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官僚政治を支える、「有識者」と「マスコミ」

 3月9日の朝日新聞は、「警察刷新会議発足へ」、「座長に氏家氏」と言う見出しで、国家公安委員会が、新しく会議を発足させたことを次のように報じていました。

 「国家公安委員会は9日開いた定例会議で、警察行政のあり方を見直すための第三者機関として『警察組織刷新会議(仮称)』を発足させることを決めた。・・・メンバーは日本民間放送連盟会長の氏家斉一郎・日本テレビ放送網社長をはじめ、後藤田正晴・元内閣官房長官、整理回収機構の中坊公平弁護士ら6人が内定した」、
 「・・・メンバーは、ほかに大森政輔・前内閣法制局長官ジャーナリストの大宅映子氏、樋口広太郎・アサヒビール相談役名誉会長
 「同公安委は、『各分野の有識者の意見や広範囲の国民の声を反映させる』という観点で、第三者機関の人選をすすめていた」

 読売、産経の各紙も、ほぼ同様に今回の「警察組織刷新会議」の発足を好意的に(少なくとも批判的ではなく)報じていますが、はたしてこの会議の発足は望ましいことでしょうか。

 「有識者」が警察に意見を言うための組織としては、国家公安委員会があるはずです。そのメンバー構成は、企業経営者( 那須 翔 東京電力 相談役)、マスコミ企業経営者(新井 明 日本経済新聞社 相談役)、弁護士(磯邊 和男 元第一東京弁護士会会長)、官僚OB(渡邊 幸治 元外務審議官)、元大学教授(岩男 寿美子 慶応義塾大学名誉教授)となっていて、今回の「警察組織刷新会議」のメンバーと同じような構成です。
 その国家公安委員会の下に、さらに似たような会議を作るのは、「屋上に屋を架す」無駄なことではないのでしょうか。同じようなメンバー構成の、国家公安委員会が機能しなかったことが問題となっているのに、似たようなメンバーで別の機関を作っても、成果が上がるとは思えません。

 また、「警察組織刷新会議」を、第三者機関と言っていますが、国家公安委員会がメンバーを指名して作った会議が、はたして「第三者機関」と言えるのでしょうか。「第三者機関」であるとすれば、一体、誰と誰に対して「第三者」なのでしょうか。

 今回の「警察組織刷新会議」の発足とメンバーの人選は、国家公安委員会が自らしたのでしょうか。同じ3月9日の読売新聞は、「・・・警察庁では、同会議の性格を『意見聴取の場』と位置づけており、『メンバーの自由な意見を今後の警察改革に反映させていきたい』としている」と報じています。国家公安委員会は、またしても、警察庁の決定を追認しただけではないのでしょうか。

 朝日新聞は、「同公安委は、『各分野の有識者の意見や広範囲の国民の声を反映させる』という観点で、第三者機関の人選をすすめていた」と報じていますが、国民の意見を反映させるためには、民主政治のルールに則って、まず国民の正当な代表である、与野党の政治家、議員の意見を聞かなければなりません。国民の意見を聞くための機関を設けるならそのメンバーは、国会議員の指名、または推薦などの方法によるべきです。メンバーの選任過程が不透明では、「広範囲の国民の声を反映させる」ことにはなりません。

 2年ほど前、大蔵省が接待汚職で非難を浴びたときも、大蔵省は「大蔵省の行政の在り方に関する懇談会」(座長、瀬島龍三・伊藤忠商事特別顧問のほか、産経新聞、毎日新聞、日経新聞、読売新聞の各社社長がメンバーとして参加)を設置し、報告書をまとめましたが、喉元過ぎれば何とやらで、官僚制度は何も変わらず元の木阿弥となっています。これらの行政機関が作る「懇談会」は、結局、袋叩きにあった官僚が改善するふりをして、旧態依然の既得権を死守するための隠れ蓑になっているだけです。

 このように、発足の経緯、メンバーの人選から見て、到底「国民の多数意見」を反映するとは思えない「警察組織刷新会議」に、マスコミ業界がメンバーを送り込み、好意的に報道するのは、マスコミが自ら官僚政治に加担していると言われても仕方がないと思います。

平成12年3月13日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ