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アベノミクスの「成長戦略」は“官主導”の「規制新設」のオンパレードではないか


 6月8日の読売新聞は、「非正規向け資格創設 接客力を評価…正社員化 期待 成長戦略に」と言う見出しで、次のように報じていました。
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非正規向け資格創設 接客力を評価…正社員化 期待 成長戦略に
2014年6月8日3時0分 読売新聞

 政府は7日、非正規雇用の人の待遇改善や正社員への登用を進めるため、非正規雇用を対象とした資格制度を創設する方針を固めた。主に接客能力など現場での「働きぶり」を評価する仕組みで、6月下旬に決まる新成長戦略に盛り込む。政府は2015年の通常国会で職業能力開発促進法などを改正し、16年度からの導入を目指している。

流通・学習塾など4業種

 新たな資格は、非正規雇用の多い〈1〉流通〈2〉派遣〈3〉教育〈4〉健康――の4業種で、接客などの対人サービスに従事する人を対象とする。資格の認定は、厚生労働省から委託を受けた業界団体があたる。これまでに、日本百貨店協会(流通)、日本生産技能労務協会(派遣)、全国学習塾協会(教育)、日本フィットネス産業協会(健康)の4団体が政府の方針に応じた。

 業界団体が認定することで資格の有用性が高まり、正社員への登用や転職のアピールポイントなどになるとみられている。企業側にとっても、非正規雇用者の自発的なスキルアップが見込める。政府は四つの業種で資格制度を先行実施し、17年度以降は業界を広げていく方針だ。

 資格試験には、上級、中級、エントリーの3段階を設ける。
筆記試験に加え、実務経験の長さを重視するほか、販売やクレーム対応といった接客の実演も行ってもらう評価方式にする。厚労省と業界団体が共同で認定方法を検討している。

 非正規雇用者のキャリア支援に関して、政府は08年に職歴や経験を記載する「ジョブカード」を導入した。職業能力を客観的に提示し、社員登用などにつなげようとしたが、普及しているとは言い難い。非正規雇用は増加傾向にあり、14年3月時点で約2000万人に上り、全就業者の3割超を占める。

◆非正規雇用

 正社員以外の「パート」「アルバイト」「契約社員」「臨時職員」などの働き方の総称。一般的な正社員が週40時間以上働くのに比べ、労働時間が短く、給与や福利厚生が劣るケースが多い。4月の毎月勤労統計調査(速報)によると、正社員の月間現金給与総額が34万9269円だったのに対し、パート労働者は9万6667円だった。
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 政府は新たな資格制度の創設を、「成長戦略」と位置づけていますが、
職業選択の自由自由競争の尊重の観点から考えると、各種の資格制度は、消費者保護のために必要かつ不可欠な最低限のものにすべきです。

 今回の資格制度創設は、本来自由な競争市場で、
雇用主と消費者が判断すべき「接客力」を官及び業界団体が介入して評価しようというもので、まさに規制緩和に逆行する愚行だと思います。

 「資格試験には、上級、中級、エントリーの3段階を設ける。筆記試験に加え、実務経験の長さを重視するほか、販売やクレーム対応といった接客の実演も行ってもらう評価方式にする」とのことですが、消費者にとってはもちろん、雇用主にとっても有益な資格制度が出来るとはとても思えません。何にでも資格・許認可の枠をはめたがる、まさに
“官の発想”そのものです。採用に当たってこのような資格を重視する経営者はいないと思います。、

 もし、何か官がなすべきことがあるとすれば、消費者の多数意見がスムーズに雇用主や企業に伝わり、かつその内容を誰もが知ることが出来るような環境を整えることだと思います。
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 それから、「国家戦略特区」に関して、6月3日の読売新聞は「政府が新たに策定する成長戦略の骨子案の要旨は次の通り」と言う見出しで次のように報じていました。
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成長戦略骨子案要旨
2014年6月3日3時0分 読売新聞

 政府が新たに策定する成長戦略の骨子案の要旨は次の通り。
 ■日本産業再興プラン
 緊急構造改革プログラム(産業の新陳代謝の促進)
 ロボットによる新たな産業革命の実現▽2020年までにロボット市場を製造分野で現在の2倍、サービス・農業分野で20倍に拡大▽ロボットオリンピック(仮称)の開催
 雇用制度改革・人材力の強化
 時間ではなく成果で評価される制度への改革▽職務等を限定した「多様な正社員」の普及・拡大▽20年に指導的地位に占める女性の割合を30%に▽女性の働き方に中立的な税制・社会保障制度等への見直し▽外国人材の活用
 科学技術イノベーションの推進
 技術力世界ランキングを5年以内に世界第1位に
 立地競争力のさらなる強化
 国家戦略特区のさらなる推進▽公的・準公的資金の運用等について有識者会議の提言を取りまとめ、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は改革に着手▽安全が確認された原子力発電の活用
 地域構造改革の実現/中小企業・小規模事業者の革新
 20年までに黒字中小企業・小規模事業者を70万社から140万社に増やす。
 【テーマ1】国民の「健康寿命」の延伸
 20年までに国民の健康寿命を(10年比で)1歳以上延伸
 保険外併用療養費制度の大幅拡大
 ▽先進的な医療へのアクセス向上(評価療養)
 先進医療の評価の迅速化・効率化を図るため、抗がん剤に続き、再生医療や医療機器の審査に特化した専門評価組織を年度内に立ちあげ、運用を開始する。
 ▽療養時のアメニティ(快適な環境)の向上(選定療養)
 対象の拡充を含めた不断の見直しを行う仕組みを構築する。定期的に選定療養として導入すべき事例を把握する仕組みを年内に構築する。
 【テーマ2】クリーン・経済的なエネルギー需給の実現(略)
 【テーマ3】安全・便利で経済的な次世代インフラの構築(略)
 【テーマ4】世界をひきつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現
 農業委員会等、農地を所有できる法人、農協の見直し=規制改革会議の検討待ち
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 この「成長戦略骨子」自体がスローガンの羅列で、内容空虚の感は免れません。その中のアベノミクスの看板である「国家戦略特区」については、4月1日の「『国家戦略特区』とはどういうものですか?」という下記の解説記事がありました。
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Q)「国家戦略特区」とはどういうものですか?
2014年4月1日15時0分 読売新聞

A)指定された地域で規制緩和を進め、国主導で先進プロジェクトを実現しようとするもので、日本経済再生の起爆剤という役割が期待されています

 政府は3月28日、首相官邸で国家戦略特区諮問会議(議長・安倍首相)を開き、第一弾として、1東京圏(東京都、神奈川県、千葉県成田市)【国際ビジネス、イノベーションの拠点】2関西圏(大阪府、京都府、兵庫県)【医療イノベーション拠点、チャレンジ人材支援】3新潟市【大規模農業の改革拠点】4兵庫県養父市【中山間地農業の改革拠点】5福岡市【創業のための雇用改革拠点】6沖縄県【国際観光拠点】――の計6か所を指定しました。

 今後、国家戦略特区法に基づき、特区の地域を定める政令が4月中に閣議決定されます。政府はそれぞれの特区ごとに、国や自治体、企業などでつくる「特区会議」を設置して事業計画をとりまとめ、今年夏ごろには特区が開始される予定です。

 今回指定された東京圏では、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックを視野に、世界から資金・人材・企業などを集める国際的ビジネス拠点を形成し、世界で一番ビジネスのしやすい国際都市作りを進める計画です。規制緩和をテコに都心部や周辺自治体で外国人向けの住居や医療施設を整備するものです。東京圏の中でも、千葉県成田市は成田空港を擁する立地をいかして、国際医療福祉大と共同で「国際医療学園都市構想」を提案しています。医学部新設や病床規制、外国人医師による診察などの規制緩和などによって、医学部と付属病院、関連施設を設置し、海外の医療関係者を招いて地域や海外で活躍する医療従事者の育成や最先端医療の実施などを目指すというものです。

 安倍首相の経済政策「アベノミクス」は「3本の矢」と称して、「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」という2本の矢に続き、民間主導の持続的な経済成長を実現するための「成長戦略」を3本目の矢としています。国家戦略特区で行う規制緩和は、その目玉となるものです。

 首相は今年1月、スイス東部のダボスで開かれた「世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)」の開会式に出席し、日本の首相として初めての基調講演を行いました。その中で国家戦略特区などによる規制改革について「既得権益の岩盤を打ち破る、ドリルの刃になる」と強調しました。3月28日の国家戦略特区諮問会議でも、「発案から1年もたたずに、国家戦略特区という『岩盤規制を打破するためのドリル』を実際に動かせる体制が整いました。このスピード感をさらに加速し、今後2年間で岩盤規制改革全般をテーブルに載せ、突破口を開いていく決意です」と述べています。第1弾に続いて、第2、第3弾と新たな国家戦略特区を指定していく考えを示したものです。

 今回の特区の規制緩和メニューでは、関係府省庁や業界団体の抵抗により、当初想定されていた「株式会社による農業への全面参入」「(自由診療と保険診療を併用する)混合診療の大幅拡充」などが見送られ、「岩盤規制」の見直しは不十分との指摘も出ています。

 政府は特区のアイデアをさらに募り、有望なものは追加指定していく方針です。首相が指導力を発揮して、成長戦略に役立つ規制緩和を積極的に展開し、規制改革の「ドリル」の突破力をさらに強めていくことが期待されます。

(編集委員 望月公一)
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 企業や経営者にしてみれば、今まで全国一律の条件の下で経済活動ができていたものが、各地に特区が出来たために一律ではなくなります。特区だけをみれば“規制緩和”だとしても、
特区以外のところから見れば、新たな規制が出来たことになります。
 ビジネスにしろ、医療にしろその拠点をどこに定めるかは企業が判断すれば良いことで、“官”が判断することではありません。特区の新設は規制緩和に逆行する新たな規制の新設に他なりません。
 そして、この種の規制は一度出来てしまうと、たちどころに数が増え、その種類が際限なく増殖していく恐れがあります。役所の権限と、役人の数が膨張して
「役所と公務員の成長戦略」になってしまう可能性が大です。

 こうして見てくると「資格制度の新設」とか、「国家戦略特区の新設」に見られるアベノミクスの「成長戦略」とはいずれも
“官”主導で有り、成長を阻害する各種規制の緩和とは真逆の、規制新設のオンパレードの様相を呈しています。これが経済成長に寄与するとは到底考えられません。

平成26年6月8日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ