I112
少子化対策として進められた「子育て支援」の大きな嘘 −「女性の就労を促した」のは、少子化対策としては「逆効果」であった可能性は否定出来ない
9月5日の読売新聞社説は、「待機児童減少 楽観視せず着実に対策進めよ」というタイトルで、次の様に論じていました。
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待機児童減少 楽観視せず着実に対策進めよ
20220905 0500 読売 社説
希望しても保育所に入れない待機児童が減ったからといって、油断はできない。着実に施設整備を進めるとともに、保育士の確保に努めたい。
厚生労働省によると、今年4月時点の待機児童数は2944人で、1994年の調査開始以降で最少だった。最も多かった2017年の約9分の1だ。
女性の就労を促すため、政府は待機児童の解消を「目玉政策」に掲げ、施設整備の補助金などを充実させてきた。こうした事業を活用し、待機児童の多い都市部の市町村が、保育所の整備を進めた成果といえるだろう。
政府は、21年度から24年度までの4年間で、約14万人分の保育の受け皿を整える方針だ。少子化に歯止めがかからない中、子供を産み育てやすい環境を粘り強く整えていくことが大切だ。
ただ、待機児童減少の要因は、政府の施策が奏功したからだけではない。国が自治体に行ったアンケートでは、コロナ禍で感染への不安から、保育所の利用を控える親が増えた、という「利用控え」を指摘する声が多かった。
飲食店などに対する度重なる時短要請で、仕事を失い、保育所を利用できなくなってしまった人もいるのではないか。感染が収まり、経済活動が本格化すれば、再び保育需要が高まる可能性もある。
保育をめぐる課題は、ほかにいくつもある。
駅前など利便性の高い施設に希望者が集中する一方、郊外の施設には児童が集まらない、といったミスマッチが指摘されている。
千葉県流山市は、市内2か所の駅前に拠点を設け、郊外の保育所にバスで送り迎えしている。16年に146人いた市内の待機児童は3人に減ったという。こうした取り組みを広げていきたい。
保育士の人手不足は依然深刻だ。保育士の資格を持つ人は全国に160万人以上いるが、実際に働いている人は4割程度だという。仕事の責任が重い割に処遇が低いことも、職に就くことを敬遠してしまう一因のようだ。
政府は今年2月、保育士の月収を3%程度引き上げることを目指し、施設への補助制度を新設した。こうした仕組みを活用し、処遇の改善を図ることが重要だ。
子供が小学生になると、働く親が、放課後の子供の預け先に悩むという問題もある。児童館などで面倒をみる学童保育(放課後児童クラブ)の待機児童は、1万3000人以上に上るという。学童保育の受け皿整備も急務だ。
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社説は「女性の就労を促すため、政府は待機児童の解消を『目玉政策』に掲げ、施設整備の補助金などを充実させてきた」と言っていますが、これは誤りです。
もともと保育所の増設(待機児童の解消)に代表される子育て支援は、少子化対策の柱として推進されたのです。それを再確認するために、1994年の「エンゼルプラン」と1999年の「新エンゼルプラン」をもう一度振り返ってみます。
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今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/angelplan.html
平成6年12月16日
文部省 厚生省 労働省 建設省
1.少子化への対応の必要性
平成5年のわが国の出生数は、118万人であり、これは、戦争直後(昭和22年)の268万人の半分以下である。また、女性が一生の間に生む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.46と史上最低を記録した。
(中略)
2.わが国の少子化の原因と背景
(1)少子化の原因
(晩婚化の進行)
わが国においては、男女とも晩婚化による未婚率が増大している。昭和50年頃から未婚率は、どの年齢層においても上昇しており、特に、25歳から30歳までの女性についてみると、未婚率は昭和50年に18.1%であったものが平成2年には40.2%と飛躍的に増大している。
(夫婦の出生力の低下)
夫婦の持つ子ども数を示す合計結婚出生率は昭和60年には2.17であったが、平成元年には2.05とわずかであるが低下している。今後、晩婚化の進行が止まっても年齢的な限界から子どもを生むことを断念せざるを得ない人が増加し、出生率は低下傾向が続くという予測もある。
(2)少子化の背景となる要因
(女性の職場進出と子育てと仕事の両立の難しさ)
わが国においては、女性の高学歴化、自己実現意欲の高まり等から女性の職場進出が進み、各年齢層において労働力率が上昇しており、将来においても引き続き伸びる見通しである。一方で、子育て支援体制が十分でないこと等から子育てと仕事の両立の難しさが存在していると考えられる。
(中略)
3.子育て支援のための施策の趣旨及び基本的視点
(施策の趣旨)
子育てをめぐる環境が厳しさを増しつつある中で、少子化傾向が今後とも続き、子ども自身に与える影響や将来の少子化による社会経済への影響が一層深刻化し、現実のものとなることを看過できない状況にある。
従来から子育て支援のための施策は、国及び地方公共団体等で講じられてきたが、21世紀の少子・高齢社会を目前に控えた現時点において、子育て支援を企業や地域社会を含め社会全体として取り組むべき課題と位置付けるとともに、将来を見据え今後概ね10年間を目途として取り組むべき施策について総合的・計画的に推進する。
(以下略)
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新エンゼルプランについて
http://www1.mhlw.go.jp/topics/syousika/tp0816-3_18.html
重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について(新エンゼルプラン)の要旨
平成11年12月19日
I.趣旨
○ 少子化対策については、これまで「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(平成6年12月文部・厚生・労働・建設4大臣合意)及びその具体化の一環としての「当面の緊急保育対策等を推進するための基本的考え方」(平成6年12月大蔵・厚生・自治大臣合意)等に基づき、その推進を図ってきたところ
○ このプランは、「少子化対策推進関係閣僚会議」で決定された「少子化対策推進基本方針」に基づく重点施策の具体的実施計画として策定(大蔵、文部、厚生、労働、建設、自治の6大臣の合意)
II.主な内容
1.保育サービス等子育て支援サービスの充実
(1) 低年齢児(0〜2歳)の保育所受入れの拡大
(2) 多様な需要に応える保育サービスの推進
・ 延長保育、休日保育の推進等
(3) 在宅児も含めた子育て支援の推進
・ 地域子育て支援センター、一時保育、ファミリー・サポート・センター等の推進
(4) 放課後児童クラブの推進
(以下略)
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子育て支援策(保育施設の増設・改善)が少子化対策の柱として、国の最優先施策として実施されたことは明らかです。女性の就労促進が目的ではありません。
既婚女性が専業主婦・専業母におさまるか、兼業副婦・兼業母を選ぶかは、夫婦の人生観・生き方、夫の経済力などに関わる問題であり、国(または新聞社)が制度の創設・改定を通じて夫婦分業と言う生き方を否定し、共働きを促し・誘導(半強制)することは許されないことです。
今になってなぜこのような発言が出てくるのでしょうか。それには次の様な理由が考えられます。
1.当初より(保育所の増設に代表される)子育て支援は、「女性の就労を促す」のが(隠された)本当の目的であった。しかし、それを露骨に出すと反発が予想されたので、「少子化対策」を前面に出して話しを誤魔化した。しかし今や保育所の増設は定着し、本音を明かしても反発(実害)は少ないと考えて本音を明らかにした。
上記のエンゼルプランの経緯を見ても、少子化の原因は未婚の増加であり、子育て支援(保育所の増設)が少子化対策として有効だとする論拠はなく、当初から「誤魔化し」であった可能性は高いと言えます。
2.当初は少子化対策を目的として(保育所の増設に代表される)子育て支援を始めたが、全く成果(効果)が得られないので、責任追及を恐れ、それを免れるために目的を「女性の就労を促す」にすり替えた。
この2つの内のどちらか、或いは両方が彼ら(彼女ら)が嘘をつく理由と思われます。
嘘をつく理由がどちらであるにせよ、少子化対策の柱として実行に移された「子育て支援・保育施設の増強」が、ほぼ100%完遂されたにも拘わらず、少子化は全く改善せず、悪化の一途をたどったのはなぜでしょうか。
少子化対策としての子育て支援(保育所の増設)は全く効果が無かったものの、隠された目的である「女性の就労を促す」と言う一面では、大いに効果を発揮しましたが、それが表向きの目的である少子化対策にとっては「逆効果」となった可能性は否定出来ません。
さらに保育所の増設を柱とする子育て支援が、少子化対策として何の効果も無いことが明らかになった以上、廃止すべきと言う議論が展開されるべきですが、それが無いのは、目的が当初から誤魔化しであった事を示す“傍証”と言えるでしょう。
ここでもう一度エンゼルプランに示されている、少子化対策(子育て支援)実施に至る経緯を振り返ってみると、子育て支援を少子化対策の柱として選んだ経緯には、大きな疑問があります。
エンゼルプランを見ると、少子化の原因は「晩婚化の進行による未婚の増加」とされています。つまり少子化の原因は未婚の増加であり、未婚の増加の原因は晩婚化の進行と言う事になります。
であれば次に究明すべきは晩婚化の原因であって、「少子化の背景」でもなければ「少子化の背景の要因」でもないはずです。
しかるにここでは「晩婚化の原因」とそれに対する「対策」については、それ以上なんの言及もなく思考停止となり、話しが突然「少子化の背景となる要因」に飛んでいくのです。
「少子化の背景となる要因」として、「女性の職場進出と子育てと仕事の両立の難しさ」が指摘されていますが、「原因」と、「背景」と、「要因」の3つがどういう関係になるのか全く説明がありません。また、「原因」については年齢別の未婚率のデータや、夫婦の持つ子ども数を示す合計結婚出生率のデータが提示されていますが、「背景」と「要因」に関しては何のデータも示されず、誰の意見なのかも全く不明のままです。
結局「少子化の原因とその対策」が明示されないまま、「背景」と「要因」を巡る非論理的な主張が展開されています。要するに「少子化の原因と対策」がきちんとした形で明らかにされないまま、「子育て支援」に突入しているのです。
これらの1994年のエンゼルプランの論旨の非論理的展開と、2022年の読売の社説の「子育て支援は『女性の就労を促す』事が目的である」という部分を重ね合わせて考えると、「少子化対策」としての「子育て支援」は、当初より国民を欺く欺瞞であったと考えるのが妥当です。
そして、この読売の社説はその欺瞞は今も衰えることなく続いていることを示しています。
令和4年9月17日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ