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住宅金融公庫は誰のためにあるのか(悪質なのは住宅金融公庫)

 6月15日の日経新聞は「住宅公庫、UFJの顧客情報流用に罰則」という見出しで、次のように報じていました。

 
「住宅金融公庫は14日、UFJ銀行が公庫の顧客情報を自行の営業に流用していたことに対する罰則として、7月中はUFJ銀を通じた新規融資の受付業務を停止すると発表した。・・・UFJ銀は公庫の代理店として新規融資の受け付けや返済金の回収に当たっている。UFJはこの業務を通じて知った顧客の借入金利や残高などの情報を使い、自行の住宅ローンに借り換えるよう勧誘していた。顧客のプライバシーを保護するため、公庫は代理店とこうした行為を禁じる契約を結んでいる。『UFJは本部が違反行為を行うように支店に指示を出しており、極めて悪質』(住宅公庫) 公庫は14日、代理店となっている約700の金融機関に対し、顧客情報の管理を徹底するよう求める勧告書を送付した」

 住宅金融公庫はUFJ銀行にペナルティーを科す根拠として、消費者のプライバシーの保護を口実にしていますが、顧客の個人情報は受託業務を通じてもともと知っていたことであり、UFJ銀行は銀行外にその個人情報を漏らしたわけではありません。どこからどう見てもプライバシーの侵害にはならないと思います。
 公庫が問題にしているのは、公庫との契約に違反すると言うことだと思いますが、消費者(住宅ローンの債務者)の立場で考えれば、このような契約が必要かどうか、消費者の利益に反しないかという観点から考える必要があります。

 今回、UFJ銀行がしたことは、住宅金融公庫の債務者に条件のよい銀行ローンの借り換えを勧めたと言うことですが、これが消費者の利益に合致することは言うまでもありません。消費者に有利な情報を知らしめないでおくことを保護する理由がありません。強いてその理由を挙げるとすれば、それは住宅金融公庫の存立にとって好ましくないから、と言うことしかありません。消費者は国の機関である住宅金融公庫のために、不利益を我慢する必要があるのでしょうか。

 そもそも、住宅金融公庫は住宅金融公庫法により、その存在理由が次のごとくに明示されています。

(目的)
第一条  住宅金融公庫は、国民大衆が健康で文化的な生活を営むに足る住宅の建設及び購入(住宅の用に供する土地又は借地権の取得及び土地の造成を含む。)に必要な資金で、銀行その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通することを目的とする

 民間の金融機関に出来ることを住宅金融公庫がすることは、法律違反なのです。住宅金融公庫が出来た昭和25年当時は、一般の銀行は個人に住宅資金を融資してくれませんでした。だからこそ、住宅金融公庫は存在意義があったのでが、それから時代が変わり、都市銀行を始めとした金融機関は住宅ローンに力を入れるようになりました。住宅金融公庫は必要なくなったのです。その、必要がなくなった住宅金融公庫が、その独占的な地位を利用して民間銀行の業務を妨害することは言語道断というほかはありません。

 そして、もう一つ言語道断なのは日経新聞です。この記事は完全に役所(住宅金融公庫)の立場で書かれていて、消費者、国民の視点が欠落しています。この三日後の6月18日にも、日経新聞は「UFJ頭取、住宅公庫の処分で陳謝」という見出しで、公庫の立場に立った記事を書いていました。

 このような傾向は住宅金融公庫の廃止が議論されているときにも見られました。新聞は公庫がなくなると住宅ローンが受けられなくなるとか、条件が不利になるとかの心配する人たちの声を盛んに取り上げていました。住宅金融公庫が廃止され、民間の銀行ローンが広がることのメリットを書いた新聞はあまりありませんでした。新聞は住宅金融公庫の廃止に消極的な抵抗をしていたと思います。少なくとも、積極的な賛成ではなかったと思います。

 今回の郵政民営化に当たっても、民営化のメリットよりも、地方が犠牲になることを心配するという、郵政の立場に立った新聞記事が多かったように思います。
 小泉改革が抵抗にあって後退を余儀なくされている一因は、この辺にあると思います。新聞は抵抗勢力の筆頭である官僚・公務員を批判しているふりをして、実際には彼らの権益を擁護する記事を書いていると思います。

平成14年7月9日     ご意見・ご感想は こちらへ     トップへ戻る     目次へ