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存在感が希薄な「経済学部」

 2月25日、日銀総裁に元副総裁の福井俊彦氏が起用されることが報じられました。副総裁は武藤俊郎氏と岩田一政氏です。
 新聞に報じられているこの三人の学歴を見ると、注目すべき共通点があります。それは三人とも東大出身ですが、福井氏と武藤氏は法学部、岩田氏は教養学部で経済学部卒業ではないと言うことです。中央銀行のトップ三人が、いずれも大学で経済学を専攻していないと言うことは、かなり特異な現象と言っていいと思います。

 その二日前の2月23日の読売新聞に、東大名誉教授の隅谷三喜男氏が死去したことが次のように報じられていました。

 
「わが国の労働経済学の第一人者で東大名誉教授の隅谷三喜男さんが・・・死去した」
 「東京都出身。東大の大河内一男教授門下で、アメリカ労働経済学の成果を取り入れながら新たな労働経済理論を構築。・・・91年には成田空港問題の話し合いによる解決を模索する“隅谷調査団”を結成。国と反対派住民が話し合う円卓会議の委員長として、問題解決に尽力した。・・・」

 労働経済学も経済学の一部とは言っても、これをいくら研究しても苦境に陥っているわが国の経済政策立案に役に立つとは思えません。労働経済学などは経済学の根幹であるマクロ経済学とは縁の遠い枝葉末節の学問だと思います。東大経済学部の著名な経済学者二人が、揃いもそろってこのマイナーなテーマを専攻する人物であったと言うことと、日銀のトップに経済学部出身者がいないことと無関係ではないと思います。

 隅谷氏は成田空港問題の調査団を結成したり、国と反対派住民が話し合う円卓会議の委員長として尽力したそうですが、そういうことは政治家、活動家のすることであって、経済学者のなすべき事とは思えません。日本の大学の経済学部は、永い間マルクス経済学が主流で、まともな経済学を研究したり教えてはこなかったと思います。今、日本経済がデフレの危機に瀕していても、経済学者から見るべき議論が起きてこないのは、ひとえに人材不足であり、過去のつけが今回ってきていると思います。

平成15年3月2日  ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ