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大病院が本当に“かかりつけ医”の紹介状を持たない患者から、特別費用の徴収を望んでいるなら、金額の下限を定めて強制する必要はない −いい加減な制度が、何の抵抗も受けずに素通りしていく政治の現状は、極めて憂慮すべき−

 2月8日の読売新聞は、「診療報酬 4月からこう変わる 主なポイント」と言う見出しで、次のように報じていました。
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診療報酬 4月からこう変わる 主なポイント
2020/02/08 05:00 読売

 2020年度の診療報酬改定について議論する中央社会保険医療協議会の委員ら(1月15日、東京・霞が関で)

 医療サービスや薬の公定価格として国が定める診療報酬の新しい改定内容が7日決まった。4月からどう変わるのか。

(中略)

[外来]
「紹介状なし」対象拡大



 紹介状なしで大きな病院を受診した患者が、通常の医療費とは
別に定額を負担する制度は、対象病院が拡大される。現在の「400床以上」から「200床以上」のベッド数が条件となる。

 比較的症状が軽い人に、
かかりつけ医を受診するよう促し高度な医療を提供する大きな病院中核病院に患者が集中しないようにするのが目的だ。

 この制度は
16年度義務化され、「500床以上」の病院を対象に始まった。18年度「400床以上」に拡大され、現在、約430病院が対象となっている。4月からは新たに約240病院が加わる見込みだ。

 紹介状がない患者は、かかった医療費の自己負担分以外に、初診で
5000円(歯科は3000円)以上、再診では2500円(歯科は1500円)以上を支払う。金額は各病院が任意で決める。救急患者ら一定の条件に当てはまる場合は対象外で、定額負担は求められない。

(以下略)

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 記事では
定額負担金額下限は定めているものの、上限は定めず、「金額は各病院が任意で決める」としています。しかし、「任意」としていながら“下限”を定めているのは“奇異”の印象を免れません。下限の制約があれば、それは「任意」とは言えません。いったいなぜ下限だけを定めているのでしょうか。

 もし、専門性の高い治療に特化したい
(軽症患者を拒みたい)、と望んでいる高度大型・中核病院が、紹介状を持たない患者から定額負担の徴収を望んでいるのであれば、その額は低額化の心配はなく、逆に高額化の恐れがあるはずです。その場合は費用の下限を定める必要はなく上限を定める必要があります。

 反対に定額負担の徴収を望んでいない
(軽症患者を拒まない)のであれば、費用は低額化の恐れは有っても、高額化の心配は無用と言うことになるはずです。その場合は費用の下限を定める必要はあっても上限を定める必要はないはずです。

 
今回の制度改定は下限を定めて、上限を定めないものですから、この制度は当事者である高度大型・中核病院が、望んではいない制度であると言うことが言えると思います。

 次に紹介状についてですが、負担金制度の本来の
目的が、高度大型・中核病院にとってより良い業務遂行の為であるならば、紹介状の要否の判断すなわち、軽症患者の高度大型・中核病院受診の可否の判断は、当該病院自身がすべきことで、“かかりつけ医”がするべき事とは思われません。患者はまず、高度大型・中核病院を受診して、そこで適否を判断すべきです。そしてその結果、否と判断されたにも拘わらず、再診に来た場合のみ負担金を負担させれば良いのではないでしょうか。

 
かかりつけ医はこの「紹介状」制度により、患者の増加という利益を得る利害関係者(見方によっては高度大型・中核病院と利害相反関係者)であり、その判断が患者のために最適なものかどうかについては問題が発生する可能性が否定出来ません)

 また記事では
“定額”“定額費用”と有るだけで、なぜか名称がありません。5000円と金額だけ定めて、〇〇金とか、××費とかの名称がありません。なぜでしょうか。多分、明確・正当な根拠のない金銭の徴収なので、法制度(行政のルール)上は建前とは似ても似つかない名称になっていて、表に出せないのではないでしょうか。

 これは
“かかりつけ医”と言う名称についても同じようなことが言えます。およそ“かかりつけ医”などという言葉は一昔以上前“俗語”に類するもので、現代の日常で使われることはまれで、定義も曖昧で行政のルールに使用するに耐えるものではありません。この制度のいい加減さを象徴しています。

 更にこの制度が
2016年500床以上の病院について義務化されて始まり、2018年400床2020年200床と、2年ごとに短期間で対象範囲が理由も明らかにされずに、“順調に拡大”していった事実は、“計画性”を疑わせます。

 
「紹介状」についても、記載すべき内容・形式、発行要件について何の基準も示されず、すべてが“かかりつけ医一任”となっていることは、行政のルールとして極めていい加減と言わざるを得ません。
 これほど
いい加減な制度が、どこからも(マスコミからも)何の抵抗(批判)も受けず素通りしていく政治の現状は、極めて憂慮すべきものだと思います。

令和2年2月10日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ