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民法改正(18歳成人)、成立してから問題点を報道するのでは遅すぎる、立法の過程に問題 −所有者不明土地問題に続く、国民不在の“問題官庁”法務省−

 6月13日のNHKニュースは、「『18歳で成人』2022年4月から 改正民法が成立」と言うタイトルで、次のように報じていました。
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「18歳で成人」2022年4月から 改正民法が成立
2018年6月13日 15時45分 NHK













 成人年齢を20歳から18歳に引き下げることなどを盛り込んだ改正民法が13日の参議院本会議で可決・成立しました。4年後の2022年の4月1日以降、18歳から成人となります。
 改正民法は、成人年齢を20歳から18歳に引き下げることや、
女性が結婚できる年齢を16歳から18歳に引き上げ男女ともに結婚できる年齢を18歳とすることが盛り込まれています。

 
飲酒喫煙競馬などの公営のギャンブルはこれまでどおり20歳未満は禁止とする一方、親などの同意なしにローンクレジットカードの契約を行うことなどは18歳から可能とするよう関連する22の法律も改正されました。

 改正民法は13日の参議院本会議で採決が行われた結果、自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。
 成人年齢の引き下げに伴って
若い人の消費者被害を防ぐため、2年以内に必要な法整備を検討するなどとした付帯決議も報告されました。

 改正民法は4年後の2022年4月1日から施行されることになっていて、18歳から成人となります。

 飲酒 喫煙 公営ギャンブルは20歳のまま
今回の民法の改正で変わること、変わらないことです。
 飲酒や喫煙が可能になる年齢を引き下げることについては与党内からも懸念の声が出され、これまでどおり20歳未満は禁止されます。
 競馬や競輪など4つの公営ギャンブルについても、これまでどおり20歳未満は禁止となります。

 一方、有効期間が10年のパスポートの取得や、日本と外国の両方の国籍を持っている人の国籍選択、性同一性障害の人の性別変更の申し立てなどは18歳から可能となるほか、親などの同意なしにローンやクレジットカードの契約を行うことも18歳から可能となります。

 
医師公認会計士司法書士などの資格を得られる年齢も18歳からに引き下げられます。ただ医師については6年間学ぶ必要がある大学の医学部を修了しないと国家試験を受験できないため、現実的には18歳で資格を得るのは難しいとされています。

 
10代悪質商法の被害 最も懸念
 政府は法律の4年後の施行に向けて、今後、環境整備を進めることにしています。最も懸念されることは成人年齢の引き下げで新たに成人となる
10代の若者が「デート商法」など悪質商法の被害に遭うことだとして、ことし4月には各省庁横断の会議を設け、消費者教育の在り方などを検討していく方針を確認しています。

 また
今年度中世論調査を実施して、成人年齢の引き下げについて国民の意識を把握して今後の取り組みに生かすとしています。
 さらに成人式について、18歳が大学受験の時期と重なることから、文部科学省など関係省庁を中心に、対象とする年齢や時期を含めた式の在り方を検討することにしています。
 成人式は法律による規定はなく、地方自治体が主体となって開催するケースが多いことから、政府は地方自治体と意見交換を行いながら、どのように行うのが望ましいか検討していくことにしています。

成人年齢 なぜ引き下げ
日本で初めて
成人年齢が「20歳」とされたのは、明治9年の法令にあたる太政官布告です。それ以来、およそ140年ぶりとなる今回の改正の背景には、少子高齢化の進展で働く人が減ってきたという現状があります。
 政府としては、18歳と19歳の若者に早く社会参加をしてもらうことで少子高齢化が進む
社会に大きな活力を与えたいとしています。


 法相「環境整備には万全を」
 上川法務大臣は記者団に対し「18歳、19歳の人がみずからの判断で人生を選択することができることになり、大変、大きな意義がある。
消費者被害については、課題の一つとして大きく取り上げられたので、小さな時からさまざまなルールを身につけ、そうした被害に遭う危険性について教育の中で学び、被害に遭わないような能力を身につけてもらうことができるように環境整備には万全を期したい」と述べました。

 官房長官「
大きな意義有する」
 菅官房長官は、午後の記者会見で「
少子高齢化が急速に進むわが国において、若者の積極的な社会参加を促し、その自覚を高めるうえで大きな意義を有するものだ」と述べました。
 そのうえで、「法律の施行までの期間を十分活用し、改正内容の周知徹底をしっかりと図っていきたい。そして
法務省を中心に関係省庁が連携して、成人年齢引き下げの環境整備に向けた施策が、十分効果を発揮することができるよう取り組んでいきたい」と述べました。
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 政府は一体なぜ成人年齢を引き下げたのでしょうか。成人年齢引き下げの理由として、少子化による人口減少による労働力不足を挙げていますが、大学教育が普及した現代で、成人年齢を18歳に引き下げても労働人口が増えるとは思えません。

 また成人年齢を
引き下げる一方で、女性が結婚できる年齢を16歳から18歳に引き上げるのは考え方として矛盾しています。男女を統一する必要があるかどうかの問題もありますが、引き上げではなく引き下げで男女とも低い方の16歳に統一する方が、理屈に矛盾が少ないように思われます。
 それに引き上げる理由がどうであれ、少子化を改善する方向に作用することはなく、どちらかと言えば少子化を加速する方向に作用することは間違いないと思います。

 それから18歳成人となった後も、
ギャンブルは禁止となっていますが、そもそも「成人」とは成人としての判断力、責任能力が備わったということが前提のはずです。であれば、成人であるにもかかわらず、20歳未満の者のギャンブルを禁止するのは、根拠のない“年齢差別”にならないのでしょうか。矛盾しているし法務省はお粗末だと思います。

 改正は
明治9年以来140年ぶりとのことですが、明治9年の20歳と、現代の20歳はどちらが成人(大人)と呼ぶにふさわしいでしょうか。平均寿命が40歳台だった明治初年と80歳台の現代との平均寿命の違いや、義務教育もなかった当時と、多くの若者が大学教育を受け22〜23歳まで親に養われている現代との教育期間の違いなどを考えれば、明治初年の20歳に比べれば、現代の20歳がの方が、遙かに「幼い」と言えると思います。

 NHKの番組の中で、改正民法の当事者である
18歳と見られる何人もの女子高生がインタビューに答えていますが、揃って18歳成年に否定的な答えをしていることからも、この点は間違いないと思います。これらを考えれば成人年齢引き上げ例えば25歳に)の議論はあり得ても、引き下げはあり得ないと思います。

 また政府は「
今年度中世論調査を実施して、成人年齢の引き下げについて国民の意識を把握して今後の取り組みに生かす」と言っていますが、そういう調査は改正民法の成立後ではなく、成立させる前にすべきことです。これでは国民の意識を把握せずに法案成立を急いだことになります。なぜ必要な調査をせずに成立を急いだのでしょうか。他意あるものと考えざるを得ません。

 不可解なのはNHKも同様です。改正民法
成立後サラ金問題などの消費者被害問題点を指摘するのでは遅すぎます。そういうことは審議の過程で視聴者に知らせて注意を喚起すべきです。NHKは“公共放送”の役割を果たしていません。

 成立を報じるニュースの中の街頭インタビューで、改正法の当事者となる18歳と見られる
若者がそろって18歳成人に否定的な回答をしているのは問題です。中には法案が審議されていることすら知らなかった者もいました。これは改正法国民の意思とは関係なく、あるいは意思に反して成立した疑いがある事を意味しています。

 こんなことが
民主国家においてあって良いのでしょうか。大事なこと(所有者不明土地の激増問題)を放置し、しなくて良いこと(成人年齢の引き下げ)にうつつを抜かす法務省は、二重の意味で“問題官庁”と言うにふさわしい存在だと思います。

平成30年6月20日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ