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法務省の「侮辱罪厳罰化」発想は、韓国の「名誉毀損」厳罰主義に酷似している −日本の劣化(韓国化)を推進する上川法相の「狭視野」、「単細胞思考」−
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SNS上のひぼう中傷対策強化 侮辱罪に懲役刑の導入 諮問へ 法相
2021年9月14日 12時42分  NHK

 SNS上の
ひぼう中傷対策の強化に向けて、上川法務大臣は、人を侮辱した行為に適用される侮辱罪について、法定刑の上限を引き上げて懲役刑を導入する方針を示し「1年以下の懲役・禁錮」などを追加するよう、16日に法制審議会に諮問することを明らかにしました。

 SNS上での
ひぼう中傷をめぐっては、去年5月、民放の番組に出演していたプロレスラーの女性が自殺し、対策の強化を求める意見が強まっていて、ことし4月には、投稿した人物を速やかに特定できるよう、新たな裁判手続きを創設する「改正プロバイダ責任制限法」が成立しています。

 上川法務大臣は、14日の記者会見で「インターネット上の
ひぼう中傷は、同様の書き込みを誘発し、取り返しのつかない重大な人権侵害につながるものであり、決してあってはならない」と述べました。

 そのうえで上川大臣は、公然と人を
侮辱した行為に適用される侮辱罪について、現在の法定刑が刑法では最も軽い「拘留」か「科料」となっていることから、罰則を強化して懲役刑を導入する必要があるとして、16日に法制審議会に諮問することを明らかにしました。

 具体的には、法定刑の上限を引き上げて「
1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を追加するよう求めていて、引き上げが実現した場合、現在は1年となっている時効も、3年に延びることになります。
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 社会で生活する中で、人と人との
摩擦は多かれ少なかれ避けられないもので、口論・罵倒もある程度避けられません。きれい事では済まないのが現実です。しかし、それを“侮辱”として捉え、刑事罰を課す、厳罰に処するという発想は、国民の口を封じることに通じるもので、“基本的人権”の観点から、慎重さが求められます。

 人権は
すべての国民にあるもので、“被害者”だけの人権を考慮れば良いと言うものではありません。
 “人権問題”の
本質は、人権と人権が衝突する中で、どちらの人権を優先するかと言うものであるにも拘わらず、上川法務大臣の発言には、そのような視点は皆無です。

 上川法相の「
ひぼう中傷は取り返しのつかない重大な人権侵害につながるものであり、決してあってはならない」と言う発言は、人権の中で、無条件に保障されている、モノを言う自由言論の自由への懸念・配慮が皆無です。これは目先の事しか見ない(見えない)・考えない、「狭視野」「単細胞思考」の典型です。

 この記事には
“侮辱”、“誹謗中傷”と言う言葉が繰り返し使われているにも拘わらず、その定義・実例具体的かつ詳細に何も表示されておらず、プロレスラーについても、その出演から自殺に至る経緯が詳細には報じられていません。また、このような深刻な事例が頻発しているかどうかも不明です。読者・視聴者・国民の“知る権利”に応えず、“知らせない権利”を行使しており、諮問する者、報道する者として極めて無責任です。

 これは
「ヘイト・スピーチ」「差別」の明確な定義もないまま、その一言で言論の自由を封じた誤りの繰り返しです。際限もなく拡大解釈される恐れが十分あります。

 私はここで、
韓国の「名誉毀損」厳罰主義を想起しました。韓国では以前産経新聞の記者が、記事に書いたことが大統領に対する名誉毀損に当たるとして起訴されたり、全斗煥大統領が軍部のヘリ機射撃の事実を否定したことが、「死者名誉毀損(きそん)容疑」で起訴されたりしたことがありました。
 しかし、これを以て韓国を
「人権先進国」と評価する人は居ません。反対に報道の自由を制約する「人権後進国」の視点で批判されているのが実情です。

 つい最近でも下記の様な事例があります。
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言論統制法案 韓国はどこへ向かうのか
2021/8/29 05:00  産経

 価値観外交の根幹を成す共通の普遍的価値とは自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済―を指す。

 韓国で30日にも強行採決に持ち込まれる
「メディア仲裁法」の改正案は言論や報道の自由を侵害し、統治者も法によって拘束されるとする「法の支配」にも反する。

 韓国は誤った法治に陥ることなく、自由主義陣営のあるべき姿に立ち返るべきである。

 改正案は「
故意や重過失」による虚偽・捏造(ねつぞう)報道に損害額の最大5倍の賠償を報道機関に命じると規定し、訂正記事は原則、元の記事と同量で伝える、などとしている。だが基準が不透明で、政権による恣意(しい)的運用が懸念される。

 背景には、文在寅大統領の後継候補が次々と
スキャンダル失脚したことへの与党側の反発があるとされる。野党側はこれを「言論統制法案」と呼び、韓国記者協会は「メディアに猿ぐつわをかませる悪法」と酷評した。世界新聞協会は「改革の名の下に自由で批判的な討論を阻む最悪の権威主義政権になる」と批判している。

(中略)

 与党議員らは、
元慰安婦への名誉毀損(きそん)を禁じる法案も国会に提出したが、これはさすがに取り下げた。慰安婦問題について新聞や放送、ネットなどで虚偽事実を流布した者を罰する内容だが、元慰安婦や関連団体に対して、誹謗目的で事実を指摘する行為を禁じることまで条項に盛り込んだ。

 取り下げたのは、支援団体の前トップで寄付金や補助金流用の罪で起訴された尹美香議員も共同提案者に名を連ねていることから、当の元慰安婦らが「尹美香保護法だ」と強く反発したためだ。
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韓国と日本ではその背景が異なりますが、「人権擁護」を口実「人権侵害」に及ぶという手口とその方向性は完全に一致しています。上川法務大臣のしていることは、“人権後進国、韓国”の後追いです。

 
新聞・テレビ発信力は極めて強力かつ一方的で、受け取る側がそれに反発・反論することはほとんど不可能です。ネットなどを通じてする反発・反対者の反論・批判がある程度過激になるのはやむを得ないところです。
 
テレビに出演すると言うことは、潜在的に反対者の批判・非難を浴びるリスクを伴うものとして、ある程度のリスクは「“出演料”に含まれる」として覚悟すべきです。

 法務省側がそれにも拘わらず、一方的に新聞・テレビなどの
メディア側に立って罰則の強化で対応するのは、新聞・テレビ業界の競争相手である「ネット」に対する敵視であり、メディアに対する迎合と考えられます。

令和3年9月17日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ