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厳罰化のねらい

 2月11日の産経新聞は
「刑法100年ぶり大改正 殺人の時効25年に 犯罪抑止へ法相諮問」という見出しで、次のように報じていました。

 「治安悪化に歯止めをかけるため、野沢太三法相は十日、有期刑の上限を最長三十年に引き上げることや、集団強姦(ごうかん)罪の新設などを柱にした刑法・刑事訴訟法改正案要綱を法制審議会(法相の諮問機関)に諮問した。殺人などの公訴時効も二十五年に延長される。法務省は法制審が年内にまとめる答申を受け、国会に改正案を提出する。明治四十年に制定された刑法は制定以来、約百年ぶりの大幅改正となる」

 各紙の報道をまとめると次のような改正になります。

強制わいせつ罪    上限 7年 から 10年に引き上げ
強姦罪         下限 2年  〃  3年 〃
強姦致死傷罪     下限 3年  〃  5年 〃
集団強姦        下限         4年 新設
集団強姦致死傷   下限         6年 新設

殺人罪         下限 3年 から  5年に引き上げ
組織的な殺人罪   下限 5年  〃  6年 〃
傷害罪          上限10年  〃 15年 〃
傷害致死罪      下限 2年  〃  3年 〃
常習的傷害      上限10年  〃 15年 〃
危険運転致傷罪   上限10年  〃 15年 〃

 法定刑が引き上げられと言う中で、下限が引き上げられる場合と、上限が引き上げられる場合とがあるのはいったいなぜでしょうか。常識的に考えれば、判決が下限に集中して立法の趣旨に反している場合は下限を引き上げ、上限に集中していて法律が足かせになっている場合は上限の引き上げになるはずだと思います。

 殺人罪は下限が3年から5年に引き上げられていますが、判決が下限の3年に集中していて、犯罪の抑止上問題があるという実態があるのでしょうか。近年裁判所が殺人罪に死刑判決をためらい、最近では無期懲役すら躊躇するという問題点はありますが、下限の3年に集中しているという問題は生じていないと思います。
 同様に傷害罪の上限10年に近い判決が増え、10年の上限が壁になっているという実態もなければ、傷害致死罪の下限2年に近い判決が増えて引き上げの必要が生じているという実態もないと思います。

 それではいったいなぜ殺人罪の下限を3年から5年に引き上げたのでしょうか。それは単に他の犯罪とのバランスを取るためであると思います。
 今回の改正は性犯罪、女性に対する犯罪の厳罰化が目的だと思います。女性に対する性犯罪を厳罰化する中で、強姦致死傷罪の下限を3年から5年に引き上げると殺人罪(下限3年)よりも重くなってしまい、厳罰化に対して異論が出ることが予想されるので、それを未然に封じるために、形だけの殺人の厳罰化を盛り込んだのだと思います。

 法務省は「治安悪化に歯止めをかける」と言っていますが、日本国民を不安に陥れている犯罪の大半は強盗致死傷、強盗、窃盗などの財産目当ての犯罪ですか、今回の改正はこれらの犯罪の厳罰化は全く盛り込まれていません。
 また、同日の朝日新聞の報道によると、法務省は傷害罪の厳罰化について、
「かつてなら殺人だったが、医療の進歩で一命を取り留めた深刻な事件が多いことを踏まえ、刑の上限を10年から15年に引き上げる」と言っていますが、それが理由であるならば傷害罪ではなく、殺人未遂罪の厳罰化を提案するべきです。

平成16年2月11日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る   目次へ