずっと『
高額所得者による返礼品目当てのふるさと納税は問題です。法令上の規制を導入すべきです』と説明してきました。当時総務大臣だった高市(早苗)さんにも断って、そう申し上げてきました。でも菅さんはそれどころか、(さらにふるさと納税を広めるために)控除を2倍にしろとおっしゃる」

 平嶋氏は、「国民に消費税の引き上げをお願いしておきながら、逆に高額納税者の節税対策みたいな枠を広げるつもりですか?」という気持ちだったという。

「実際、それに近いことを口走ってしまいました。でも菅さんは『俺の意図に応えてくれ、本当に
地元に貢献したいと寄付してくれる人を俺は何人も知ってる。(返礼品目当てで納税する)こんな奴ばかりじゃない』というばかりでした。もうこれは駄目だなと思いました」

 結局、菅氏は、平嶋氏の反対を押し切って、
控除上限の倍増に踏み切った。平嶋氏は今回、取材に応じた理由をこう語る。

「ふるさと納税に携わってきた役人として、何があったのか、そこだけは明らかにしておく義務があります」

「ふるさとチョイス」や「ふるなび」など各社のHPより

 12月26日発売の「週刊文春」では、平嶋氏と菅官房長官との「ふるさと納税」を巡る詳細なやり取りや、不可解な人事の裏側、また高市早苗総務大臣からかけられた言葉などについて、4pにわたって詳報している。