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所有者(相続人)不明の土地が九州の1.7倍に、相続制度が破綻
−相続制度の破綻は家族制度の破綻、家族制度の破綻は新民法の破綻、新民法の破綻は戦後民主主義の破綻−
平成29年10月26日のNHKニュースは「所有者不明土地2040年に1.7倍以上増の試算」いうタイトルで、次のように報じていました。
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所有者不明土地2040年に1.7倍以上増の試算
平成29年10月26日12時05分 NHK
土地の所有者がわからず放置されている「所有者不明土地」について、民間の研究会は、対策が進まなければ、2040年には現在九州に相当するとされる面積が、さらに1.7倍以上増えるという試算を公表しました。研究会は「大量相続時代を迎える前に迅速な対応が必要だ」と指摘しています。
これは、総務大臣などを務めた増田寛也さんが座長を務める民間の研究会が26日、記者会見で明らかにしました。
この研究会は、土地の登記が更新されず、所有者がわからなくなる「所有者不明土地」について、ことし6月、その面積が九州に相当する410万ヘクタールに上るという推計を明らかにしています。
会見の中で増田座長は「所有者不明土地」が利用されないことで、農業や公共事業などに及ぼす経済的な損失が去年1年間で少なくとも1800億円に上ると試算したことを明らかにしました。
さらに今後対策が進まなければ、2040年にはその面積が今より1.75倍の720万ヘクタールに増加し、経済的な損失も年間3100億円に膨らむと試算しています。
増田座長は「今後、団塊の世代から土地を相続する大量相続時代を迎える。事態は予想より早いペースで進んでいて、損失は税金で賄わなくてはならない部分も多い。抜本的な対策を急ぐ必要がある」と指摘しています。
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このニュース報道は公共事業などを行う上での不都合、それがもたらす経済的損失を指摘して、抜本的な対策の必要性を訴えていますが、原因については何も論じていません。
しかし、原因は誰が考えても、相続と登記の問題である事は明らかだと思います。
そして相続は民法の問題です。先頃法務省が配偶者を優遇することを主眼とした、民法(相続法)の改正案を提案していましたが、まさしく相続は民法の問題で、その所管官庁は法務省です。
次に登記についてですが、これも登記を取り扱っているのは各地の「法務局」である事からも明らかで、これも法務省の所管です。
そして今年になって1月19日のNHKニュースはこの問題について、「『所有者不明土地』の抜本対策検討 『骨太の方針』に方向性」というタイトルで次のように報じていました。
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「所有者不明土地」の抜本対策検討 「骨太の方針」に方向性
2018年1月19日 13時19分 NHK
持ち主がわからず放置されている「所有者不明土地」の対策を検討する関係閣僚会議が初めて開かれ、菅官房長官は、抜本的な対策を検討し、ことし6月に策定する、いわゆる「骨太の方針」に方向性を盛り込む考えを示しました。
相続の際に登記が更新されず、所有者不明のまま放置されている「所有者不明土地」の拡大が懸念されていて、政府は、安倍総理大臣の指示を受け19日、総理大臣官邸で菅官房長官や石井国土交通大臣らが出席して初めての関係閣僚会議を開きました。
この中で菅官房長官は「登記名義と所有者のずれが拡大すれば、経済活動にもさらなる悪影響が出るおそれがある。当面の措置として、所有者不明の土地であっても公共目的のためには利用可能とする新制度を導入することにし、法案の準備を進める」と述べました。
そのうえで菅官房長官は「財産権の基本的な在り方に立ち返り、土地に関する基本制度についての根本的な検討を行う必要がある」と述べ、抜本的な対策を検討し、ことし6月に策定するいわゆる「骨太の方針」に方向性を盛り込む考えを示しました。
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映像を見ると上川法務大臣も一応出席しているようですが、記事には発言の記述がなく、まるで人ごとのような感じを受けます。これで良いのでしょうか。
今回明らかになった「所有者(相続人)不明の土地」問題は、相続法・登記法の問題です。
こういう重大問題が発生していたにもかかわらず、昨年の6月に民間の研究者が発表するまで、所管官庁である法務省も、数ある大学の法学部の研究者も何の動きもしていなかったことは信じがたいことです。一体何故でしょうか。
それはこの問題は戦後の相続制度改正の破綻、すなわち戦後民主主義の破綻を明らかにしていているからだと思います。
戦前の男子の長子単独相続から、戦後の男女兄弟姉妹の均等分割相続への移行は、“戦後民主主義”のセールスポイントの一つですから、それがとんでもない結果を招いたことが公然化すれば、その余波は“戦後民主主義”の評価全体に及びかねない重大問題です。従って、近年“人権一筋”の法務省としては,動くに動けなかったのだと思います。
相続制度、登記制度が実質的に破綻している事実を認識もせず、外部から指摘されても何の反応も示さない法務省はもはや“死に体”と言うほかはないと思います。
平成30年5月3日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ