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砂漠に水をまく「地方創生」の愚(「東京圏一極集中」批判は話のすり替え)

 政府は12月27日、「『まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(長期ビジョン)』及びこれを実現するため、今後5か年の目標や施策や基本的な方向を提示する『まち・ひと・しごと創生総合戦略(総合戦略)』」 を決定しました。

 「まち・ひと・しごと創生」とは、通常「地方創生」と言われているものと思われ、この問題を担当する閣僚は、「地方創生担当大臣」と呼ばれています。「まち・ひと・しごと創生」と、「地方創生」は同じなのか違うのか、違うのならどこがどう違うのか、同じならばなぜ異なる名称・呼称を使うのか、入口からしてわかりにくく、不可解さ、いかがわしさがぬぐえません。
 また、内容も人口問題、大都市の問題、労働問題、女性問題と多岐にわたっており、間口を思いっきり広げて大風呂敷を広げて中身の薄さを補っているという印象を否めません。この点は、少子化対策白書、男女共同参画白書と共通するものです。
 通常は漢字で表記される言葉を、わざわざひらがなで書くのは、安っぽいキャッチ・コピーを連想させます。

 公表された政府の資料は、参考資料としての位置づけとされています。
(参考)
1.まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」と「総合戦略」の全体像等 
2.まち・ひと・しごと創生長期ビジョン
  @概要 
  A本体 
3.まち・ひと・しごと創生総合戦略
  @概要 
  A本体 
  Bアクションプラン 
4.まち・ひと・しごと創生長期ビジョン<参考資料集> 

 上記7点ですが、2−Aと3−Aの「本体」以外は、いずれも表の形式などでタイトルや項目、要点などを記しただけのもので、文章になっておらず、何を言わんとしているのか明確さを欠き、はなはだつかみ所の無いものですが、これらの資料全体を見て、強く感じられることは、
「人口減少の克服」→「地方創生」→「東京一極集中排除」とも言えるほどに、「東京一極集中排除」を強調していることです。まさに「諸悪の根源は東京にあり」と言わんばかりです。(長期ビジョン 本文 4〜6ページ)

 日本の将来を憂慮するに当たっては、何が問題なのか、その原因は何なのか、問題解決のためには何が必要で有効なのかを論じなければなりませんが、その膨大な資料の中にある論旨はかなり
粗雑なものです。

 政府は、「東京一極集中」が「人口減少の原因」だとしていますが、果たしてそれは正しい認識でしょうか。
 政府の主張は、
人口が東京圏に集中している→東京圏は出生率が低い→従って人口の東京一極集中を排除することが出生率向上に寄与する、と言う論法になろうかと思いますが、ずいぶんと短絡的な論法ではないでしょうか。もし、農村、農民の出生率が都市部のそれに比べて高いとすれば、出生率向上のためには農民人口、農村人口を増やすべきだという議論になるのでしょうか。日本は農業国に逆戻りすべきだという議論になるのでしょうか。

 東京圏一極集中は国民の
住居移転の自由、職業選択の自由が保障された中での現象であることに留意する必要があります。 「東京圏への一極集中」は、産業構造の変化と、交通機関の高速化、通信手段の高度化等によってもたらされたものです。

 日本の産業の中核が農・林・漁業から工業へ、工業から情報・サービス業中心へと変化することによって、東京他の大都市に多くの
新しい職業が生まれ人口を吸収して来ました。北海道で道内の人口が札幌一極に集中しているのはその一例です。

 また、
新幹線網の整備や高速道路網の整備も大きな役割を果たしました。インターネットの発達により、多くの情報を手軽に迅速に送受信することが可能になりました。それらによって、地方の拠点(支店や支社)の多くは必要がなくなったのです。
 長年の
円高により、国内の地方都市の工場の多くが閉鎖され、海外に移転したことも地方の衰退と、大都市への人口集中に拍車をかけました。

 政府の意図していることは、今までのこの
流れを逆流させんとすることですが、交付金や各種の補助金でそのような逆流は可能でしょうか。交付金や・補助金は永久というわけにはいきません。逆流があってもそれはごく少数にとどまるのではないでしょうか。
 また、政策的に引き起こされた
逆流がもたらす日本国全体のデメリット、特に東京圏に在住する住民・企業の不利益を考慮しなければならないはずですが、その点は一顧だにされていません。

 政府には「地方創生」の前に、
東京圏の出生率を向上させようという発想はなぜないのでしょうか。政府は東京都在住者の4割が地方への移住を希望しているかのごとき調査結果(長期ビジョン 本文9ページ戦略 本文33ページ)を示していますが、どのような対象者にどのような質問をして、どのような回答選択肢を用意したか何も明らかにしておらず、きわめて胡散臭い調査結果です。

 政府は東京圏の通勤事情や住宅事情の悪さを引き合いに出して、「地方創生」が東京圏の住民の利益であるかのごとき主張をしていますが、東京圏の多数の住民がそのような希望をしていると聞いたことがありません。東京圏の国民のためと言うよりも、まず、「地方創生ありき」の、
「地方」のための「地方創生」と言うのが実態ではないのでしょうか。
 このような言い方は、
専業主婦の利益に反する配偶者控除の廃止が、あたかも彼女達の利益であるかのごとく主張されたのと軌を一にする欺瞞です。

 「地方創生」は、過去の
「少子化対策」が、少子化の原因を明確にすることなく、保育所の増設や育児休暇制度の創設に代表される、共働きの母親に対する子育て支援にのめり込み、時間と膨大な予算をつぎ込んで何の成果も上げることなく終わった愚を繰り返すことになりかねません。(参照 厚生労働省 少子化対策の経緯 )

 政府は東京圏の未婚率が高いことだけを根拠に、地方創生を唱えていますが、原因を把握し効果を確信した上での政策でないため、地方に対する具体的な指導・施策はなく、
使途を問わない現地任せの交付税の増額や、各種の補助金のばらまきに終始しています。
 原因を把握することなく補助金を地方にばらまくのは、
砂漠に水をまくがごとき愚行に終わる可能性が大です。

平成27年1月15日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ