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ビールが値上げされてから記事にしても遅すぎる −新聞の消費税増税除外の見返りに、今まで酒税法改正を隠してきた、マスコミの読者(国民)への背信−

 日経新聞と産経新聞は社説で、酒税法改正に伴うビールの値上げについて、それぞれ次のように論じていました。
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社説 「酒の官製値上げは不健全だ」
2017/6/15付 日経

 スーパーなどで
ビール類の値上げが広がっている。酒税法の改正で酒の安売りへの規制が強化された結果だ。街の酒販店を保護し税収を確保するためと政府は説明するが、値上がりは消費を冷やすだけでなく、酒販店の経営改善にもつながらないのではないか。

 新たな規制では、仕入れ値に人件費などを加えた総販売原価を下回る価格で販売していると
国税庁が判断した場合、社名を公表したり改善命令を出したりする。効果がなければ罰金や販売免許取り消しなどの厳しい罰則が待つ。

 現実には、企業努力による
値引きと、不当な安売りとの明確な線引きは難しい。小売りの現場には「何が過度な安売りか、基準がわかりにくい」との声がある。

 小売業者は問題視されるのを避けるため、価格を決めるときに安売りを自粛せざるをえなくなる。結果として消費者の負担は増えていく。流通業の
健全な競争を阻害しないためにも、罰則などについては慎重な運用を望みたい。

 不当廉売の防止に関しては、これまでも独占禁止法に基づき公正取引委員会が摘発する仕組みがあった。なぜ法改正してまで
酒だけを特別扱いするのか。一般の消費者には理解しづらいだろう。

 今回の酒税法改正は、地方などの
中小酒販店の要望を受け議員立法で実現した。しかし長い目でみて、価格競争から守ることが本当に街の酒販店の存続や繁栄に役立つだろうか。

 量販店にはない個性的な品ぞろえや独自のサービスなど、地域に密着した創意工夫を重ねる方が、市場の開拓や固定ファンづくりに役立つのではないか。ユニークな小売店が増えれば地域の魅力も増し、観光振興にもつながる。

 発泡酒なども含めたビール類の市場は長く縮小し続けている。消費者の嗜好の多様化や健康志向の高まりの影響が大きい。メーカーの一部には今回の安売り規制を歓迎する空気があるが、高くても売れる魅力的な商品の開発に力を入れることも忘れてはならない。
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【主張】ビールの値上げ 消費者には分かりにくい
2017年06月07日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 消費者の理解は得にくく、かえって「酒離れ」を招かないか。

 今月に入り、ビールや発泡酒などが値上がりしている。酒類の
過度な安値販売を原則禁止する改正酒税法が1日に施行されたのを受け、大手スーパーが一斉に安売りを手控えたためだ。

 この法改正は、大手の安売り攻勢にさらされる
中小・零細の酒店を保護するという目的で行われた。違反には厳しい処分を科すといい、これが値上げにつながっている。

 だが、原価割れの不当廉売は、すでに独占禁止法が禁じている。
酒類だけを狙い撃ちし、いわば官主導の値上げを引き起こすのは、いかにも不合理ではないか。

 大手スーパーがビールなどを集客の目玉商品と位置づけ、採算を度外視した「特売」を繰り返してきたのは事実だ。このため、昨年の参院選直前、自民党などが議員立法で法改正をした。

 違反した小売店には、社名公表や
罰金、酒販免許の取り消しなどの処分を行う制度も導入した。

 改正法施行に伴い、店頭ではビールなどの販売価格が1割程度引き上げられている。店舗によっては、ウイスキーなども値上げされているという。

 今回禁じられたのは、商品の仕入れ値に、人件費や賃料などを加えた原価を下回る安売りだ。

 だが、
安売りの基準はあいまいである。人件費は売り場によって異なる店舗も多い。厳しい規制は、仕入れや輸送の合理化といった創意工夫による健全な価格競争まで損ないかねない。

 中小の酒販店は減少が続いている。スーパーやコンビニエンスストアとの競争激化もあるが、それだけが原因と考えるのは早計だ。地方の中小・零細企業は跡取り不足に悩んでおり、事業承継は大きな経営課題となっている。酒販店も例外ではないのだ。

 政府・与党は昨年の税制改正で、ビール類税率を段階的に一本化することを決めた。国際的に高いビールの税率を引き下げ、発泡酒などを上げる内容だ。これに逆行してビールが値上がりする現象は奇異なものに映る。

 人口減少や健康志向の高まりを受け、ビールなどの販売は12年連続で減少している。安売り規制はこれに拍車をかけないか。個人消費の回復にも、よい影響を与えるはずはなかろう。
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 今回財務省のしたことは、一言で言えば
市場経済の否定、統制経済志向であり、自由と民主主義の価値観からの逸脱です。このままで行けば、増税のための塩・たばこの専売制復活もあるかもしれません。

 共産主義者・社会主義者でなければ、これを強く批判するのが当然で有り、
日経・産経の批判は遅すぎであり、甘すぎます。
 個人経営の零細小売店が消滅していくのは時代の流れです。酒屋だけではありません。それを無視して本気で零細酒店を保護しようというなら、
時代錯誤と言うほかはありません。

 
酒税法の改正は昨年5月であり、改正を受けて、財務省が「公正な取引の基準」を定めたのは12月です。それ以降キリンビールが「一番搾り」のリベート削減を実施したほか、消費者の間でも駆け込みの買いだめの動きが顕著になるなど、今回の大幅値上がりは完全に予想された動きで有り、新聞社はこうなることは分かっていたはずです。

 しかるに昨年5月にも12月にもビールの値上げを予想したり、批判したりする記事は全く記憶にありません。いや、それどころか
酒税法の改正とか、ビールの「公正取引の基準」が制定されたというニュースも全く記憶にありません。国民の多数が同じではないでしょうか。

 批判するのなら、なぜもっと
早い段階で批判しなかったのでしょうか。実施後の6月になって今さら批判しても、手遅れである事は明らかです(それでもこの2紙は遅きに失しているとはいうものの、とにかく批判の声を挙げていますが、NHKや読売新聞などでは批判のトーンがありません) 

 新聞社
タイムリーに真実を読者に伝えて、官(財務省)の価格介入と大幅値上げを阻止する意図は、当初より無かったと考えるほかはありません。今の批判は単なるポーズ、エクスキューズ、アリバイ作りに過ぎません。一体なぜでしょうか。

 それは
消費税増税に関して、宅配紙新聞を除外するという特別扱いと、ビール増税が取引されたのだと思います。それは安倍政権にとっても言えることです。消費税増税約束を反故にした見返りとして、財務省によるビールの価格操作と結果的な増税を認めざるを得なかったのだと思います。

平成29年6月16日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ