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働き方改革 法定労働時間だけの問題か 問題の本質は時間外労働に対する賃金の不払い 
−安倍総理のスローガン政治 裁量労働制とは正反対−

 2月14日のNHKのニュースは、「働き方改革会議 時間外上限を提示 年間最大720時間」と言うタイトルで、次のように報じていました。
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働き方改革会議 時間外上限を提示 年間最大720時間
2月14日 19時34分 NHK

 政府は、
働き方改革実現会議で、長時間労働の是正に向け導入を目指している罰則付きの時間外労働の上限について、年間最大720時間月平均60時間とする原案を示しました。一方、繁忙期の1か月の上限を月100時間などとすることには、連合から反発が出ていたため、今回の原案には盛り込まず引き続き、調整が行われることになりました。

 政府は14日夕方、総理大臣官邸で
働き方改革実現会議を開き、長時間労働の是正に向け導入を目指している罰則付きの時間外労働の上限について、政府原案を示しました。

 それによりますと、労使が協議し「36協定」を締結すれば、原則として月45時間、年間360時間まで時間外労働を認め、さらに別の協定を結べば、年間最大720時間・月平均60時間まで上限を引き上げられるとして、事実上、月平均60時間を上限としています。
 また一時的に業務が増える繁忙期については、年間720時間を超えないことを前提に、1か月の上限などを別に設けるとしています。

 政府は、繁忙期の上限について、
年間720時間を超えないことを前提に、月100時間かつ2か月の平均で月80時間とする方向で調整を進めていますが、連合から反発が出ていたため、14日の原案には盛り込まず、引き続き調整が行われることになりました。

 安倍総理大臣は、「多数決で決するものではなく、全員の賛同を得て初めて成案として出したい。特に労働者側、使用者側にはしっかりと合意を形成していただく必要がある。
胸襟を開いて責任ある議論を労使双方にお願いしたい」と述べました。


現在のルールより厳しい内容に

 労働基準法では1日8時間、週40時間を超えて働かせることを禁止しています。つまり、残業は原則として認められていません。

 従業員に時間外労働をさせるためには労働基準法36条に基づいて労使で協定を結ぶ必要があります。この労使協定がいわゆる「36協定」です。

 36協定を結んだ場合の時間外労働は、原則として月45時間以内で、年間360時間以内にするという上限の基準があります。ただ、特別な事情があるとして特別条項付きの36協定を結べば、上限なく時間外労働をさせることができます。

 14日に示された政府原案では、月45時間以内で、
年間360時間以内という基準について、罰則を設けて強制力を持たせています。さらに特別な事情がある場合にも最大で年間720時間という上限を設けました。

 この年間720時間は月平均60時間で、週休2日の場合、1日当たりの平均で2時間余りになり、仮に毎日3時間残業すると上限を超えることになります。

 一時的に業務量が増える繁忙期についても上回ることのできない上限を別に設けるとしていて、現在のルールに比べると厳しい内容になっています。


繁忙期の上限 具体例に示されず

 14日に示された政府原案では、特別な事情がある場合でも時間外労働は年間720時間を上限としています。一時的に業務量が増える繁忙期についても上回ることのできない上限を別に設けるとしていて、特別条項付きの労使協定を結べば上限なく時間外労働をさせられる、今のルールに比べて厳しい規制となっています。

 一方で、繁忙期の時間外労働の上限を何時間にするかは具体的に示されず、「脳・心臓疾患の労災認定基準をクリアするのが大前提」と記すにとどまりました。

 また、現在、時間外労働の限度となる基準の適用を除外されている研究開発や建設、自動車の運転の業務については、「実態を踏まえて対応の在り方を検討する」としていて、どこまで規制の対象とするか今後、議論になりそうです。


連合会長「合意形成へ汗をかいていきたい」

 連合の神津会長は会議のあと記者団に対し、「長時間労働に上限を設けることは極めて重く、前向きに受け止めている。ただ月ごとの上限時間については、それぞれの立場に開きがあるので、今の段階で何時間がよいという数字を出すのは拙速だと思う。全体の議論を見ながら、最後の合意形成に向けて汗をかいていきたい」と述べました。


経団連会長「現実的な上限規制の在り方を」

 経団連の榊原会長は記者団に対し、「時間外労働に上限規制を設けることに基本的には賛成だが、実態からかけ離れた厳しい上限規制があると
企業の競争力を割く懸念があり、中小企業が人手不足に対応できないおそれもある。それに管理職に負担がかかることに留意して、現実的な上限規制の在り方を考えてほしい」と述べました。


日本商工会議所会頭「柔軟な長時間労働の規制を」

 「働き方改革実現会議」のあと、日本商工会議所の三村会頭は記者団に対して、「時間外労働に何らかの上限規制を入れることには賛成で、今回の事務局案は全般的にはいいと思う。ただ、運送業者が渋滞で時間どおりに行けず時間外労働をするのがやむをえないこともある。業種によっていろいろな事情があるので、生の声を聞いてもらい、柔軟な長時間労働の規制を行ってほしい」と述べました。


専門家「実効性をどう高めるか課題」

 企業の労働時間の問題に詳しい慶応大学の山本勲教授は「罰則が設けられ残業できる上限が数値として示されたことは評価できる。統一の基準があるので労働者や第三者も含めいろんな人が検証しやすくなるのではないか。一方、実効性をどう高めていくかが課題で、労働基準監督署の取締り強化と、働きすぎていないか社会全体でチェックする意識作りも必要だ」と指摘しています。

 そのうえで、「企業も単に労働時間を短くするだけでなく、限られた時間で成果を出せるよう仕事の量や進め方も変え、生産性を高めていくことが求められている」と話しています。
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 法定労働時間の短縮働き方改革であるとして議論が進んでいますが、それで良いのでしょうか。働き方改革で労働時間を短縮すれば、
何かでその減った労働時間に相当するものを補わなければならないことになると思います。単純に考えれば労働者を増やすとか、生産を削減するとかになると思います。

 労働者を増やすことは
生産コストの上昇に繋がります。人手不足が深刻になるかも知れません。その結果、物価の上昇も起きるでしょう。
 生産の削減は
物価の上昇とか企業収益の減少を招くと思います。

 しかるにそれに言及した
議論がほとんどありません。これで良いのでしょうか。
 
 例えば、今の
長時間労働の中に、無駄な時間があるとします。つまり労働効率が悪い場合です。その場合は効率を上げれば物価の上昇や企業収益の減少を招くことなく、労働時間の短縮が可能です。
 しかしそれは実際に可能なのでしょうか。そもそも、
今の労働の中に、無駄な時間があるのでしょうか。

 今問題視すべきは、長時間労働自体よりも、
時間外労働のかなりの部分に「賃金不払い」がある事ではないのでしょうか。時間外労働の上限を口実にした賃金の不払いが存在することが一番の問題なのだと思います。電通のケースでも賃金の不払いが発見されています。
 長時間労働であっても、割増賃金を含め賃金が正当に支払われるのであれば、労働者の疲労感は緩和され、一方経営者は自ら時間外労働の削減に努めるはずです。ただ働きが放置されているから、経営者は長時間労働の問題に真剣に取り組まないのではないでしょうか。

 安倍政権はかつて
「裁量労働制」と称する無制限残業制、残業賃金不払い制を強力に推進しました。今回の「働き方改革」はそれとは正反対の方向に向いています。これは安倍総理哲学無きスローガン政治の実態を暴露するものだと思います。

平成29年3月11日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ