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少子化問題と厚生白書

 我が国で少子化の問題が指摘されてからかなりの年月が経過しました。厚生省をはじめ、学者や、評論家の人たちが原因を分析し、その結果、託児所の不足などが理由で働く女性、共働きの女性が子供を産めないのが原因であるとされて来ました。そして、それらの女性を支援することが出生率向上の鍵であるとして、託児所を増やしたり、育児休業制度を導入したりしてきました。しかし、出生率はいっこうに向上しませんでした。

 やがて出生率が下がったのは共働き夫婦が子供を作れないからではなく、結婚しない人が増えたからであることが明らかになってきました。それまでの原因分析と対策は誤りであったと言うことになります。元々、専業主婦の夫婦に比べて共働き夫婦は子どもの数が少ないというデータはなかったのです。厚生省の女性官僚(既婚者は当然共働き)を初めとする共働きの女性たちが話しをすり替え、自分たちの待遇改善と補助金獲得を果たしただけに終わったのです。我々は貴重な時間と予算を浪費してきたと思います。

 そして今度また厚生省は、結婚しない人が増えたのは「女性が結婚や家庭に夢を託せなくなっている」ことが原因であり、父親の家事分担、公的保育サービスの改善が必要であるといっていますが、こういう結論を導き出した根拠は何なのでしょうか。何かアンケート調査でもしたのでしょうか。もしアンケートをしたのなら、どういう人たちを対象に、どういう方法で、どういう質問をしたのか公表すべきだと思います。この種のアンケートはよほど工夫をしないと、女性たちが結婚しない本当の理由はつかめません。彼女らは「今すぐにでも結婚したいが、相手が見つからない」とは、口が裂けても言いません。アンケートをしていないのならば、この結論は執筆者の空想の産物とも言うべきもので、何の価値もないと思います。「夢を託せなくなった」というのであれば、具体的に日本が外国に比べてどういう点で夢を持てない国なのか、そこまで明らかにしなければ、この分析は役に立ちません。

 「結婚とは女性が夢を託すもの」という考え方もいかがなものかと思います。このような考え方は現実離れを感じさせますし、現実離れは未成熟を意味していると思います。結婚したい相手がいれば結婚するし、いなければできないというものだと思います。「夢を託せなくなった」というのは結婚できない言い訳のような気がします。

 「先行する世代の働く女性が仕事と家事・育児の過重な負担で自分の時間さえもてない」「専業主婦は周囲の支援もなく一人で子育ての負担を負い、孤独に陥っている」のを見て結婚をためらっているとしていますが、結婚して子どもがいる人は、皆、夢のない生活をしているのでしょうか。結婚して子どもがいる母親たちは、結婚を後悔している人が多いのでしょうか。誰でも生活に苦労は付き物だと思います。楽しいことばかりではありません。ある意味でそれは当然です。しかし、苦しいことばかりではもちろんありません。このような主張には事実の誤認と論理の飛躍があります。相も変わらぬワンパターンの話しのすり替えはいい加減にしてほしいと思います。

 「出生率回復を目指した取り組みとは、男女がともに暮らし、子供を産み育てることに夢を持てる社会を作ることに他ならない」と、この期に及んでも抽象的で、意味のないことを言っています。この人たちは真剣に、まじめに考えているのでしょうか。この人たちが考えているのは、出生率の向上ではなくて、男にも家事をさせたいということと、託児所の保育料をもっと安くせよ、ということなのだと思います。少子化の問題を利用して日頃の主張をしているだけです。こういう白書の出版に時間と経費をかけるのは税金の無駄遣いだと思います。

 「自由気ままな未婚の今を楽しみ、結婚を先送りしている」とはいっても、オールドミスの末路が寂しい老後であることが分かってくれば、多くの人は結婚するようになると思います。しかし、それにはもう少し時間がかかります。先送りとは、確たる人生観、人生設計があってのことではなく、その日暮らしをしているということです。

 結婚しない人が増えた原因の中には、男女平等教育の結果、男らしさ、女らしさが減り、お互い相手に魅力を感じなくなったことと、お見合いの習慣が廃れて、自分で相手を見つけられない人が未婚で残るようになったこと、という二点があります。社会一般の反日的な風潮の中で、日本人全体が自身と希望を失っている一面も影響していると思います。もう一つ理由を挙げれば、それは女性が打算的になったからです。高度成長の時と違って結婚は必ずしも豊かな生活を約束してくれるわけではなくなりました。

 結婚してから産む子供の数が少なくなったのは、高学歴化に伴う、教育費の高騰です。子どもを大学まで出すのは本当に大変です。昔のように中学まで出せば、親の責任を果たせるのであれば親の負担感は軽く、子どもの数はもっと増えるはずです。学力の伴わない、学歴社会をを止めて、レジャー施設と化している大学を廃止することが有効だと思います。

 時間はもうありません。今すぐ効果のある対策が必要です。結婚する気のない人に結婚しろと言っても無理な話です。子供を産みたくない人に期待しても無駄です。一方で、世の中には三人目、四人目の子どもがほしいと思っていても、経済的な理由で断念している人は少なくありません。三人目四人目を産んだ人たちに、十分な補助金(一人月額10万円ぐらい)を支給することを約束すれば、出生率は目に見えて上昇すると思います。必要な財源は、独身者から増税してまかなえばいいと思います。独身者は担税能力はありますし、いずれ高齢化したときは、他人が産み、育てた子どもの世話になるわけですから、負担するのは当然だと思います。

平成10年6月13日       ご意見・ご感想は   こちらへ    トップへ戻る   I目次へ