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一見“こどもの発想”に見える「こども庁」構想 −隠された真の狙いは「幼保一元化」による幼稚園潰し(保育園化)−
8月12日の読売新聞は、「『こども庁』創設へ加速…政府、来年度目指す」と言う見出しで、次の様に報じていました。
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[スキャナー]「こども庁」創設へ加速…政府、来年度目指す
2021/08/12 05:00 読売
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虐待・貧困・教育施策を一元化
政府は、子ども関連の施策を束ねる「こども庁」の2022年度中の創設に向けて動き出している。菅内閣が掲げる「縦割り打破」の一環で、次期衆院選に向けて、こども庁が扱う政策の具体化を急ぎたい考えだ。焦点となっていた幼稚園と保育所を一括して所管する「幼保一元化」が当面見送られたことで、その効果は限定的だとの見方も出ている。(政治部 薩川碧、三沢大樹)
首相肝いり
「年齢による切れ目、省庁間の縦割りを排して、子どもや子育て世代の視点、それぞれの立場に立った子ども政策を総合的、包括的に進めていきたい」
加藤官房長官は10日の記者会見で、こども庁の意義について、こう語った。
7月に発足した検討チームは、内閣官房に設けられ、厚生労働省や文部科学省、内閣府などの関係省庁から職員を集めて十数人体制で実務に当たっている。
こども庁の設置法案を来年の通常国会に提出する方向で、年内にも基本方針を策定し、具体的な制度設計や設置法などの関連法案作成に着手する。
こども庁創設は、子ども関連の施策について、「省庁縦割りで(所管が)七つも八つもある」と問題視する菅首相の肝いりで進んでいる。
首相は4月、この問題について、自民党の二階幹事長に党総裁直属本部を設けて検討を進めるよう指示した。これを受け、総裁直属本部は6月、「総合調整機能を持つこども庁を創設して担当閣僚を置く」などとする緊急決議を取りまとめた。本部長の二階氏は「子ども関連予算も思い切って増額してもらいたい」と強調した。
衆院選対策
こども庁創設に向けた動きが加速したのは、秋にも行われる衆院選対策の狙いがある。
菅内閣は新型コロナウイルス対応の迷走などで、厳しい立場に置かれている。このため、不妊治療助成や携帯電話料金の引き下げなどの実績に加え、こども庁創設の道筋をつけることで、若い世代の支持拡大を狙う思惑もあるとみられる。
所管バラバラ
こども庁が扱うテーマは、複数の省庁が絡む児童虐待や子どもの貧困、学力格差などが想定される。子育て関連の現金給付を例に挙げると、児童手当は内閣府、児童扶養手当は厚労省、就学援助は文科省などと所管がバラバラだ。こども庁が一元的に管理すると、手続きの効率化や支給内容の充実などにつながるという。
千葉県八街市で6月、児童5人が死傷した交通事故を受け、子どもの安全をこども庁が担う案も浮上している。対策の一つであるスクールバスの導入を巡っては、国土交通省や文科省など所管が多岐にわたるためだ。政府関係者は「子どもの命を守るための機能は、こども庁にまとめた方がいい」と強調する。
自民党有志議員の試算によると、新庁に関係する法律は60本にもわたり、関連施策は100超に上る。今後、検討チームを中心に精査していく予定だ。
厚労省内では他の国会提出法案を絞ってでも、こども庁関連法案に集中するよう指示が出ているという。
改革の要「骨抜き」批判も…幼保一元化は先送り
こども庁創設に向けては、多数の省庁にまたがる施策の所管をどのように一本化するかが最大の課題だ。既に各省庁による主導権を握るための綱引きが始まっている。関係者によると、首相が創設に意欲を示した4月以降、関係省庁の職員が非公式の新庁の組織案などをつくり、自民党の族議員らに説明に回ったという。
子ども関連の施設は現在、子どもの教育を目的とした幼稚園、働いている親の代わりに子どもを保育する福祉目的の保育所、その両方の機能を併せ持つ認定こども園の三つがある。幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省、認定こども園は内閣府が所管している。
こども庁創設を巡っては幼保一元化が実現するかどうかに注目が集まったが、政府は当面見送る方針を決めた。省庁や族議員の抵抗が予想されるため、まずはこども庁創設を先行した形だ。菅首相は周辺に「組織を創設して幼保は後でまとめればいい」と話す。
幼保一元化の議論は、過去にも度々浮上したが、省庁間の対立や関係団体の抵抗などがあり、実現していない。
2003年には小泉内閣が行政改革の一環として、幼保一元化を目指した。厚労省と文科省などが反対したため、折衷案として、06年に認定こども園ができた。
09年の麻生内閣でも、厚労省の分割論に伴って幼保一元化が浮上した。分割後に幼稚園と保育所を一元的に担当する部局を新設する案も出たが、断念した。
民主党は09年の衆院選政権公約で、「子ども家庭省」の創設を掲げた。鳩山内閣は幼稚園と保育所を認定こども園へ一本化することを検討したが、頓挫した。その後、認定こども園は、12年に野田内閣で成立した子育て関連法により、文科省と厚労省にまたがっていた窓口が内閣府に一本化されることが決まり、15年度から適用された。
自民党内には、こども庁創設について、「幼保一元化という肝心なところを先送りして骨抜きになった」との声も出ている。政府の子ども関連政策に関わる 柏女霊峰かしわめれいほう ・淑徳大教授は、「福祉と教育の統合など幼保一元化の議論を抜きに子どもの政策を一本化するのは難しいだろう。内閣府に続く新たな調整官庁になるだけではないか」と懸念する。
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記事では、「虐待・貧困・教育施策の一元化」と、「児童虐待や子どもの貧困、学力格差」を課題として、「年齢による切れ目、省庁間の縦割りを排して、子どもや子育て世代の視点、それぞれの立場に立った子ども政策を総合的、包括的に進めていきたい」と報じていますが、それら児童虐待や子どもの貧困の原因を何も考えず、議論もせずに新しい組織「こども庁」の創設の議論が先行しています。
これは先ず、「こども庁」ありきの,常識では考えられない本末転倒の議論と言わざるを得ません。記事に「衆院選対策の狙いがある」とあるように、「無能をさらけ出し続けて不人気が加速している」菅総理の人気取り対策である事は明らかです。
早くも二階幹事長は「子ども関連予算も思い切って増額してもらいたい」と、大金をばら撒く気満々の様子です。
そもそも、「児童虐待」は家庭・夫婦の問題も絡む事がほとんどであり、「こどもの貧困」は当然「親の貧困(母子家庭の増加)」ですが、「縦割り廃止」とはこれらの問題をこども庁が一手に扱い、法務省,経済産業省、厚労省などは手を引くと言う事なのでしょうか。新たな「縦割り」、或いは「二重」行政を生むことになるのでは無いでしょうか。
何を基準に省庁を設置するかと言う原点に立って考えれば、国民の性別や年齢によって設置するのであれば、「こども庁」の後は、こども以外の人を対象にした「青年庁」、あるいは「老人庁」等が必要になるという議論に繋がる可能性があります。その方向で行けば家族制度、経済問題、福祉制度等は、「こども庁」、「青年庁」、「老人庁」等に「横割り」で分担して担当されることになりますが、果たしてそれは望ましいことなのでしょうか。
既存の法務省、厚労省、経産省などとの関係はどうなるのでしょうか。やり方によっては、行政の肥大化・更なる二重化を招来しかねません。
記事にある「こども庁が一元的に管理すると、手続きの効率化や支給内容の充実などにつながる」と言う一文からは、彼らが考えていることは、「対象療法」だけで、「児童虐待」、「こどもの貧困」の解消、根絶ではないと言う事がよく分かります。
今のまま児童虐待や子どもの貧困の原因を究明しないで、対策(こども庁の創設)を進めれば、同じように問題の原因を究明せずに、偽りの少子化対策(共働きの母親に対する育児支援)が先走りし、何の成果も上げることなく今日に至った「少子化対策」と、同じ結果を迎えることは明らかだと思います。
次に「教育施策の一元化」、「学力格差」の問題は、どちらとも現状では専ら文科省の担当分野であり、“縦割り”行政の実態はありません。逆に一部を「こども庁」に移管する方が新たな縦割りを発生することが懸念されます。
それともここで言う一元化とは、「幼保一元化」を意味しているのでしょうか。
そう言われてこの記事を見返してみると、記事の後半からは,論じているのは「幼保一元化」に関してだけであり、前般とは比べて非常に熱心に主張がされています。
しかし幼稚園と保育園は明らかに目的が異なり、対象のこどもも別々です。“縦割りの弊害”すなわち、幼稚園あるいは保育園の児童・父母が、文科省と厚労省という二つの官庁に手続きを強いられるという“縦割りの弊害”があるとすれば、それはこどものうち兄は保育所、妹は幼稚園という家庭だけです。
それに保育所は教育施設ではありませんので、「教育施設の一元化」という表現は当たりません。
それにも拘わらず、ここ(こども庁の議論)で「幼保一元化」を持ち出すのは、明らかに“便乗”であり話しのすり替えです。報じる者、主張する者に、不純な“他意”が有ることは明白です。
記事では、幼保一元化が進展しない原因について、「省庁間の対立や関係団体の抵抗」とだけ書いて「対立」と「抵抗」の概要、肝心の当事者(幼稚園・保育園の父母)の意見など、重要な点を全く無視して報じていませんが、これは情報操作(隠蔽)に該当します。
「『幼保一元化』が当面見送られたことで、その効果は限定的だとの見方も出ている」とありますが、これはこういう見方をする人達にとって、こども庁創設の目的は、「幼保一元化」であり、「児童虐待」、「こどもの貧困」云々は、本音を覆い隠すカモフラージュにすぎないと言う事を意味していると思います。
令和3年8月13日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ