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人材バンクに抵抗する官僚の代弁者、読売新聞

 5月1日から5月3日にかけて、読売新聞は、異議あり・人材バンク(上)・(中)・(下)」と題して3回にわたり、安倍首相が進める官僚の天下りを禁止する「人材バンク」に反対する、次のような一大論陣を張っていました。
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 国家経営を担う人材を採用する国家公務員1種試験の申込者が今年は過去最低を更新し、政治・行政の世界に衝撃が広がった。・・・安倍政権は「官民人材交流センター」(新・人材バンク)の新設を掲げて公務員制度改革の推進に力を込める。だが、「国を支える官僚制度が劣化しかねない」と疑問視する声も少なくない。・・・

 「人材バンクがうまく機能するかどうか十分点検しないまま、省庁ごとの再就職あっせんを禁止してしまうと、公務員を非常な不安に陥れる。自分で職を探さなければならない状態に置かれれば、本来の仕事そっちのけで再就職を考えるようになり、個人レベルの官民癒着が起こりかねない」(以上5月1日)

 ・・・実際、官僚の能力低下をうかがわせる業務上のミスが後を絶たない。
 2004年6月に成立した年金改革関連法では、「前条」「同条」といった表現が誤りだった個所が40も見つかった。担当の厚生労働省の局長らだけでなく、内閣法制局長官らの処分にまで発展し、「考えられない失態」と他省庁にも衝撃が広がった。
 条文ミスはこれで終わらず、その後も労働組合法改正案、信託業法案などで相次いだ。昨年4月には、官報に掲載された内閣府令の条文に600か所弱のミスがあることが判明した。
 若手官僚を海外研修に出そうとしても留学試験に落ちてしまうケースも増えた。ある経済官庁の幹部は「大蔵省などの不祥事で官僚批判が高まった90年代末ごろの入省者に、特にその傾向が強かった」と言う。

 一方、若手官僚が官の世界に見切りをつける例も目立ってきた。・・・ここでは、役所を去った多くの元キャリアが離職を決断した理由を明かしている。「若いうちにいろいろやれると思って官庁に入ったが、待っていたのは縦割りと長いライン(意思決定系統)と根回しの山だった」(ITベンチャー企業に転職した元経済官僚)。「深夜帰宅が当たり前、休日出勤も珍しくないのに超過勤務手当はほとんどなし」(医学部に再入学した元経済官僚)
 努力が直ちに評価や報酬につながる職場を求めての転身が目立つ。山本氏は「公的部門を担う優秀な層が減り、行政の地盤沈下が起きかねないが、今のままでは若手官僚が転職していく流れは止まらない」と警告する。
 安倍内閣が創設を目指す「官民人材交流センター」(新・人材バンク)は、官僚の不安をあおり、この流れを加速させる。・・・(以上5月3日)

(以下は5月1日の石原信雄氏(旧自治省の官僚)へのインタビュー記事)
 国家公務員は国家の一翼を担って政策形成に参画できる。そのやりがいが中央省庁に就職する動機だろう。同時に、若いうちは多少、民間の一流企業より給与が劣っていても、長い目で見ると再就職先も確保されており、安んじて公務に全力投球できるという思いがあって初めて一級の人材が集まってきた。・・・(聞き手 中沢謙介)
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 読売新聞は、まず5月1日の記事で「人材バンク」制度により、官僚の気ままな再就職が出来なくなると、公務員を不安に陥れることになり、優秀な人材が来なくなると心配しています。このような主張は、今いる官僚が優秀な人材であると言うことを前提としていると思いますが、この前提は事実でしょうか。

 官僚の再就職問題は、年功序列、早期退職の慣行と密接・不可分の問題ですが、実力主義を嫌い、入省年次万能の年功序列を何よりも愛する人達が、優秀な人材などと言うことがあるでしょうか。自らの天下り先確保のために特殊法人を作り、それを死守し、談合入札で巨額の血税を浪費することに何のためらいもない人達が優秀な人材でしょうか。予算つきの仕事と情報を持ち出さないと再就職が出来ない人達が優秀な人材と言えるでしょうか。中古官僚を押しつけられている
民間企業が彼らをいかに評価しているか、読売新聞はなぜ取材して来ないのでしょうか。記事にはこれら民間の視点が完全に欠落しています。

 一方、5月3日の記事は官僚の資質がすでに低下していることを指摘していますが、これは先ほどの前提とは矛盾する指摘です。計画されている人材バンクが資質の低下をもたらすのではなく、官僚の資質はすでに低下しているのです。そうであれば、何らかの手を打つことなく現状を維持することは、資質の低下を放置するだけと言うことは明白だと思います。人材バンクの設立によって、現在いる無能な官僚が将来に不安を感じ、離職が相次ぐのであれば、それはそれで好ましいことと言うべきです。
 また、若手官僚の離職について論じている部分をよく読めば、彼らが離職に駆り立てられるのは、硬直化し、非効率的な官僚組織に失望しての結果であって、これを人材バンク反対に結びつけるのはこじつけに過ぎません

 石原信雄氏は「再就職先が確保されおり、安んじて公務に全力投球できるという思いがあって初めて一級の人材が集まってきた」と言っていますが、安定した身分と好条件の再就職先が確保されていることは、必ずしも優秀な人材確保にはつながらないと思います。 一般の公務員に比べて、更に手厚い身分保障と恵まれた待遇が、公立小中学校の教師の劣化を促進したことは疑いようがありません。公務員の身分保障は怠け者を誘引する結果を招くだけだと思います。

 今回の読売新聞の大特集記事には、国民の視点、民間の視点が全くありません。
官僚とその周辺のみを取材し、官僚の反撃に一大紙面を提供したものです。読売新聞の反社会性を強く感じます。新聞企業と官僚、彼らは記者クラブを通じて癒着し、国民に人気のある政治家に対して敵対感情を持つという共通した反社会性、反民主主義的傾向があります

平成19年5月15日   ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   
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