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無戸籍者対策」を口実に“男女平等”イデオロギーにより進められる民法改正の執念 −法制審議会(法務省)とその相棒(読売新聞・マスコミ)の暴走−

 2月1日の読売新聞は、「女性の
「再婚禁止期間」廃止など盛り込む…法制審が要綱案決定」と言う見出しで、次の様に報じていました。
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女性の
「再婚禁止期間」廃止など盛り込む…法制審が要綱案決定
2022/02/01 22:02  読売

 
法制審議会(法相の諮問機関)の部会は1日、子が生まれた時期によって父親を推定する嫡出推定規定の見直しや女性の再婚禁止期間の廃止を盛り込んだ民法改正の要綱案を決定した。再婚後に生まれた子は原則、現夫の子と推定する。14日に古川法相に答申され、政府は2022年中の国会提出を目指す。

法務省
 嫡出推定規定の見直しは、明治時代の民法制定以来、初めてとなる。現行法では、
離婚後300日以内に生まれた子は別れた夫(前夫)の子とし、婚姻から200日経過後に生まれた子は現夫の子と推定している。前夫の子と見なされることを避けるため、母親が出生届を提出せずに、子が無戸籍となる要因となっていた。

 要綱案では、現行法の規定を維持しつつ、母親が別の男性と
再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定するという例外規定を設ける。妊娠を機に結婚するケースに対応するため、結婚から200日以内に生まれた子も「夫の子と推定する」と改める。

 女性は、離婚してから100日を経過しないと再婚できないと定めていた「再婚禁止期間」は、嫡出推定規定の見直しに伴い、
制度の必要性がなくなるため廃止する。

 嫡出推定による父子関係を否定する
「嫡出否認制度」も見直す。父親だけに認められている権利を、母親と子にも拡大する。父親が出生を知ってから1年までしか認められていなかった訴えの期間は、原則「3年以内」に広げる。子の場合は、父と3年以上継続して同居したことがないといった要件を満たせば、21歳になるまで訴えを起こすことができるようになる。

 一方、18年に東京都目黒区、19年に千葉県野田市でそれぞれ起きた児童虐待死事件をきっかけに、民法の
「懲戒権」についても見直しが進められた。

 「
虐待を正当化する口実になっている」と指摘される懲戒権の規定は廃止し、「体罰」と「心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動」を禁止する規定を盛り込む。
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 今回の民法改定案の目的は何なのだろうか。
 記事の見出しでは、
「女性の『再婚禁止期間』廃止」 とありますが、記事の中を読むと「嫡出推定規定」の改訂により、「無戸籍」の子が発生するのを抑止する事が目的のようでもあり、さらに「『再婚禁止期間』は、嫡出推定規定の見直しに伴い、制度の必要性がなくなるため廃止する」とあるので、「女性の再婚禁止期間の廃止」は、「嫡出推定基準の変更」に付随して発生した事項であると読めます。しかし、それならなぜ「女性の『再婚禁止期間』廃止」が記事の見出しになるのかという疑問が湧いてきます。

 翌日2月2日の読売新聞には、「『無戸籍』発生防止狙う…民法改正要綱案」と言う見出しの次の様な記事がありました。
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「無戸籍」発生防止狙う…民法改正要綱案
20220202 05:00  読売


 法制審議会の部会が1日にまとめた民法改正要綱案は、
嫡出推定に関わる規定変更重点が置かれた。嫡出推定制度が、無戸籍者問題を生み出す一因となっていることが背景にある。

「現夫の子」推定…出生 届け出後押し
7割以上が
 法務省によると無戸籍者は、全国で
825人(今年1月時点)に上り、このうち7割以上の591人が、無戸籍の理由として嫡出推定を挙げている。現行法では、離婚後300日以内に生まれた子は、別れた夫(前夫)の子と推定されるため、子が前夫と血縁関係がなくても、法律上は前夫の子とみなされる。それを避けるために母親が出生届を出さずに、無戸籍者がうまれてしまう現状がある。

 無戸籍者は、一定の要件を満たさなければ住民票を取得することができず、銀行口座の開設や部屋の賃借が難しいなどのデメリットがある。2007年ごろから国会などで頻繁に取り上げられるようになり、問題が顕在化した。

時代の変化
 本来、
嫡出推定は、結婚と妊娠・出産の期間をもとに、生物学的な親子関係を確認することなく速やかに父子関係を確定し、扶養を受ける子の権利を守ることが狙いだ。規定自体は、明治時代に設けられたが、結婚前の妊娠や、DNA鑑定の技術の進歩で血縁関係が特定しやすくなったことなど、時代の変化に制度が追いついていなかった。

残る課題
 今回の
嫡出推定の制度改正は、無戸籍者の発生防止に向けた一歩だが、課題は残る。「離婚後300日以内に生まれた子は、前夫の子と推定される」という規定が維持されるため、母親が再婚しなければ、無戸籍者が生まれる可能性がある。

 DV(家庭内暴力)被害者の救済も課題だ。無戸籍問題に取り組む高取由弥子弁護士によると、DVを受け夫から逃げている女性にとって、離婚訴訟は心理的なハードルが高く、手続きを進められないことがあるという。高取氏は「今回の改正では、離婚成立前に出産し、子が無戸籍となってしまうDV被害者は救済されない」と指摘する。
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 この記事では、「民法改正要綱案は、
嫡出推定に関わる規定変更重点が置かれた」と明言されています。
 今回の民法改正案では、母親の再婚後に生まれた子どもの父親が、現在では母親の離婚後
300日以内に生まれた場合は前夫とされ、再婚後200日経過後の場合は再婚後の現夫とすると、推定が別れていたものが、再婚後に生まれた場合は再婚後の日数に拘わらず、すべて再婚後の現夫を父親と推定すると基準が単純化されました。

 これは単に「嫡出推定」の
推定先を前夫から現夫に変えただけで、その根拠となるデータ等は明示されておらず、推定先がすべて事実とは限らないことは今までと何も変わりません。従って、「無戸籍リスク」も無くならないと言うことになります。

 更に“嫡出推定基準”の変更に“付随”した改正とは言え、「女性の『再婚禁止期間』廃止」により、離婚から再婚までの期間が短縮されれば、今までよりも“重複期間”(不倫期間)、“接近期間”が存在する可能性は増し、“嫡出推定”が“外れ”となる事態が増えるのではないでしょうか。更にこの点は「無戸籍リスク」の増加に繋がる要因ではないでしょうか。

 こう考えてくると、「
『嫡出否認制度』も見直す。父親だけに認められている権利を、母親と子にも拡大する」と言う部分は話しが繋がってきます。“嫡出推定”の“外れ”が減らない(無くならない)事は前提とされているようです。

 しかし、よく考えてみると、
“嫡出子か否か”という問題は、父親母親にとっての重要度が同じではありません。
 
父親にとっては自分の子か否かと言う極めて重大な問題ですが、母親にとっては自分の子である事は、父親が先夫、現夫のどちらであろうと変わりなく明らかなことです。父親の異なる子を持つ事は、離婚・再婚を経験すれば普通に経験することです。もし、父親がどちらかはっきりしないという事態があったとすれば、それは“不倫行為”に近いことをした自分の責任です。
 また、
にとっては父親にとってと同様、自分の本当の父親はどちらなのかという極めて深刻な問題です。従って、父親と子に嫡出否認の権利が認められるから、当然母親にもと言う理屈にはなりません。これは“男女平等”の問題では無いはずです。

 今回の
改正の目的は嫡出推定の誤りを減らし、無戸籍者を減らすことでは無く、また実際に減ることを期待するものでも無く、すべての面で男女の“平等(平等以上?)”を図ることが唯一・最大の目的と見られます。“無戸籍云々”は口実に過ぎないのです。

 現在の
無戸籍者825人の内、実際の父親ではない前夫が戸籍上の父親とされるのを忌避するために、出生届け出をしなかったものが591人とされていますが、この数字が全世代・全年齢の数だとすると、1年で10人程度の発生となると思います。大騒ぎするには少なすぎる数という感じがしないでもありません。
 また、
同じ環境でもきちんと出生届け出をした母親有無・人数には何も触れていませんが、この問題の可否を判断する上で重要なデータだと思います。なぜ言及しないのでしょうか。公表されては困ることがあるのでしょうか。

 更に上記の図を見ると
下記の赤線の部分に違和感を感じます。



 この図では、再婚禁止期間の撤廃が、「民法改正の中心」という形で図示されています。

 「再婚禁止期間」の
『撤廃』の文字が大きくオレンジ色で書かれ、下向きの矢印で『撤廃』が「嫡出推定」の改正をもたらした基軸であることを示しています。更に「改正要綱案」の「前夫の子」と「今の夫の子」との境界線は、現行法の100日の境界線よりも左に寄り、再婚が100日後よりも早まったこと(再婚禁止期間が撤廃された事)を前提とした説明になっています。

 これらの点は、「再婚禁止期間の廃止」は今回の民法改正の目的では無く、目的は「無戸籍者」の発生を防止するための嫡出推定基準日の変更(離婚後300日から再婚の日へ)であるとし、「『再婚禁止期間』は、嫡出推定規定の見直しに伴い、
制度の必要性がなくなるため廃止する」という説明とは相容れません。

 以上の2月1日と2月2日の二つの記事は、文章の書き方から、どこからどこまでが
法制審議会の答申で、どこからどこまでが読売新聞の見解・意見なのかの区別がつきません。それほど両者(法務省とマスコミ各社)は渾然・一体の関係なのだとすれば、改めて異常であると感じると共に、両者は入念に準備の上で、今回の発表に至ったものと思います。

 この両者はもはや「行政官庁」と「マスコミ」という関係から
脱線しているのです。ある意味で今回の(案)は両者の合作と言って良いものだと思います。この関係は、“女性による男性強姦罪”創設“18歳成人、結婚年齢の男女18歳統一”以来、一連の男女平等イデオロギーに基づく民法改正で顕著と言って良いと思います。

令和4年2月11日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ