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規制緩和とは名ばかりの「アベノミクス“成長戦略”」

 6月6日の読売新聞は、「『民間活力の爆発』 アベノミクス 第3の矢 成長戦略固まる」と言う見出しで、次のように報じていました。
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 ◆投資や医療 規制緩和 失業 5年で2割減
 政府の産業競争力会議は5日、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の「3本目の矢」となる成長戦略の素案をまとめ、発表した。企業などの民間活力を引き出すことで、賃金上昇などにつなげ、家計の潤いを生み出すことを目指す。企業の設備投資を促す減税措置や規制緩和など成長への道筋を示したほか、10年後に1人当たりの国民総所得(GNI)を150万円以上、増やす目標を明記した。・・・
(中略)

 首相は、再生を図るための具体策として、大胆な
規制緩和を首相主導で実現する「国家戦略特区」を創設する方針も改めて表明した。大都市を念頭に、特区で建物の容積率を緩和するほか、日本の医師免許を持たない外国人医師の受け入れなどで外国企業の誘致促進を図る考えも示した。
 素案は、企業の国際競争力の回復を目指した「日本産業再興プラン」、医療や農業などを成長産業にするための「戦略市場創造プラン」、海外市場を開拓する「国際展開戦略」の3本柱で構成されている。今後5年間を「緊急構造改革期間」として、
過当競争に陥った業界の再編などを促す施策を総動員する方針だ。
 焦点となっていた民間企業の設備投資を促進させる税制改革については、「早期に実現すべきものは8月末までに詳細を明らかにし、実行に移す」と明記した。例年は税制改正の議論は年末に行われ、前倒しは異例だ。成長戦略の柱となる企業の設備投資の決断を促す狙いがある。
 素案では〈1〉民間の設備投資を3年間で1割増やして年70兆円台に〈2〉6か月以上の失業者数を今後5年間で2割減〈3〉今後10年間で農業所得を倍増——など達成までの時期や規模を明確化した。
 目標の柱に据えたGNIは、国内総生産(GDP)に、日本企業や国民が海外から得る所得を加え、海外に支払った分を除いた額を表す。11年の日本の1人当たりGNIは4万5180ドル(約450万円)だ。
 経済成長がもたらす好影響について、「(企業などの)供給サイドにとどまることなく、最終的には国民一人ひとりが豊かさを実感できるようにならなければならない」とし、賃金の上昇などにつなげていく狙いを強調した。
 政府は、14日に成長戦略を閣議決定する方針だ。
 
 ■成長戦略の要点 
▽古くなった設備を更新する
企業を税制などで支援
▽企業の
事業再編を税制や金融面で後押し
▽世界の企業が集まる
「国家戦略特区」の創設
▽一般の
薬のインターネット販売を認可
▽革新的な医療機器や薬を世界に先駆けて実用化
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 記事は勇ましい“作戦名”やスローガン、目標数値が掲げられていますが、スローガンや目標数値を掲げることが「戦略」と言えるのでしょうか。目標をどうやって実現するのかの具体策がほとんどありません。

 具体的に戦略として示されているわずかな規制緩和例は、建物の容積率を緩和するとか、外国人医師を認めるとか
小さなことばかりで、「戦略」といえるほどのものではありません。

 私は
「規制緩和」とは官の権限を縮小することだと思います。ところが今回の提案で「成長戦略の要点」としてあげられている中には、具体的な官の規制に対する緩和策が全くありません。
 
 挙げられている、「古くなった設備を更新する
企業を税制などで支援」、「企業の事業再編を税制や金融面で後押し」、「世界の企業が集まる『国家戦略特区』の創設」や、「過当競争に陥った業界の再編などを促す施策」などは官主導の色合いが濃厚です。官の権限を縮小するよりもかえって拡大して、規制緩和に逆行することが懸念されます。

 「一般の薬のインターネット販売を認可」は、薬剤師、日本薬剤師会の既得権の剥奪ではあっても官僚の既得権の剥奪ではありません。
 薬を薬局で調剤していた時代ならともかく、ほとんどが製薬メーカーの製品をそのまま販売している時代に、
薬剤師そのものが存在意義を失っている資格と考えるべきです。

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 同日の読売新聞には、「アベノミクスに「辛口」 みずほ総研・杉浦氏が講演」と言う見出しの批判記事があり、この中で、杉浦氏は次のように論じていました。
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 安倍首相が経済政策「アベノミクス」の「第三の矢」である成長戦略を発表した5日、みずほ総合研究所(東京)の杉浦哲郎副理事長=写真=が富山市の明治安田生命ホールで講演し、アベノミクスに批判的な見方を示した。
 富山市出身の実業家で、安田財閥の祖・安田善次郎氏にちなみ関係企業らでつくる松翁記念財団が主催。経済政策分析を専門とする杉浦氏は「アベノミクスという賭けが成功する条件とは」と題し、「金融緩和」「財政政策」「成長戦略」を柱とする三本の矢について効果と課題を解説した。
 杉浦氏はアベノミクスについて、
「政府が大きく経済を支え、民間の経済を引っ張っていく政策。これが果たして成功するのか」と疑問を投げかけた。日銀の金融緩和策や公共投資の拡大については国民や内外投資家の評価を得て、円安、株高に振れたが、行き過ぎた期待に修正の動きも始まっていると分析した。
 また、想定外の長期金利上昇、実態と乖離(かいり)した株価上昇などを批判。
「政府主導の産業支援はよけいなお世話」と切り捨てた。
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 「政府主導の産業支援はよけいなお世話」と言うのは、正にその通りだと思います。政府主導は、昭和30~40年代の民間企業が弱体だったときの発想です。
 アベノミクスの中身を見ると、
「規制緩和」とは反対の官僚主導の方向を指向していて、規制緩和が官僚の既得権を剥奪する戦いである事が忘れられています。

 安倍総理は官僚に対して厳しく臨んでいないし、それができない人物だと思います。本人は官僚を操っているつもりが、実際は反対に官僚に操られているのではないでしょうか。「アベノミクス」の前途は多難と思います。

平成25年6月6日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ