H6
大蔵省が懇談会を作るねらい

 産経新聞に連載された「大蔵省見えざる病理」は大蔵省官僚の常軌を逸した行動、言動をリアルに伝えています。大蔵省はいつからこんな人間の集まりになってしまったのでしょうか。長年にわたり公然と行われてきた傍若無人の振る舞いに対し、検察が手を着けるまで、誰もこの異常さを告発せず、問題視しようとしなかったことを反省しなければいけないと思います。昔の陸海軍は、いつの間にか国民の手の着けられない怪物になってしまい、それが日本を崩壊させる一因になりました。今、我が国は政治的にも、経済的にも大きな困難に直面しています。幸い今回はかろうじて検察が機能しましたが、大蔵、日銀の職員を一人二人逮捕したところで、根本的な解決になるわけではありません。贈収賄罪での摘発では限界があります。これははじめの第一歩に過ぎません。彼らの聖域である予算編成権、許認可権限にメスを入れるのはこれからです。これからが大事なのです。ここで気を抜けば元の木阿弥になってしまいます。

 大蔵官僚たちはすでに元の木阿弥にすべく行動を開始しています。4月18日の読売新聞夕刊によると大蔵省は、大蔵省自体のあり方について、外部の有識者から提言を求める懇談会を設けることを明らかにしました。座長、メンバー10人前後を指名して月内にも第一回の会合を開き、夏までに提言をまとめるそうです。今回の一連の不祥事で明らかになった大蔵省、大蔵官僚の問題点を考えれば、これは被疑者、被告人が陪審員を指名して裁判を行うようなものです。彼らは自分たちが被告人の立場にあることが分かっていません。この期に及んでも、なお、被告人は銀行と証券会社で、自分たちは検事か裁判官であるかのような錯覚を持っています。

 官僚に指名された委員によって構成されている各種の審議会が、結局いつも官僚の意に副う答申をしているだけである事から見ても、このような懇談会には何の期待もできません。全く無意味です。「懇談会」という名前を聞いただけでも、まじめに取り組むつもりがないことが分かります。適当にお茶を濁した提言を出させて幕引きにしようと言う意図が見え見えです。こういう行為を俗にガス抜きと言います。本当にやる気があるなら懇談会は省内に置かず、小委員会として国会内に設けるべきです。メンバーの人選は与野党議員に委ねるべきです。夏までの二三ヶ月と言う期間の設定も短すぎます。

 このような大蔵省のもくろみに対しては、厳しい評価をするのがマスコミのつとめだと思います。にもかかわらず、読売新聞は「大蔵省が組織のあり方について外部の意見を求める懇談会を設置するのはきわめて異例で、辛口の議論が展開されることになりそうだ」などと、全く大蔵省サイドに立った脳天気なことを言っています。

 前回の証券不祥事の後、大蔵省から分離して作られた証券取引等監視委員会が、今回の山一証券の事件で全く機能しなかったことは誰の目にも明らかです。この委員会も設立当時中立性を求める声が強かったにもかかわらず、大蔵省が権益維持のために強引に傘下に留めたものです。この委員会は事件が発覚し、山一証券が自主廃業を決めてから、死体にむち打つような処分を発表しているだけです。大蔵省が密接に関与していた山一証券の「飛ばし」を、傘下の証券取引等監視委員会が摘発できるはずがないのです。大蔵省を改革するためには、大蔵省が関与する機構、組織をいくら作っても何の役にも立ちません。

平成10年4月18日      ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る      H目次へ