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「戦略特区」は議論省略(何でもあり)の免罪符(隠れ蓑)でいいのか −戦略特区に外国人農業労働者−


 10月15日の読売新聞は、「外国人 農業担い手に…政府方針 特区で人手不足解消」と言う見出しで、次のように報じていました。
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外国人 農業担い手に…政府方針 特区で人手不足解消
2016年10月15日5時0分 読売

 政府は人手不足が深刻になっている農業分野で、国家戦略特区に限り外国人労働者の受け入れを認める方針だ。農業を成長産業とするには、新たな担い手の確保が欠かせないとの判断があり、来年の通常国会での法案提出を目指す。

 「働く人がおらず、意欲ある農家が事業展開できない」

 秋田県大潟村の高橋浩人村長は、今月4日に開かれた政府の国家戦略特区諮問会議でこう訴えた。大潟村はコメどころとして知られるが、近年は野菜などの生産に乗り出す農家が増え、人手不足の解消が喫緊の課題になっている。

 農林水産省によると、農業就業人口は今年、192万人となり、20年間で半減した。平均年齢も66歳を超え、農業の現場での労働力不足は全国共通の課題だ。安倍首相は12日の衆院予算委員会で、「高齢化に伴う人手不足が深刻な農業分野で、外国人材を活用する」と述べ、国家戦略特区での受け入れを解禁する考えを強調した。

 農業では現在、「外国人技能実習制度」がある。日本の技術を開発途上国に伝えることが目的だ。実習期間は最長3年で、実習生は原則1か所の農家でしか働けない。

 農繁期によって産地間を移動するなどの柔軟な働き方ができず、自民党内では「農業で外国人を一般の労働者として認めるべきだ」との意見がある。茨城県と長崎県は今年8月、「農繁期に外国人材を活用できれば栽培面積を拡大できる」と政府に訴えた。

 ただ、不法滞在につながる恐れなどから、外国人の受け入れには慎重論も根強い。このため、政府・与党は、まずは特区で農業分野での外国人活用の道筋をつけたい考えだが、就労条件をどうするかなど、今後の調整は難航も予想される。

 政府は近年、農業分野での規制緩和を進めている。今年からは特区の兵庫県養父やぶ市に限って企業の農地所有を認めた。近く、企業3社の農地取得計画が認定される見通しだ。今年4月からは全国で、農業法人に対する企業の出資比率の上限を、25%以下から50%未満に引き上げた。
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 記事は人手不足を理由に農業分野に於いて、外国人労働者の導入が必要だとする政府の方針を伝えていますが、人手不足とは何か,今の日本は人手不足か、人手不足は悪いことかを真剣に考える必要があります。“人手不足”と安易に言われていますが、人手不足の明確な定義はないようです。

 “人手不足”を「雇用者が自分の希望通りに労働者を雇用できない状態」と定義すれば、求人倍率が1.0以上の時は人手不足と言うことになりますが、これは多くの国民にとって良いことで、外国人労働者を導入すべきだという短絡的な主張には結びつかないと思います。

 過去に於いて日本は長期間、深刻な人手不足を経験して来ましたが、
人手不足があったればこそ、機械化、省力化、賃金の上昇が実現したことは明白な事実です。また、それによって立ちゆかなくなった産業は消滅して他の発展途上国にその地位を譲ったのです。日本の産業の高度化を促したと言って良いと思います。

 一方でドイツ(当時は西ドイツ)は“人手不足”を補うために数百万人の大量のトルコ人労働者を雇い入れましたが、それによって技術革新は停滞したと評価されています。
 それと現在の状況を単純に結びつけることは危険ですが、現代のドイツ社会がトルコ人の存在を大きな負担と感じ、若者の失業率が高いというのは間違いのない現実だと思います。

 これからも明らかなように“外国人労働者”の問題は
単なる“労働力”の問題ではなく、国の将来に重大な影響を及ぼす大問題です。慎重の上にも慎重な議論を重ねる必要があります。数十年後あるいは百年後の日本を見据えて考えなければなりません。我々の子供達、孫達の時代に日本に中華系・韓国系の社会があちこちに出来、イスラム教徒との摩擦が絶えない国にしてはなりません。
 もし、そうなった時に彼等は自分たちの父母や祖父母達は安易に“外国人労働者”を導入するなんて、なんてバカなことをしたんだと恨むでしょう。

 それにもかかわらず、今の安倍政権は反対が予想される外国人労働者の問題に対して、根本的・
本質的な議論をすることなく、単に業界の利益だけを考えて、介護職、家政婦、農業労働者など、次々と「戦略特区」政策を推し進めて歯止めがかかりません。

 本来
法律は全国一律に適用されるべきで、地域を特定する「国家戦略特区法」は国民平等の原則に反します。仮に「国家戦略特区法」が必要で有益であるとしても、それはあくまで例外的な位置づけであるはずですが、最近「特区」が議論省略(何でもあり)の免罪符(隠れ蓑)として利用される傾向が顕著であり、もはや「例外」として見逃せない規模になっています。このままでは取り返しの付かない事態に至る恐れがあります。

 なお、この農業労働者の特区について、10月5日の読売新聞は次のように伝えていました。
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農業に外国人特区…諮問会議検討 労働力確保狙う
2016年10月5日5時0分 読売

 政府の「国家戦略特区諮問会議」(議長・安倍首相)は4日の会合で、全国10区域の特区内に限り、農業分野で外国人労働者受け入れを解禁する方向で検討を始めた。質の高い労働力を確保し、農業の競争力を高める狙いがある。受け入れ条件などを詰め、来年の通常国会に国家戦略特区法改正案の提出を目指す。首相は会合で「(農業分野での外国人労働者受け入れなどは)地方創生1億総活躍社会にとって極めて重要であり、実現に向けて議論を加速していく」と述べた。

 外国人労働者は原則、IT技術者などの専門職のみ数年程度の日本在留が認められている。政府は環太平洋経済連携協定(TPP)発効をにらんで、農業分野でも日本在留を特区で認めて、海外輸出に取り組む農業法人などを後押ししたい考えだ。特区での受け入れ解禁では〈1〉出身国での農業経験を条件とする〈2〉日本人と同水準の報酬支払いを受け入れ先に義務付ける――ことなどを検討する。

 一方、4日の会合では、内閣府と東京都が連携して特区政策を進める「東京特区推進共同事務局」が設置された。
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 10月15日の記事とは大分ニュアンスが違います
“人手不足”は一言もなく、代わりに「質の高い労働力」、「競争力を高める狙い」、「地方創生」、「1億総活躍社会」と言う言葉が並んでおり、現状の認識と目的について言うことに一貫性がありません。これらの言葉は単なる“口実”に過ぎず、本当の理由は大規模農家(地主の利益しかないのだと思います。

平成28年11月5日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ