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遅すぎるニュースの原因は何か       (平成10年4月22日産経新聞掲載)

 4月16日の夕刊で「新宿駅バス放火殺人事件」の犯人丸山博文が服役中の千葉刑務所で自殺していたことが報じられました。なんと昨年10月の事だそうです。その2日前の4月14日の朝刊では阪神大震災の火災保険金の支払いをめぐる裁判で、保険会社が主張していた約款の地震免責条項が認められ、勝訴したと報じられました。これも判決が言い渡されたのは昨年12月で、原告はすでに控訴しているとのことです。どうしてこんなにニュースが遅れたのでしょうか。法務省や裁判所の側に問題があるのでしょうか。それとも新聞社の側に問題があるのでしょうか。

 受刑者が刑務所内で自殺すると言うことは、管理の手落ちであり、不祥事故です。重大事件の犯人でもあり、プライバシーを口実に事件を隠蔽することはできないはずです。法務省は公表したのでしょうか。
 以前新聞記事で「公務員法による公務員の守秘義務が逆手に取られ、現在では守秘の権利になってしまい、公務員が公務に関する情報を隠蔽することを正当化する根拠を与える結果になっている」と言う趣旨の記事を読んだことがあります。

 今はそれに加えて「プライバシー」が情報隠蔽の口実になっています。公務員の行う公務は全て主権者である国民に公開するのが大原則でなければなりません。例外は外交上、国防上の必要がある場合と、もっぱら個人のプライバシーの問題であるときのみだと思います。プライバシーは尊重されなければならないとは思いますが、それが全てではないし、最優先でもないと思います。 重大事件の時はプライバシーよりも国民の知る権利を優先させなければなりません。

 火災保険の裁判のニュースは、憲法で保証された、裁判公開の原則があり、裁判所が隠していたと言うことは考えられないので、もっぱら新聞社側の問題だと思います。数カ月も経っていれば、それは新聞ではなく旧聞です。数多い裁判を全部フォローするのは大変かとは思いますが、迅速な報道に努めてください。

平成10年4月16日     ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る      H目次へ

平成31年4月30日 追記

 この投書に対して産経新聞から下記の表明がありました。
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【談話室】編集部から

1998年04月23日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面
 二十二日付「アピール」欄で奈良県の安藤千明さんから「権力の“隠ぺい”防ぐ迅速な報道を」とのご意見を頂きました。その中で、今月の産経新聞に掲載された(1)新宿駅バス放火殺人事件の受刑者自殺(2)阪神大震災の火災保険金をめぐる民事訴訟の判決−はいずれも昨年の出来事である、とのご指摘がありました。

 「迅速な報道」の重要性は論をまちません。各方面の取材に全力を挙げてはいるのですが、残念ながら発生時にはキャッチできず、時が経過してから明らかになる事柄もあります。その中には、時の経過によって価値が失われる出来事もあれば、時の流れにもかかわらず、きちんと報道をしておかなければならないニュースもあると考えます。

 新宿駅バス放火殺人事件は社会的関心の高い事件でした。その受刑者の自殺は時期が遅れても紙面掲載すべきだと判断しました。

 阪神大震災関連の判決も裁判所が保険会社に地震免責を認めるかどうか、多くの被災者が切実な関心をもっていました。大震災で初めてのケースであり、記事掲載当日にも別の裁判所で同種判決の言い渡しが予定されていました。

 こうした事情から昨年に起きたニュースではあるものの、本質的な価値は損なわれていないと判断、掲載したものです。
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