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大病院が紹介状のない軽症患者を敬遠しているというのは本当か −そう言っているのは“かかりつけ医”だけではないのか−

 月刊文藝春秋の12月号に、「東大医学部の落日」というタイトルの次のような記事がありました。その一部(191ページ)で、大学医学部の付属病院が
売り上げ(診療費)の増加に力を入れていることを報じる部分がありましたので、ご紹介します。
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(前略)

  臨床能力重視に変わった

 さらに決定的なのは、教授選考のあり方が論文業積重視から、臨床能力重視に変わってきたという事実だ。その変化を生む大きな契機となったのが、04(平成16)年の国
立大学の独立行政法人化だった。
 それまで、国立大学は国から与えちれた予算の中で運営すればよく、幹部が経営を考慮する必要はあまりなかった。法人化直前の、04年度の国立大学全体の予算は2兆3381億円だが、そのうちの1兆2416億円を国からの運営費交付金で賄っており、附属病院収入は5957億円(約25%)
だった。つまり、大学運営予算の半分以上(約53%)を、固からの支援に頼っていたのである。

 ところが、法人化以降、この運営費交付金が年一%ずつ減らされることになった。16(平成28)年度の国立大学法人全体の予算は2兆4941億円と、12年前に比べ1560億円増加した。にもかかわらず、運営費交付金は総額1兆945億円で、1471億円削減されている。

 この、運営費交付金の不足分を補ぅのに
大きな期待を担わされているのが附属病院収入なのだ一六年度の国立大学法人の予算の中で、運営費交付金が占める都合は約四四%に
まで減少したが、一方、附属病院収入は増えて1兆45億円となり、40%を占めるまでになった。次に大きな収入が授業料等だが、構成比は約15%(3650億円)に
過ぎない。
附属病院を持つ国立大学にとって、その収入がいかに大きいかわかるだろう。
 こうした台所事情は、国立大学法人だけでなく、附属病院を持つ公立大学や私立大学でも同じだ。ある国立病院に勤めていた医師は、私立大学医学部の教授に転身したとたんに、
「毎月の会議のたびに、診療科別の売上を示され」患者を増やすように言われる」と嘆いていた。
 そのような環境にあって、臨床系(患者を診療する外科や内科など)の教室では、国公立大であれ私立大であれ、患者に人気のない教授を置いておく余裕はなくなってきている。
そのため、教授選考にあたって論文の業績だけでなく、臨床の実力も重視されるようになってきたのだ。

(以下略)
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 この記事を読んで私は以前マスコミで報じられていた、
かかりつけ医紹介状の話を思い出しました。
 11月19日のNHKニュースは、「『紹介状無い患者』の負担増 対象病院拡大へ見直し案 厚生労働省」というタイトルで、次のように報じていました。
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「紹介状無い患者」の負担増 対象病院拡大へ見直し案 厚生労働省
11月19日 4時36分 NHK


 厚生労働省は、紹介状の無い患者が、病床数が「500床以上」の大病院を受診した場合、初診で
5000円以上窓口負担を徴収する制度について、来年度にも対象を「400床以上」の病院に広げる見直し案をまとめ、今後、調整を進める方針です。

 厚生労働省は、
大病院が高度な治療に特化できるよう、症状の軽い患者が直接、大病院を受診するのを減らすため、診療所などの紹介状の無い患者が、病床数が「500床以上」の大病院を受診した場合、初診で5000円以上、再診では2500円以上の窓口負担を徴収することを昨年度から義務づけました。

 これについて、厚生労働省は、紹介状の無い患者の受診が減り、一定の効果が確認された一方、
「500床以上」の大病院が年々、減っていることを踏まえ、来年度にも制度の対象を「400床以上」の病院に広げる案をまとめました。

 ただ、中医協=中央社会保険医療協議会には、
対象をもっと広げるべきだという意見もあり、今後、調整が行われる見通しです。
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 以前から言われていることですが、この制度は、「
大病院は軽症患者の受診の増加に苦慮している。そこで本来の高度の医療を必要とする重症患者の治療に専念出来るよう、必要のない軽症患者を排除するために、“診療所など”紹介状を持たない軽傷患者からは治療費とは別の窓口負担金を徴収する」というものです。

 しかるに今回の文春の記事では、
大学病院(大病院)は売り上げ確保(増加)に必死だと言うことです。大病院は軽症患者を排除したいというのは本当でしょうか。疑問が湧いてきます。窓口負担徴収を伝える報道では軽症患者の増加に苦慮している大病院の声が伝えられることはほとんどありません。義務づけ」ないと窓口負担金が徴収されない実態があるとすれば、徴収は大病院の本意では無いのではないでしょうか。

 500床以上の大病院が減っているというのは、何を意味しているのでしょうか。大病院の需要がなくなってきたのかも知れません。それならば、大病院を守るための窓口負担金も必要なくなったと言えるのではないでしょうか。大病院ではない400床以上の“中病院”でも軽症患者が受診するのはやはり不都合があるのでしょうか。

 窓口負担金の徴収は、大病院(中病院)を受診する軽症患者を排除すると言うよりも、
軽症患者を“診療所など”に受診させるのが目的ではないのでしょうか。

平成29年12月6日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ