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スマホ(携帯)業界の不当な抱き合わせ販売商法(SIMロック) −携帯電話料金値下げ 通信回線と端末は別商品−

 8月28日の読売新聞は、「携帯電話料金 競争促し値下げの環境整備を」と言う見出しで、次のように報じていました。
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携帯電話料金 競争促し値下げの環境整備を
2018年8月28日6時0分 読売

 携帯電話の料金が高すぎるとの不満は根強い。競争を加速させ、値下げに向けた環境を整備していくことが大切だ。

 
総務省は、携帯電話市場の競争促進に関する議論を始めた。有識者会議で具体的な対応を検討する予定である。

 会議に先立って、
菅官房長官は携帯電話料金について、「4割程度下げる余地があるのではないか」との問題意識を示した。

 携帯電話の加入契約数は約1・7億件に上り、「1人1台超」の時代である。生活やビジネスを支える機器として公共性が高い。

 利用者の負担を軽減しようという菅氏の狙いは理解できる。

 実際、消費支出に占める通信料の割合は年々増加している。2017年の
年間通信料は10年より2万円増えて10万円を突破した。特に若年層の負担感は重い。

 とはいえ、料金は
事業者が自由に決められる。見直しは、一筋縄ではいかない。

 安倍首相は15年に
携帯料金の高さを問題視し、一部で値下げが行われたが、水準は高止まりしている。大手3社で市場の9割を占めており、価格やサービスもほぼ横並びとなっている。

 3社は毎年、基地局の維持更新などに数千億円を投じてきた。今後、次世代通信規格「5G」の実用化に向けた投資も増える。

 しかし、大手3社の利益率は、トヨタ自動車など国際的競争を繰り広げている企業と比べて高い。ユーザーの間に利益還元を求める声が強い現状を、大手各社は真摯しんしに受け止めるべきだ。

 総務省は格安スマートフォンの普及に注力しているものの、3社の
寡占状態に変わりはない。

 
健全な価格競争が進展しない要因として、大手3社が格安スマホに回線を貸し出す際の「接続料」が高いとされる問題がある。

 
総務省が、接続料の妥当性を検証する仕組みになっているが、算出根拠があいまいだとの批判が絶えない。総務省は、接続料の引き下げにつながるよう、制度のさらなる透明化を図るべきだ。

 格安スマホがより安くなれば大手への値下げ圧力は強まろう。

 商慣行を巡る課題も残る。2年間の継続利用を条件に料金を割り引く
「2年縛り」は、端末を2年ごとに買い替える人ばかりが得をするとの批判がある。

 大手3社が実施した見直しは、違約金なしで解約できる期間を1か月延ばしただけである。
不十分と言わざるを得ない。利用者の不公平感をなくす努力が必要だ。
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 スマホ(携帯)の価格が諸外国に比べて、異常な高値水準に張り付いていて、
市場における価格形成に問題があると認識するのであれば、健全な自由競争市場を実現すると言う観点から、問題点と必要な対策を議論すべきです。

 そして、市場における価格形成の健全さの問題は、
公正取引委員会の扱うべき問題であるはずです。それなのにその所管官庁でもない総務相内閣官房長官がなぜ前面に立つのでしょうか。

 総務省はスマホ(携帯)業界の所轄官庁とは言っても、市場の健全さ、公正取引の問題を取り扱う部署ではありません。
価格形成に“官”が口を出して、行政指導をすることは、健全な自由競争市場の育成にむしろ逆行する動きです。

 また、現在の価格形成に問題があって、健全な自由競争の市場での価格形成を求めるのであれば、議論は
「不公平感」とか、「努力」などと曖昧な議論ではなく、独占禁止法などに基づく強制力のある措置に基づいて原因を把握し、対策を講じるべきです。

 以前この問題について、
公正取引委員会は次のように言っていました。
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スマホ
4年縛り 是正要求…公取委見解 「不当な囲い込み」
2018年6月29日5時0分 読売

 公正取引委員会は28日、スマートフォンを4年間の分割払いで販売する
「4年縛り」と呼ばれるプランについて、「独占禁止法上、問題となるおそれがある」とする見解を盛り込んだ調査報告書を発表した。一度契約すると他社に乗り換えづらくなり、消費者の選択権を事実上奪っていると判断。携帯大手に是正を求めた

 「4年縛り」は、KDDI(au)とソフトバンクが2017年夏以降始めた新たな販売プランだ。スマホを4年間の分割払いで購入し、2年後に同じ「4年縛り」プランに再加入するなど条件を満たすと、スマホを実質
半額で買える仕組みだ。しかし、再加入しないと分割払いの残金を支払う必要がある。NTTドコモは提供していない。

 報告書は4年縛りについて、「他社への乗り換えが
実質的困難になるおそれがある」と指摘し、利用者を不当に囲い込む問題行為との見方を示した。

 中途解約に1万円弱の違約金を課す「2年縛り」や、販売するスマホを
他社の通信回線は使えないようにする「SIMロック」についても問題があると指摘。こうした手法を組み合わせると、利用者を囲い込む効果増幅され、「独禁法上問題となるおそれが一層高まる」とした。

 携帯大手が中古スマホを扱う仲介業者に、国内で売らないように求める行為も独禁法上
問題になり得ると指摘した。

 公取委は「利用者を
不当囲い込む行為に対しては独禁法を厳正に執行していく」とし、改善が見られない場合は摘発を検討する。
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 公取の指摘は、総務省にレベルを合わせたような、本質から外れた末梢的な
“長期契約推進”と“違約金”などによる消費者の囲い込み行為の問題に終始しています。長期割引契約とそれに伴う違約金制度を設定する営業はスマホ業界に限らず、広く行われていて、必ずしも違法とか消費者利益に反するとは言えません。

 例えばガス会社が
割引を伴う長期契約を設定して、中途解約に対して違約金を課したりすることは、それだけで直ちに違法とか消費者利益に反するとは言えませんが、ガスの供給ガスコンロガスストーブセット販売していて、それ以外のコンロやストーブは使えない仕組みを取っていたら、それは明らかに消費者利益に反します。

 しかるに公正取引委員会の指摘は
“長期契約”“違約金”などによる消費者の囲い込み行為の問題だけで、「SIMロック」には言及しているものの、通信サービス端末機“抱き合わせ販売”には言及しておらず、問題の本質から外れた指摘と言わざるを得ません。

 日本のスマホ(携帯)企業3社は、
端末器通信サービスという、全く異質な商品を強制的に抱き合わせ販売し、複雑で難解な各社バラバラの料金体系(販売プラン)の下で、さらに複雑な割引制度を適用しており、他社との価格比較が簡単にできず(と言うより困難で)、結果的に健全な価格競争が不在の業界となっています。これがすべてと言って良いと思います。抱き合わせ販売の為に、本来行われるべき端末の価格競争も、通信回線の価格競争不発のまま今日に至っているのです。
 従ってこの点に触れずに、末梢的な問題である長期契約と違約金問題だけにこだわって、問題の本質を見逃し、単なる
官(総務省、内閣)の口出し(悪名高い行政指導)に止まっている提案は、何の実効性も持たず、価格形成の上でかえって有害です。

 かつて
固定電話サービスは旧電電公社ですべて取り扱われていて、公社は通信回線と端末(固定電話機)の両方を独占的に扱っていて、しかも端末は販売ではなく公社からのレンタルという取り扱いでした。従って、端末の種類は少なく、機能も限定されたものだけで、一般の家電メーカーとは別の「電電ファミリー」と言われる、電電公社と結びつきの強い少数の企業が、消費者とは無縁の世界で公社を相手に営業していました。

 やがて電電公社が分割民営化され、ほぼ同時期に端末の販売は公社から切り離され、固定電話機は街の
電機店で、他の家電商品と同じように自由に機種を選んで、市場価格で購入できるようになりました。
 その結果それまでとは比較にならない
多数の家電メーカーが固定電話機の製造・販売に新規参入し(反対に電電ファミリー企業は淘汰され)、市場は活気づき、多種多彩な新商品が店頭に並び、価格競争が実現して、消費者は恩恵に浴することができました。

 
通信回線と端末の抱き合わせ販売は、端末機メーカーが消費者ではなく、電話会社の意向に左右されるため、機種が少なく機能も限定されるなど、商品に消費者の意向を反映することが困難で、消費者に不利益と言う事は、この時代に既に明らかにされていたことなのです。
 しかるに携帯(スマホ)においては、当初(最初の一時期はレンタル制度でした)より抱き合わせ販売が制度として行われてきました。

 スマホの端末機が他の家電製品同様、家電量販店の店頭またはネット通販で、メーカーを問わず自由に購入できたらどれだけ便利でしょうか。スマホ営業を巡る弊害の原因が
通信回線と端末の抱き合わせ販売にあると言うことは明らかです。それにも拘わらず、スマホ料金に高値が指摘されてからかなりの日数が経過したにも拘わらず、話が抱き合わせ販売の弊害の議論に発展せず、2年縛り(年数固定)などの次元の低い話に止まっているのは、総務省などの本気度が疑われます。適当なところでお茶を濁して、話が本筋に及ぶのを回避することを目指しているように見受けられます。

 固定電話機の不当な抱き合わせ販売で、長年ぬるま湯に浸っていた
電電ファミリー企業は、抱き合わせ販売廃止と共に多くが淘汰されましたが、いま、スマホの世界で日本の端末メーカーが淘汰されつつある事は同一の視点から考えるべきです。
 消費者の料金負担だけが問題にされていますが、問題はそれだけではありません。日本の端末器メーカーが日本の市場、世界の市場から
消えつつある事は更に大きな問題です。端末機メーカーは、もっぱら携帯寡占3社を相手にした営業に力を入れ、消費者と距離を置いた営業のツケを支払わされているのです。

 
抱き合わせ販売が公正取引に反し、消費者と端末機メーカーの利益を損なうことは自明のことです。その間携帯3社は暴利をむさぼり続けてきました。
 なぜ、長年不当な抱き合わせ販売が続けられてきたのか、読売新聞はその問題に
口を閉ざすべきではありません。

平成30年9月16日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ