I33
法務省の人権感覚
 

 3月8日の夕刊各紙に「人権擁護法案」の内容が発表されました。新聞はこの法案の「報道被害」に関する部分だけに、言論の自由の観点から懸念を示していますが、この法案はその他にも、「人権擁護」とは反対に国民の人権を侵害しかねない内容を含んだ、大変危険な法案だと思います。

 まず、この法律により設置される人権委員会は、人権侵害事件の調査をするために、「関係者に出頭を求め質問する」、「関係文書や物件の所持人に対し、その提出を求め、留め置く」、「人権侵害行為が行われたと認められる場所に立ち入り、文書等を検査し関係者に質問するとされていて、「正当な理由がなく・・・拒んだ者は30万円以下の過料に処する」とされています。

 これは、憲法に定められている人権擁護規定、すなわち第34条(抑留・拘禁に対する保障)や、第35条(住居侵入・捜索・押収に対する保障)などを、実質的に踏みにじるものだと思います。
 近代国家の国民は国家権力から自由の身であり、裁判所の令状に依らなけれは、出頭したり、捜索や押収に応じる義務が無いというのが人権擁護の大原則のはずですが、この法律では反対に、国家が国民に令状も無しに出頭したり調査に応じる義務を課し、正当な理由がなければ拒んではならないとされています。これは本末転倒だと思います。人権擁護が聞いてあきれます

 また、この法律は対象行為として、「人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病、性的志向(以下、人種等)を理由とする不当な差別的取り扱い」、「・・・人種等の属性を理由とする不当な差別的言動で、相手方を畏怖、困惑、又は著しく不快にさせるもの」、「職務上の地位を利用して・・・不快にさせるもの」、「公権力の行使に当たる職員が・・・虐待」、「学校の管理者が・・・虐待」、「配偶者の一方が・・・虐待」・・・など様々な行為をあげ、日常生活の幅広い範囲を対象としていますが、「不当な差別」、「著しく不快にさせる」等は、基準があいまいです。この法律により、国家が国民の日常生活の隅々にまで、監視の目を光らせて干渉することになり、国家権力による人権侵害を招来しかねないと思います。

平成14年3月10日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ