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マスコミは公務員の5年連続賃上げと、65歳定年引き上げを“淡々と”報じているだけで良いのか −ひたすら公務員天国造りに励む人事院−
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公務員65歳定年に…人事院 5年連続賃上げ勧告
2018年8月10日15時0分 読売
人事院は10日午前、今年度の国家公務員の月給を0・16%、ボーナスを0・05か月分引き上げるよう国会と内閣に勧告した。国家公務員の定年を原則60歳から65歳へと段階的に引き上げる定年延長の導入も求めた。
月給、ボーナスとも引き上げを勧告するのは5年連続。勧告通りなら月給は平均655円増え、ボーナスの年間支給月数は4・45か月分となる。年間給与は平均3万1000円増える。
財務省は10日、人事院勧告通りに国家公務員の給与を改定した場合、国家公務員の人件費は約360億円増えるとの試算を発表した。地方公務員の人件費も国に準じて改定すれば、約790億円の増額が見込まれ、国と地方を合わせると計約1150億円の増加となる。
定年の段階的引き上げは政府が2月、人事院に具体的な措置の検討を要請していた。人事院は10日に示した意見で、若者の労働力人口が減るなか、「質の高い行政サービスを維持」するには「60歳を超える職員の能力や経験を活用することが不可欠」と指摘した。
定年引き上げによる人件費増を避けるため、60歳超の職員給与は民間に合わせて60歳前の「7割水準」とする。人事が停滞しないよう、60歳になると管理職から外れる「役職定年制」の導入も盛り込んだ。いつから定年を引き上げるかは今後検討する。
人事院は、国家公務員の人事管理に関する報告も合わせて公表した。長時間労働是正のため、残業時間の上限を原則年360時間とする方針を明記した。前財務次官らによるセクハラ問題を受け、外部からの相談窓口を人事院に設置することも打ち出した。
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記事は人事院が公務員給与の引き上げを勧告したこと、5年連続の引き上げで月給が0.16%、ボーナスが0.05ヶ月分の増加である事、平均的な公務員一人あたり年間で31,000円のアップになること、これに伴う国と地方の財政負担は1,150億円の増加となること等を“淡々と”報じていますが、国の財政事情が相変わらず厳しい中で、この勧告が妥当なのか、何か問題があるのか、やむを得ないのかを判断する情報が何もありません。読者に対する情報提供としては、極めて不十分と言わざるを得ません。
日頃の主観を交えた報道ぶりとは、雲泥の差があります。
次に、定年年齢の引き上げを報じています。“若者の労働力人口が減る”ので、“質の高い行政サービスを維持”するために“60歳を超える職員の能力や経験を活用することが不可欠”と指摘したとあります。
民間でも再雇用などで就労年齢を60歳から65歳に引き上げる動きは大勢となっていますが、その理由は公的年金の支給年齢が60歳から65歳に引き上げられるからで、企業活動の維持・向上が目的ではありません。
公務員についても同様だったはずですが、そのことにはひと言も触れずに、あたかも「人口減少下」で、「質の高い行政サービスの維持」が目的であるかのように主張しています。
定年延長の直接の理由が年金支給年齢の引き上げである以上、給与の水準は年金支給までのつなぎとして、どの程度を支払えば良いかという観点から決定すべきです。財政逼迫の折から具体性のない「質の高い行政サービス云々」を口実に給与水準を引き上げるべきではありません。
この記事では報じられていませんが、8月11日の読売新聞の記事の中には、60歳後の人件費抑制について、次のような1項があり、今回の制度改定は大幅な人件費増を招くものであることが明らかになっています。
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人事院勧告 人件費の抑制課題…公務員65歳定年案
2018年8月11日5時0分 読売
・・・定年後に再任用される職員は増加傾向にあり、今年度は1万3000人を超えている。ただ、多くが短時間勤務で、意見書は「このまま再任用職員の割合が高まると、職員の士気の低下により、公務能率の低下が懸念される」と指摘した。
意見書は、60歳超の職員給与を民間に合わせ、60歳前の7割の水準に設定するとしたが、再任用に比べて膨らむ人件費をいかに抑制できるかが焦点となる。・・・
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士気が低下した再任用職員は減給あるいは解雇すべきではないのでしょうか。お役所は公務員の生活のために存在するのではありません。本末転倒しています。
次に人事院は給与水準について、“民間に倣い”60歳以前の7割とするとしていますが、どうしてここだけ“民間に倣い”なのでしょうか。役所と民間は制度や仕組み、前提が異なる点が多々ありますので、給与水準・制度の一部についてだけ、民間に倣うのは必ずしも合理的とは言えません。
まず60歳の給与水準が在籍全期間の中でどのように位置づけられているかが問題です。公務員は特別なことがない限り、年功で給与が上がり60歳定年時に最高額になるケースが多いと思いますが、民間ではピークは60歳以前(例えば50〜55歳)で、60歳時にはピークを過ぎていることが通例です。
60歳が生涯賃金のピークである公務員と、50歳前後がピークで後は下り坂となる民間企業では、60歳の位置が異なりこの点を無視した「60歳前の7割、民間企業倣い」は、実は体の良い「いいとこ取り」に他なりません。
次に役職定年についてですが、民間企業では今や50歳前後で管理職定年(あるいは子会社に出向・転籍)を迎えるのも珍しくなく、60歳で管理職を退くのでは遅すぎます。この点もしっかり民間の実態を調べて“民間に倣って”ほしいものだと思います。
このような重要な点を隠して主張する人事院も厚かましい限りですが、それを知らずに“淡々と”記事を書く記者は無能記者であり、知っているのに触れずに書く記者は悪質記者と言うべきです。
平成30年8月16日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ