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安倍総理は民間企業への余計な口出しをする前に、公務員制度の改革を進めるべき
安倍総理は今、労働問題に関して次の三つの主張をしています。
1. 時間労働制(8時間労働)を廃して、成果主義を導入する
2. 「女性活躍の推進」のため、女性管理職の割合を一定の比率(たとえば30%)達成を義務づける。
3. 年功序列の賃金体系を廃して成果主義を導入する。
つまり、今までの主要な日本型の労働慣行をすべて廃止するというものですが、なぜそうしなければならないのでしょうか。果たしてこれでうまくいくのでしょうか。
これらの主張にはそれぞれ次のような基本的な問題点があると思います。
1.時間労働制の廃止についてですが、今の日本は世界の先進国の中でも有数の長時間労働国です。それは労働生産性が低いことを意味しています。
長時間労働は、決して労働者が無能だからでも、残業代目当てで長時間働いているのでもありません。むしろ、反対に勤勉で責任感が強いが故に、サービス残業を余儀なくされているのが実態です。制度の改定はこれを是正する観点から、つまり労働生産性を高める事を目的としなければなりません。
ところが安倍総理はこの点の具体策を明確にしていません。このまま時間労働制が廃止されれば、単に現在の違法なサービス残業が合法化されるだけに終わる恐れが大です。
今、曲がりなりにも経営者が時間管理に意を用いているのは、残業代を減らしたいと言う一点からです。その心配が無くなれば、長時間労働を放置する経営者が増え、深夜の帰宅を余儀なくされる労働者が増えることは必至だと思います。
2.「女性の活躍推進」の美名の元に、女性管理職の目標割合として一定の比率の数値目標を設定することは、男女平等にとどまらず、法の下での平等の根本に触れる問題です。男女平等に限らず、法の下の平等とはすべて機会の平等であって、結果の平等ではないからです。それは人間の能力、適性は均一ではないからです。
業種や職種によって男性に向いている職業・職種、向いていない職業・職種、反対に女性に向いている職業・職種、向いていない職業・職種があることは厳然たる事実です。それを無視して管理職の数だけに一定比率の枠をはめようとするのは、全く理由がありません。業種・職種を問わずすべての女性労働者の賃金を男性の一定割合とすることを義務づけようとするのと同じくらいバカげています。
安倍総理は女性管理職の割合を30%とすることを義務づける方向のようですが、女性社員が一人もいない企業でも、社員のほぼ全員が女性で占められている企業でも、その義務に変わりは無いのでしょうか。
「女性の活躍推進」という、安っぽくかつ内容空虚なスローガンだけを前面に出して、一部の女性の歓心を買うことだけは出来たとしても、現実を無視して結果の平等を求める行為は、より大きな不平等をもたらし、社会の混乱と経済的損失を招くことは必至です。
3.次に年功序列についてですが、年功序列は法律で決まっているわけではありません。あくまで慣行です。現にすでに年功序列を廃した企業もあります。そして年功序列を廃して成果主義に移行して、その失敗から再び年功序列を部分的に復活した企業もあります。
要は年功序列にはメリットもあり、デメリットもあると言うことで、反対に成果主義にもメリットもありデメリットもあると言うことです。
今では完全な年功序列を維持している企業はほとんど無く、多くの企業がその折衷制度を採用しているのが実態です。
どちらを採用するか、どのような折衷案を採用するかは、企業の業種、職種、経営者の方針に即して、労働組合などと協議して決定すればいいことで、政府が一律に是非を判断して民間企業に強制すべきことで有りません。
今の社会で年功序列の弊害を指摘するとすれば、それは国家公務員の世界です。彼らの世界では、幹部公務員は完全な年功序列が不文律化しており、入省年次がいつまでもついて回っています。
年功序列を維持するために、昇進が遅れた者は早期退職を迫られ、その為の天下りポストが必要となり、大きな無駄が生じています。
幹部以外の職員の評価も、大半が「標準」の評価を得て、足並みをそろえて昇格・昇進しており、標準以上 標準以下の評価を得るものはきわめて少数なのが実情とみられます。
民間企業では労使の話し合いに於いて、実情に合った人事制度をすでに採用しています。硬直した人事院の元で十年一日どころか、百年一日の旧態依然の人事制度にしがみついているのは公務員達です。安倍総理はまず自分の足元を見つめて、民間企業への余計な口出しはやめるべきです。
平成26年10月5日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ