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安倍総理が乱発するスローガン「地方創生」、「一億総活躍」は意味不明 −彼の論理的思考能力に疑問−

 2月25日の時事通信と、2月28日の読売新聞は、それぞれ「アベノミクス批判に反論=
労働改革『最大のチャレンジ』―安倍首相」、「働き方改革、内閣最大の挑戦…意見交換で首相」と言う見出しで、次のように報じていました。
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アベノミクス批判に反論=労働改革「最大のチャレンジ」―安倍首相
時事通信 2月25日(木)11時12分配信

 安倍晋三首相は25日午前、東京都内で講演し、最近の株価急落や円高に関し「日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)はしっかりしており、経済の好循環は確実に生まれている。『アベノミクスが失敗した』などという言説は全く根拠がない」と述べ、経済政策への批判に反論した。
 
 首相は、
女性や高齢者が活躍できる労働市場改革が「安倍内閣の次の3年間の最大のチャレンジだ」と強調。「同一労働同一賃金の導入に本腰を入れて取り組み、正規雇用と非正規雇用の壁を取り払う。少子高齢化という日本の構造問題に内閣一丸で真正面から立ち向かう」と訴えた。 
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働き方改革、内閣最大の挑戦…意見交換で首相
2016年2月28日18時48分 読売新聞

 安倍首相は28日、東京都内で開かれた「
1億総活躍社会実現対話」に出席し、「働き方改革は安倍内閣の最大のチャレンジだ」と述べ、雇用形態で賃金に差をつけない「同一労働同一賃金」の実現などに改めて意欲を示した。

 対話には若者や高齢者、障害者、非正規労働者ら12人が参加し、首相や加藤
1億総活躍相と意見交換した。パートタイムで働く女性は、「一度辞めて再度働きたいと思っても、正社員としては採用されない」と訴えた。首相は「取り組まないといけない課題だ」と応じた。

 対話の最後に、首相は「全ての人に可能性がある、チャンスがある社会を作っていきたい」と語った。対話は、5月頃にまとめる「
ニッポン1億総活躍プラン」に国民の声を反映させるのが目的で、この日が2回目。来月には福岡と大阪でも開く。
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 25日の時事通信の記事は、報道の仕方にも問題があるのかも知れませんが、安倍総理は「
女性や高齢者が活躍できる労働市場改革が『安倍内閣の次の3年間の最大のチャレンジだ』」として、「少子高齢化という日本の構造問題に内閣一丸で真正面から立ち向かう」と言っています。
 そもそも政治家の政策議論に限らず、議論というものは、1.まず現状の何が問題であるのかという問題認識があり、2.つぎに原因分析があり、3.その次に解決のための政策立案4.実行となり、5.そして成果(結果)の検証となるものだと思います。

 それでは安倍総理はこの日の発言では、現状の何に問題意識を持って演説をしたのでしょうか。労働問題としての「同一労働、同一賃金」、「女性や高齢者が活躍できる労働市場改革」が不十分である点に問題意識を持ったのでしょうか。つまり単なる労働問題としての認識でしょうか。もし、そうだとすればそれはさほど重大な問題ではないように思います。

 彼が「少子高齢化という日本の構造問題に内閣一丸で真正面から立ち向かう」と言っているところから見ると、「人口減少問題(今まで少子化問題と言われていた問題)」が最大の問題であると認識してその解決を訴えているのでしょうか。そのようにも思えます。そうであるとすれば問題認識としては間違ってはいないと思います。
「人口減少問題」は国家の存亡に関わる喫緊の課題です。

 しかし
人口減少問題を最大の課題と認識して、その解決策として労働問題の解決を政策として訴えているとしたら、彼の言っていることはかなりピントが外れていると思います。
 まず、彼はなぜ人口が減少するのかと言う、「人口減少問題」の
原因分析をしていません。原因を分析せずに「労働問題」と「人口減少問題」を結びつけています。

 原因分析をしていないのですから、彼の政策である「同一労働同一賃金」や「女性や高齢者が活躍できる労働市場改革」が成果を上げることは期待できません。特に「女性や高齢者が活躍できる労働市場改革」により、女性や高齢者の雇用を増やすことは、
一時的な労働市場の逼迫を改善できたとしても、将来的な人口減少を改善する効果は期待できません。労働問題は“少子化”の原因ではないからです(平成28.3.2産経新聞【正論】「低欲社会」は日本のピンチだ 作家・堺屋太一 参照)。少子化の原因は結婚しない(できない)男女が増加したことにあります。

 特に「就労女性の支援促進」は従来の“偽りの「少子化対策」”の延長線上にあり、むしろ
「女も外で働け」を助長して少子化を促進する逆効果になりかねません。彼の“チャレンジ”が成果を上げる見込みはほとんど無いと思います。いや、“少子高齢化云々”は単なる修飾語で、彼自身もその面での成果を予想してはいないのではないでしょうか。彼の発言は他意あるものかも知れません。

 28日の読売新聞の報じる彼の主張、
「ニッポン1億総活躍プラン」も同様です。彼は「活躍」という言葉を好んで頻繁に使いますが、何を以て「活躍している」というのか曖昧で具体性がなく、無責任極まると思います。
 「同一労働同一賃金」、「全ての人に可能性がある、チャンスがある社会を作っていきたい」と言うのが、そのスローガン「ニッポン1億総活躍プラン」の目指すところのようですが、何とも空しく聞こえます。彼の言葉からは、何を問題として捉えているのか、その原因をどのように分析したのか、そしてなぜ、この対策を提案したのかなど、肝心なことに一切説明がなく、ただ
「活躍」と言う何の中身もない言葉を呪文のように唱えているだけです。

 「地方創生」の空虚なスローガン以来の彼の政治手法は皆同じです。明確な問題認識も、原因分析も、それに基づく対策も明らかにされず、ただムードに訴えるだけのスローガンを声高に唱えて、自己陶酔に陥っているだけに見えます。彼はそれが政治だと思っているようです。彼はそれだけの人間なのです。
 
内容の是非を論じる以前の問題で、彼には論理的な思考能力が欠如しているように思えてなりません。

 さらに問題なのは、今のマスコミや学者の中でこれを批判する論調が皆無だと言うことです。
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【正論】「低欲社会」は日本のピンチだ 作家・堺屋太一
平成28年3月2日 産経新聞

〈前略〉

 だが何よりの気懸かりは
40歳にして一度も結婚を経験していない男性の急増だ。

 75年、私は40歳で結婚未経験の男性だったが、当時それはきわめて珍しかった。高校大学の同級生も役所の同期入省者もみな結婚経験者。多くは子持ちである。それだけに
結婚を迫る圧力は四方から感じた。

 ところが、2015年には
40歳の男性の30%以上が結婚未経験者。生涯未婚で終わる男性は20・1%と予想されている。

 なぜこれほど40歳男性の未婚が多いのか。その理由が
経済的な問題や住宅問題でないのは明らかだ。日本人ははるかに貧しい時代に若くして結婚し、どんどん子を産んでいた。諸外国でも貧しい人々が早期に結婚、若い年頃で出産している。

 それがなぜ、最近の日本人に限り40歳になっても結婚しない者が多いのか。

 ≪「3Yない社会」の危機≫

 この理由は2つ。1つは結婚を強いる社会の機能がなくなったこと、もう1つは
若者自身の結婚生活への想像力と決断力が欠如していることだろう。

 実際、現在の日本社会の最大の危機は、社会の循環を促す社会構造と若者層の人生想像力の欠如、つまり「やる気なし」である。「欲ない、夢ない、やる気ない」の「3Yない社会」こそ、現代日本の最大の危機である。

 16年に入ると、日本をめぐる状況は急に厳しくなった。中国経済の減速と国際原油価格の下落で、経済は混乱し出した。

 過激組織「イスラム国」(IS)や北朝鮮の動きも要警戒だ。国内の政治も一見は安定してみえるが、「次」が見えない不安がある。だが、何よりの重大問題は「3Yない」の社会風潮。世の雰囲気である。

 今の日本は世界で最も「安心で安全で清潔で正確な国」だ。だがあまりにも安全清潔に徹する規制と厳格な基準の故に、人々の楽しみを奪い、やる気を失わせているのではないか。官僚、教育などの猛省を促したいところである。(さかいや たいち)
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平成28年3月3日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ