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銀行に相手にされなかった金融再生委員会

 銀行への資本注入に向けて予備審査中の金融再生委員会が、各銀行頭取へのヒアリングを進めたところ、いずれも答えが画一的であったことが報じられました(2月4日産経新聞)。再生委員会では、これまで大手6行トップのヒアリングを実施したが、各頭取の答えは判で押したように同じで、「テープレコーダーを回しているようだ」と皮肉る声が再生委員の間で出たそうです。

 再生委員がどのような質問をして、頭取がどのような答えをしたのか詳細は明かではありませんが、このように各行の頭取が、「画一的な答え」しかしなかったことをどう理解すべきでしょうか。再生委員会は共通のネタ本(「金融業 勝者の戦略」東洋経済新報社)がある事を指摘しています。頭取達の回答は「全部この本に書いてあること」だったそうです。各頭取がネタ本を元に回答していると判断しているようです。しかし、なぜ頭取達が本音を語らず、ネタ本を元に回答をしたかについては何も書かれていません。

 企業トップは、競争が激化する中で、それぞそれ企業の将来をにらんで戦略を胸に秘めているはずです。本に書いてあるような通り一遍の答えしかできないようでは頭取失格です。そんな頭取がいるはずがありません。本音を再生委員に言わないのは再生委を信用できないからであり、また、言っても何のメリットもないからです。
 大蔵省や日銀の接待汚職の捜査の過程で、検査結果やヒアリングの内容が、ライバル行に漏れていたことが明らかになりましたが、厳しい処分も、反省も、謝罪もなく今日に至っています。このような「官」に対して、本心でヒアリングに応じる頭取がいるとは思えません。また、企業経営の経験が全くない官僚に銀行の企業戦略を理解できる能力があるのかはなはだ疑問です。

 大蔵省は97年5月、破綻に瀕した日本債券信用銀行を救済するための増資に当たって、民間金融機関に出資を強要しました。その際実際よりも不良債権の額を過小にした虚偽の検査報告書を作成し、また、同行の再建を保証した「確認書」を出していたことが判明いたしました。日債銀はその後突然、「債務超過である」として経営が破綻して国有化されてしまい、大蔵省の言うことを信じて出資に応じた金融機関は莫大な損失を被りました。しかるに、金融再生委員会の柳沢委員長は批判に対して、「今の制度を前提に過去を批判しても意味があるだろうか」とか、「賠償とか補償の問題になるなら、専門の弁護士や訟務官が対応するしかない」といい、金融監督庁の日野正晴長官は「監督庁が訴訟で被告となるならいくらでも受けて立つ」と言って完全に居直っています(平成10年12月23日朝日新聞)。

 自分の誤り、失敗を認めず、反省も、責任もとろうとしない、厚かましいだけの官僚のヒアリングに真剣に答える頭取がいるとは思えませんし、その必要もありません。「官」の信用は既に失墜しているのです。「官」がそれに気づかずにいるか、気づかないふりをしているだけなのです。今や、金融監督官庁はその権威も信頼も失墜し、その職責を全うできなくなりつつあると言えます。

平成11年2月28日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ