H120
楽天市場の“送料無料化”問題に見る、消費者不在の公取行政 −新しいビジネス・モデルに対応すべき−

 2月28日のNHKのテレビニュースは、「楽天送料問題 公取委16年ぶりの『緊急停止命令申立て』」と言うタイトルで、次のように報じていました。
------------------------------------------------------------------------------------------------------
楽天送料問題 公取委 16年ぶりの「緊急停止命令申立て」
2020年2月28日 19時45分 NHK

 「楽天市場」を運営する楽天が一定額以上を購入した場合の
送料を無料にするため、来月18日から出店者に「送料込み」の料金体系にするよう求めていることについて、公正取引委員会優越的な立場を利用した不当な要求にあたる疑いがあるとして、独占禁止法に基づく緊急停止命令を東京地方裁判所に申し立てました。公正取引委員会が緊急停止命令を申し立てたのは16年ぶりです。

 楽天は来月18日から
「楽天市場」で一定額以上の商品を購入した場合、送料を無料にする方針ですが、公正取引委員会は今月10日、優越的な立場を利用して出店者に不当な要求をした独占禁止法違反の疑いがあるとして立ち入り検査しました。

 しかし楽天の三木谷浩史社長は今月13日の記者会見で
消費者にわかりやすい「送料込み」の料金体系を導入することで、予定どおりに送料無料化を実施するとしていて、「『送料込みで価格を調整してください』と出店者に言っているので優越的地位の乱用にはあたらない」という認識を示しています。

 これに対し公正取引委員会はこのまま予定どおりに実施されれば
公正な競争が侵害されるなどとして28日、送料無料化を停止させるため独占禁止法に基づく緊急停止命令を東京地方裁判所に申し立てました。

(中略)

公取委 送料無料化で追加負担 出店者側から聞き取っている

 公正取引委員会は28日の記者会見で「購入金額が一定以上になれば出店者は一律に送料を請求することができなくなるという意味で、
『送料無料』も『送料込み』も実質的には同一のものと考えている」と述べました。

 そのうえで「送料無料化が予定どおりに実施されれば、
出店者の自由な取り引きが阻害され、競争の基盤そのものに悪影響が生じ続けるおそれがある。しかし排除措置命令を出すには一定の期間がかかるため、それを待っていてはわれわれが違反だと考える行為が放置されることになると考えた」と説明しました。

 さらに送料無料化によって月に20万円から70万円の追加負担が発生すると
出店者側から聞き取っていることを明らかにし「楽天は送料無料化を導入すれば、売り上げが10%程度伸びると説明しているが、出店者からすれば、売り上げや利益が確実に伸びるものではないと考えられる」と述べました。
------------------------------------------------------------------------------------------------------

 送料込みの商品の価格を
出店者が自由に決定するのであれば、それは単に「送料込みで表示するか、送料別で表示するか」の違いだけであり、今回の問題は「価格表示を消費税込みでするか、税別でするか」と同様の、単なるに表示の問題に過ぎません。

 この点について、公取は「『送料無料』も『送料込み』も実質的には同一」と考えているなら、何が問題なのでしょうか。
送料込みに何か問題があるというのでしょうか。

 送料込みの価格が
全国一律であるとすると、「送料別」と比較して、遠隔地の消費者には有利で、多数の大都市の消費者には若干不利益の可能性がありますが、全国一律送料は例えば郵便料金制度でおなじみのもので、不公平とは見なされておらず、ネット通販各社の送料無料(実質的な送料込み)も珍しくありません。

 いずれにしても
送料込みの全国一律価格の強制が、出店者に若干の不利益な部分があったとしても、また一部の消費者には不利益があり得るとしても、現状ではほとんどの消費者(大都市を含む)には歓迎されていると考えられ、未だ消費者が反対しているというニュースを聞いたことが有りません。
 公取がこの問題を楽天という
“強者”“弱者”である「出店業者」という位置づけで、両者間の問題としてしか見ていないのは、公正な市場取引の究極の目的である「消費者の利益」と言う視点を欠いています。

 ネット通販業界には、
アマゾンという楽天にとって強力なライバルが存在し、楽天が独占的地位を占めているという訳ではありません。
 公取は出店者の
「自由な取引が阻害される」と言っていますが、楽天という土俵(信用・看板)を借りての取引には、当然制約はあるわけで、彼らにはそのメリットデメリットを受け入れた上での「自由」しか有りません。

 今回の楽天
(ネット通販統括業者)や、24時間営業の停止で問題になったコンビニ本部の営業形態は、今までの製造業、サービス業などの範疇では捉えきれない新しいビジネス・モデル(業種・業態)と考えるべきです。
 コンビニ業界では、加盟店が本部に対して
労使関係的スタンスで臨んでいる側面があります。一方で今回の公取のスタンスは「労使関係」ではなく、「取引関係」と見て対応していますが、楽天とその土俵(信用・看板)を借りて営業している出店者との関係は、今までの卸売り・小売りの取引関係などとは本質的に形態が異なっていると思います。

 公取はこれらに対して、今までの
「優越的な立場を利用」等という、従来のルールをそのまま適用しようと言う膠着した発想を転換すべきだと思います。

令和2年3月17日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ