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砂漠に水をまく「地方創生」の愚−(その2) −“少子化”便乗でだめなら、“新型コロナ”に乗り換えてする「東京一極集中排除」−

 
7月23日の読売新聞は、「東京一極集中 止まらない…コロナ時代の地方創生 地域の雇用増 効かず」と言うタイトルで、次のように報じていました。

(以下
茶色の字は記事、黒色の字は安藤の意見)
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東京一極集中 止まらない…コロナ時代地方創生 地域の雇用増 効かず
2020/07/23 05:00 読売
新型コロナ
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1.新型コロナ、少子化に便乗して論じられる、地方創生(東京一極集中排除)

 17日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針」は、地方の活性化に向けて、テレワークの推進や地方大学への支援強化などを柱としている。どう具体化するのか。過去5年間の東京圏への転出入や雇用創出数などの実績を基に、「ウィズコロナ」時代の地方創生の課題を探った。(編集委員 阿部文彦

 最初のタイトルからして、「東京一極集中」、「コロナ」、「地方創生」の3語を並べており、言いたいところは
、“コロナ問題”よりも、“東京圏一極集中排除”・“地方創生」がメインである印象を受けます。

 
◎数値目標

 政府が2014年末に決定した地方創生の総合戦略は、今後加速する
人口減少を背景に、2060年に1億人程度の人口の維持を目指し、出生率の上昇東京一極集中是正二つの柱に掲げた。長期間の施策のため、15〜19年度を第1期と定め、政策ごとの数値目標を掲げ、進捗しんちょく状況を検証してきた。

 ここでは、
“人口減少”、“出生率の上昇”“東京一極集中”と結びつけて論じられていますが、1989年に出生率1.57ショックを契機として認識された“少子化問題”と、2014年に提唱された“地方創生(東京一極集中排除)”問題は、本来現象原因も全く別の問題です。それが根拠も明らかにされないまま、いつの間にか“抱き合わせ”で議論されるようになりました。
 本来的に
別問題である二つの問題が抱き合わせで論じられると言うことは、スタートからして健全な議論では無かったと言うことです。

 
20年を目標年とする第1期の主な目標の達成状況を見てみよう。

 まず、最重要目標の
東京一極集中の是正は、成果が上がっておらず、むしろ悪化した。19年の地方から東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)への転入者数は約49万8000人で、15年に比べて約1万人の増加。東京圏から地方への転出者数は約35万2000人で、約1万6000人減だった。この結果、東京圏への転入超過は、15年の1・2倍にあたる約14万6000人に拡大した。

 
“少子化”と抱き合わせで、“東京一極集中排除”を論じては見たものの、“少子化”はもちろん、“東京一極集中排除”も、全く進展が見られず、今後の見通しも全く立たないところから、降って湧いた新型コロナ“災難”を、これ幸いとばかりに、急遽これに便乗したというのが現状です。

 
一方、創生本部は、地方での若者の定着に欠かせない職場の確保などの分野について「目標達成に向けて進捗している」と合格点をつける。地方での若者の雇用創出数は、15年から24万人増の34万人で目標を達成。都市部の若者らが地方で働く「地域おこし協力隊」の参加者は15年度の2倍の5466人だった。

 ◎感染拡大

 新型コロナウイルスの感染拡大で明暗が分かれた目標もある。テレワーク導入企業(従業員100人以上)の割合は
35%程度を見込んでいた。19年度は20・2%と伸び悩んでいたが、内閣府が5、6月に実施した調査によると、「不定期に」を含め、34・6%の人がテレワークをしており、20年度の導入企業は大幅に増えそうだ。一方、インバウンドの活況で、訪日外国人旅行者数は3188万人と大きく伸びた。しかし、20年上半期の訪日外国人は約395万人で前年同期比76・3%減となっており、目標達成は困難だ。

 主な
目標成果が掲げられていますが、ここには2014年の総合戦略で決定されたと言う、2060年に人口1億人程度と言う目標に対する達成状況は、何も記されていません。「人口1億人程度」云々の話は、地方創生とは直接関係がないと言う事です。
 もう一つ、
外国人観光客の減少をこの場で、テレワークと対比するような形で持ち出して論じる意味が分かりません。「地方創生」には、外国人観光客数の目標もあるのかもしれませんが、国内人口の集中・分散の議論の中で話が混乱するだけです。

 それにしても
東京一極集中問題”が、少子化問題新型コロナなど、何か国家にとって重大な懸案事項が認識される都度、その別の懸案に絡める形で、論じられるのはなぜでしょうか。

2.地方創生(東京一極集中の是正)とは何か

 
◎若者転入

 雇用などの目標は「進捗している」のに、なぜ一極集中が加速しているのか。基本方針の策定に当たった木下賢志・前地方創生総括官は、「
地域おこし協力隊などの経験を生かして地方で起業する動きや、サポートする民間組織の活動が5年間で加速したが、若い人が東京圏に転入する大きな流れを食い止めるには至らなかった」と分析する。

 19年の場合、15〜29歳の東京圏への転入超過数は約13万2000人で、全体の9割を占める。15年から2割ほど増えている。当初から懸念された通り、多くは、大学などへの進学や企業への就職だ。地方で
地元の大学に進学する人の割合について、15年度の32・3%を20年度には36%に引き上げる目標を定めていたが、19年度は34・1%にとどまった。

 
“東京圏一極集中”が問題で是正が必要と言っていますが、ではどうしろと言うのでしょうか。まず、@“東京”が問題なのか、A“一極”が問題なのか、Bその双方が問題なのかいずれなのでしょうか。@の場合、“大阪圏一極集中”なら問題ないのか、次にAの場合“東京・大阪2極集中”なら問題ないのか、Bの場合であれば“大阪・名古屋2極集中”であれば、問題では無いのでしょうか。
 もし、
@であれば、なぜ、大阪では良くて東京ではだめなのかという反論が出ます。Aであれば、なぜ2極は良くて1極はだめなのかと言う事になるでしょうし、Bであれば、なぜ東京はだめ、1極はだめなのかとなるでしょう。
 
@の“大阪圏一極集中”も、Aの“東京・大阪2極集中”も、Bの“大阪・名古屋2極集中”も、すべてがだめだというのであれば、そもそも、“東京一極集中”というネーミングが、問題の本質からずれていると言う事になると思います。

 そうなると東京一極集中排除の意味・目的がはっきりしませんが、とりあえずそれは置いとくとして、次は、“地方創生”と“東京一極集中排除”の関係はどうなのでしょうか。“東京一極集中排除”が実現すれば(結果が@、A、Bのいずれであっても)、“地方創生”も達成されたと考えて良いのでしょうか。それとも両者は別問題なのでしょうか。とすれば、なぜ両者をセットにして議論するのでしょうか。地方創生は何を以て
目標達成となるのでしょうか。

 そもそも
問題認識が明確で無いのです。“東京”も“一極”も“地方創生”も、いずれも、かけ声に過ぎず、本音は別の所にあるように思われます。

 (論点が少しずれますが、安倍政権は感染者数が多いことを理由に、「Go To トラベル」から東京だけを排除しましたが、本来このキャンペーンが、感染症対策と言うより、
観光関連業界の救済策であるという観点で考えれば、東京の観光関連業界だけを放置することは出来ないはずですが、現実的には何の代替策も採らずに放置していることと、大阪が急増しても除外の可能性が無いところを見ると、@の要素は否定出来ません。菅官房長官も「東京の問題」と公言しました。これは許される事ではありません)

 つまり“地方創生”、“東京一極集中是正”は、過疎地、人口減少地域に住む住民達が、自分たちの要求を正当化するための
“聞こえの良いかけ声”に過ぎないのでは無いでしょうか。
 その要求とは、刻々と
変化する世界の中で、自分たちが“痛みを伴う変化への対応”を迫られること無く、長年住み慣れた今の環境、今の職業で現在の生活水準を維持したい、と言う事では無いのでしょうか。結果的には、“過疎”を補助金で薄める「補助金依存の地方創生」と言うことになるのでは無いのでしょうか。

3.「地方創生」の問題点
 記事は「最重要目標の
東京一極集中の是正は、成果が上がっておらず、むしろ悪化」と言っています。頭から“東京一極集中”を“是正を要する「悪」”と断罪していますが、人口の増加(減少)は全国一律で無ければならないというルールがあるわけではなく、人口の大都市集中は、デメリットがあるとしても、メリットもあるはずです。反対に“地方分散”メリットがあるとしても、デメリットもあるはずです。
 “東京一極集中”がデメリットだけでメリットが無く、“地方分散”がメリットだけでデメリットが無いなら、何の議論も不要かもしれませんが、それは現実ではありません。そうである以上は、
それぞれのメリット・デメリットを比較検討する議論が必要ですが、今までの議論にはそれが欠けています。

 その検討もしないうちから、
“是正”という言葉を使って、「東京一極集中」を“悪”と断定するのは、非論理的な議論であって、健全な“編集委員”のする事ではありません。

 わが国の国民には、
住居移転の自由職業選択の自由があります。自由の中で選択された結果は、国民の意思として尊重されるべきです。これが原則です。安倍政権が東京都に課している、大学の定員増員制限などの“短絡的・直接的”規制強化は、学問、職業選択の自由、住居移転の自由に反して有害です。

 
雇用全体の量をある程度確保できても、若者が希望する職種が足りていない可能性が高い。働きがいのある仕事や魅力ある進学先を作り、若者の地方への定住希望をいかにかなえるかが課題だ。

 何やら
失業対策事業を窺わせる表現で、意欲・能力のある若者には魅力的とは思えず、とても地方創生には結びつきそうもありません。
 それよりも、地方衰退の一因は、大企業が
地方の工場を閉鎖して、製造拠点を中国他の海外に移転させたことが大きいと思われます。
 日本国内の
産業構造が、「大量生産商品の製造業」から、「情報・サービス業」「高度技術の非大量生産品の製造業」「金融・証券業」などに変貌を余儀なくされたのです。
 その意味では
「地方創生」の発想は、時計の針を一昔前に逆回転させんとするに等しく、原因分析と対策の点で的外れと言わざるを得ません。
 この点を改善するのなら、今安倍政権が進めようとしている、海外(中国・韓国)に移転した
製造拠点の、国内回帰促進は有効だと思います。

リモートで働く選択肢…移住に関心高まる


コロナ禍で利用者が増えたテレワーク 



 
17日の基本方針は、新型コロナの感染拡大に伴う国民や企業の意識の変化を踏まえ、重点的に取り組むべき地方創生策を示した。創生本部が19年末にとりまとめた、総合戦略第2期(20〜24年度)における施策や数値目標が前提となっている。

 「
集中から分散へ。日本列島の姿を今回の感染症は根本から変えていく。その大きなきっかけとし、地方創生を新たなステージへと押し上げたい」。安倍首相は15日の「まち・ひと・しごと創生会議」で、こう強調した。


4.“スローガン」と“かけ声”だけで進んでゆく安倍政権

 今までの安倍総理のしてきたことは、素人向けの
「地方創生」という安っぽい“キャッチ・フレーズ、かけ声”を叫ぶだけで、問題点の明確化も、原因の把握も、明確な対策の提案も、達成すべき目的・目標設定も、何の提示も無く途中経過・進行状況の確認も無く、ただスローガンを叫び続け使途を問わない補助金をばらまくだけでした。

 地方創生は平成26年スタートで、6年経過しましたが、目標達成状況は「最重要目標の
東京一極集中の是正は、成果が上がっておらず、むしろ悪化した」と記事にある通りの状況であり、人口1億人程度については、何も報じられていません。

 安倍政権が今までの6年間で
成果が上がらなかったことには触れずに、新型コロナに便乗した言葉に換えて、スローガンの延命を図るのは無責任極まります。

 この政策そのものが、今まで指摘したような根本的な問題(東京一極集中の
何が問題なのか、集中と分散のメリット・デメリットは何か未確認など)を抱えている以上、“砂漠に水を撒く”に等しい地方創生は中止して、安倍総理・菅官房長官以下は真剣に反省すべきです。

 かつて「首都移転」というテーマがあり、長年政府の審議会などで、低調な議論を続けていましたが、具体的には何の進展も出来ず、具体化の展望が開けず、議論が消滅・終息した歴史があります。
 今回の“地方創生”、“東京一極集中の是正”議論は、それに比べても、単なる
軽薄なスローガンの連呼に終始していて、議論にもなっていないレベルの低さで、政治家(と、それを批判しない学界、マスコミ)のレベルの低下は深刻だと感じます。

 
基本方針が、「3密」を避けるコロナ対策として重視するのがリモートワークだ。地方への事業移転や移住を進める好機として、企業のサテライトオフィスの誘致などを推し進める。創生本部は「パソコンを家に持ち帰って働くテレワークにとどまらせず、働く場所を本社から地方に広げるリモートワークを推進したい」と説明する。

 内閣府の調査では、コロナ禍を契機に
テレワークを経験した人の25%が、「地方移住に関心が高くなった」「やや高くなった」と答えた。この関心を地方移住につなげるには、移住希望者や企業、受け入れ自治体に対する、実効性のある支援策がカギになる。

 基本方針は、「
地方国立大学の定員増、企業との連携強化」など、地方大学の魅力を高める改革案を新たに掲げた。「地方の特色ある大学が人材を育成し、受け皿となる企業がイノベーションを進めることが重要だ」と木下氏は語る。

 今春、
コロナ禍により、多くの大学がオンライン授業に切り替えたが、地方大学には地理的なハンデの解消というプラスの側面もある。

 
独自の少人数英語教育で全国から学生が集まる国際教養大学(秋田市)は今後、海外の有名大学と提携したオンライン授業も計画している。大学事務局は「教室のスクリーンで講義を受けてもいいし、自宅からの参加も可能」と説明する。

 地方創生に詳しい、みずほ総合研究所の岡田豊主任研究員は「看板科目を持つ地方大学が、いかにオンライン授業の質を高め、学生を集めるのかが試金石となる」と指摘している。

 ◆リモートワーク=情報通信技術(ICT)を活用し、会社から離れた場所で働くこと。1970年代から使用されているテレワークが、「場所や時間にこだわらない柔軟な働き方」と定義されるのに対し、リモートワークは場所が遠隔であることに重点が置かれる。近年、IT系企業を中心に、使われるようになった。


 もう一度繰り返します。
 長年
“少子化”と抱き合わせで、“地方創生・東京一極集中排除”を主張して対策を実行してきたものの、“少子化”はもちろん、“東京一極排除”も、全く進展・成果が見られず、今後の見通しも全く立たないところから、降って湧いた新型コロナ“災難”に、これ幸いとばかりに、急遽これに便乗したというのが現状であり、この記事のすべてです。

 しかし、彼らにとっては
“天佑”とも思われた新型コロナも、ワクチンが開発されれば消滅することはほぼ確実です(だから彼らは急ぐのです)。そうなった時に「リモートワーク」、「テレワーク」などを拙速に推進していれば、期待された成果が得られ無いだけでなく、拙速のツケだけが回ってくる事は避けられないと思います。

 「少子化対策の破綻と言論の自由が無い社会」に、「地方創生
(地方への補助金バラマキ)と、東京一極集中排除(短絡的な規制の増加)破綻のツケ」が上乗せされて、日本に大きな禍となることは絶対に避けなければならないと思います。

令和2年7月27日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ