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市場経済を窒息させる「官」の肥大
りそな銀行が実質的に国有化されることになりました。またしても「官」が肥大することになりました。郵政民営化、金融危機 などあらゆる機会を捉え、「官」は、コロナウイルスのように姿形を変えながら増殖・肥大の一途をたどっています。
りそな銀行では国が議決権のある普通株による増資で、りそな銀行への関与を強化すると伝えられていますが、「官」が関与を強化すれば銀行は再生するのでしょうか。彼ら「官」には銀行を経営する能力も経験もありません。あるのは「権力」だけです。権力だけでは企業の経営ができないことは自明ですが、彼らは「権力」を「能力」と錯覚しています。
今回の「実質国有化」では、「官」は議決権のある株式の過半数を取得するほか、金融庁内に「経営監視チーム」を設置し、りそな銀行の取締役会や経営会議に検査官を出席させるなどして、経営に関与するとのことですが、「検査官」に銀行経営者としての能力があるのでしょうか。
もし、「官」が本当に責任を持って銀行経営に関与するのであれば、株主としての権限を行使して、代表取締役ほかの役員を派遣すべきだと思います。
権限を行使する者は、当然結果について責任を負わなければなりません。他の株主に対して、あるいは取引先に対して、また、従業員にたいしても責任を負わなければなりません。ところが、金融庁内の「経営監視チーム」では経営に口を出すだけで、責任を取ることがありません。「官」には権限のみがあって責任は一切負わず、実質的な権限が何もない銀行の役員に全責任を負わせるというのは、極めて無責任な仕組みだと思います。
「郵政民営化」も結果的に見れば、「官」である郵政公社が独占を維持しつつ、「民」の分野を蚕食するという、本来の「郵政民営化」とは正反対の方向に進みつつあります。
産業再生機構も市場原理を無視した「官」の介入に他ならず、こんな事で経済が再生するとは思えません。「官」は市場経済が何であるかが分かっていないと思います。
5月19日の読売新聞は、「銀行追い込む金融失政」と題して、次のように論じていました。
「デフレが続く限り、銀行や企業の収益力は高まらず、新たな不良債権の発生にも歯止めがかからない。デフレを改善しないまま、『竹中プラン』のムチを振るうだけでは『政策として不十分だ』(メリルリンチ日本証券の山田能伸シニアアナリスト)との批判は一段と高まっている。政府・日銀が政策を総動員し、日本経済をデフレから脱却させ、不良債権の新規発生に歯止めをかける努力が求められている」
続く5月20日の読売新聞は「りそなに公的資金」と題した解説記事の最後で次のように言っていました。
「・・・りそなの挫折は、政府の説明と裏腹に市場に不安を残した。その根はマクロ経済運営の失敗にあることを、政府は肝に銘じるべきだ」
経済危機の元凶はデフレであると認識されながら、なぜデフレがなくならないのでしょうか、それは公務員である「官」にとってデフレは快適だからだと思います。
物価が下がり、マイホームの値段も下がり、住宅ローンの金利も下がり、民間企業の給与が10〜20%単位で下がる中で、1〜2%程度の減収でお茶を濁している公務員とその家族にとっては、デフレは快適そのものであって、デフレで困ることなどは何もありません。彼らが恐れるのはインフレです。
平成15年5月25日 ご意見ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ