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少子化対策の失敗を世代間格差の問題にすり替える悪質な議論


 6月16日の読売新聞と産経新聞はそろって「年金問題」、「世代間の不公平問題」を論じていました。
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〈読売新聞〉6月16日

[Nippon蘇れ]共生(7)「負担ばかり」憤る若者(連載)
 高校生100人が国会議員にモノ申す——。

 今年3月、衆議院議員会館で、ユニークなイベントが開かれた。高校生が結成した団体「僕らの一歩が日本を変える。」が主催した討論会。超党派の国会議員が、「日米関係」「いじめ問題」など10テーマで受けて立った。その中に「社会保障と税」も。
     ◎
 千葉県の私立女子高3年の村上晃理(ひかり)さん(17)は「社会保障と税」の議長役を買って出た。
 白熱の討論会を振り返って言う。「社会保障はほとんどが高齢者向けで、若者への支援は手薄。雇用不安で子どもを持つどころか結婚できるかどうかも分からない。そんな私たちばかりに負担を押しつけるのは勘弁して下さい」

 社会保障給付費の7割が年金など高齢者向けで、子育て支援など家族政策は5%にすぎない。高齢者は医療費の自己負担なども少ない。「世代間格差は歴然。あまりに不公平です」
 少子高齢化はずっと前からわかっていたのに、なぜ大人たちは世代間の格差を放置してきたのか。不信と不満が膨らむ。

(中略)

 超高齢社会の問題を考える時、主役は現在の高齢者だろうか。
 違う。これから支え手となり、未来に高齢者となる若者たちだ。(社会保障部 大津和夫)
   
 ◆私の処方箋 6面 工藤啓氏×小塩隆士氏
 成熟した超高齢社会として蘇(よみがえ)るには、ツケを次世代に回すことなく、負担を分かち合わなくてはならない。小塩隆士・一橋大教授と、NPO法人「育て上げ」ネットの工藤啓理事長に処方箋を問う。

 ◆「格差」すら知らぬ若者。制度学ぶ場作れ 世代間で交流 対立が共生に 低賃金で不安定 彼らにも目を
 ◇工藤啓 NPO法人「育て上げ」ネット理事長  
 10年以上、ニートやひきこもり、経済的に困窮する若者たちを支援している。
 社会保障について、若い世代ほど不利という世代間格差が指摘され、若者と高齢者の対立をあおるような論調もある。しかし、多くの若者は格差や対立と言われてもピンときていない。むしろ「知らない」「関心がない」というのが実情だ。
 若者には、税や社会保険料など自立して生活するうえで必要な費用や制度について、学ぶ機会がほとんどない。これでは生活設計も立てられない。そこで、2006年度から始めた高校生向けの金銭基礎教育プログラムのなかで、社会保障にも触れている。
 社会保障は、病気や失業など生活上のリスクに社会全体で備える仕組み。そうした理解がないと、例えば年金を金融商品のように損得勘定だけで考えてしまったりする。
 制度をよく知らないまま、漠然としたイメージで不信・不安が広がっているのが現状ではないか。社会保障も含め、自立生活に必要な費用や制度について、義務教育段階から教える必要がある。
 世代間の対話も重要だ。互いの実情を知れば、対立ではなく、共生を目指すようになるはずだ。
 「御用聞きサービス」と称して、若者が地域の高齢者らの家に出向き、掃除や草取りなどをする事業を行っている。高齢者は額に汗して働く若者に感心し、若者は独り暮らしの高齢者の大変さを実感する。核家族化が進むなか、世代間交流の場を作ることは重要。共に生き、助け合えるコミュニティー作りにもつながる。
 ただ、「連帯」「共生」といった理念だけでは解決しない問題に、今の若者たちが直面しているのも事実だ。
 厳しい雇用情勢のなかで、低賃金で不安定な働き方が増えた。家族や地域のつながりも薄れた。企業や家庭が若い人を支える力は弱まっている。共働きでないと生活できないのに、保育所も学童保育も足りない。親の経済格差が教育格差につながっている実態もある。若者が抱える問題も、発達障害、精神疾患、虐待など複雑化している。
 若い世代の「困っている人」に、もっと目を向けてほしい。そして、彼らの実情が施策に反映されるよう、国の審議会などの政策決定過程に若者が参画する機会を増やしてほしい。それによって「何かが変わった」という体験を積み重ねれば、若者の政治への関心も高まる。
 若い世代への支援を拡充することは、社会・経済の支え手を増やし、
少子化に歯止めをかける意味で、最優先すべき社会投資だ。
 
 ◇くどう・けい 2001年に「育て上げ」ネットを設立。内閣府、厚生労働省、東京都などで若者支援に関する検討会の委員を歴任。金沢工業大客員教授。36歳。
 
 ◆生活支援の基準 「年齢」ではなく「所得」に 就労環境の改善が少子化対策 裕福な高齢者も応分の負担
 ◇小塩隆士 一橋大教授 
 社会保障制度は本来、生活に困っている人を困っていない人が助けるのが基本だ。だが、今の制度は、給付や負担を決める基準が、所得ではなく年齢になっている。このため、高齢者なら裕福でも給付を受けられ、負担が軽減される一方、若年層は低所得でも十分な給付を受けられない。「生活が苦しい若者が、豊かな高齢者を支えている」という面があることも否めない。
 しかも、必要な税・保険料の引き上げを行わず、将来世代にツケ回すことで、年金など高齢者向け給付を拡充してきた。後に生まれた世代ほど負担に対して給付が少なくなる。この「世代間格差」問題は今後、一層深刻になるのではないか。
 こうした問題は、順調に
人口が増え、経済が成長していた時代には、問題にならなかった。現役世代の賃金が右肩上がりに上昇し、税・保険料収入も増大するなかで、大きな負担感もなく給付を拡充できた。
 しかし、今は高成長は期待できず、
人口も減少している。働く環境も変化し、雇用者の3人に1人以上が非正規労働者だ。現役世代に貧困層が広がり、所得に比べて過重な負担を強いられたり、保険料が払えず制度から排除されたりする人も出ている。制度の基盤を揺るがす事態だ。
 社会保障・税一体改革で消費税率を10%に引き上げることが決まり、将来世代へのツケ回しという無責任状態に一定の歯止めがかかった。一歩前進だが、引き上げ分5%のうち4%は今の制度を維持するために使われる。これまで調達を怠ってきた財源の穴埋めにすぎず、制度の持続可能性が保証されたわけではない。
 「世代間の支え合い」や「連帯」などのスローガンだけでは、持続可能な制度は実現しない。世代間格差を是正し、若年層の信頼感を高めることが重要だ。
 ただ、高齢者に対する一律の給付カットや負担増は適切ではない。高齢期ほど貧困率は高く、支援が必要な人も多い。
 ポイントは、給付や負担の基準を年齢から所得に改めることだ。高齢者も所得に応じて現役世代と同様の負担をしてもらう。公的年金等控除や医療・介護保険の自己負担の見直しなどが検討課題。長寿化が進むなか、年金の支給開始年齢引き上げも避けて通れない。
 教育や職業訓練を拡充し、若年層の生活基盤の底上げを図ることも大切だ。若者の就労環境の改善は最大の
少子化対策。保育所整備などの子育て支援と併せて強化すべきだ。
 将来世代にどのような社会を残していくかを考え、社会保障制度のあり方を見直していく必要がある。
 
 ◇おしお・たかし 旧経済企画庁、神戸大教授などを経て、2009年から現職。専門は公共経済学。著書に「効率と公平を問う」など。52歳。
 
 ◆揺らぐ支え手 
 若い世代に低賃金・不安定雇用が広がっている。社会・経済の支え手の「体力」低下は、税・社会保険料の減収を招き、消費を停滞させ、
少子化を加速させて、社会保障制度どころか日本の将来そのものを危うくする。政府も危機感を抱き、今年度から若者の採用・育成に積極的な「若者応援企業」の認定制度をスタート。さらに、新婚世帯への住宅支援など結婚・出産を後押しする政策を強化する方針だ。
 
 ◆痛み分かち合う時 
 人口増、右肩上がりの経済成長、正社員で定年まで働く日本型雇用。従来の社会保障制度の前提は、大きく様変わりした。年齢で「支える側」と「支えられる側」を区切るのではなく、助けを必要とする人を支え、世代を超えて負担を分かち合う仕組みが求められる。社会保障への信頼を取り戻すことが、人々の不安を減らし、消費を活性化させ、日本を蘇(よみがえ)らせるはずだ。(社会保障部 大津和夫)
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〈産経新聞〉6月16日
【日曜講座 少子高齢時代】論説委員・河合雅司 年金支給年齢引き上げ

 ■現在の高齢者も“痛み”分担を

 年金支給開始年齢の引き上げ案が再浮上してきた。政府の社会保障制度改革国民会議は、67~68歳を念頭に検討する方針を示している。

 現在、65歳に向けて段階的に引き上げられている途中だ。これをさらに上げようというのである。

 40年後の日本は、年金受給者となる65歳以上が総人口の4割を占める。これでは、年金に限らず社会保障制度はとても維持できないだろう。高齢世代にも支払い能力に応じた負担を求めるしかない。

 日本ほど高齢化が進むわけではない米国やドイツは67歳、英国は68歳まで引き上げる予定だ。高齢者の雇用確保策とセットでなければならないが、日本にとって避けられない課題だといえよう。

 ◆対象者は現在の若者

 言うまでもなく、最大のポイントは国民の理解だが、支給開始年齢の引き上げを「現在の年金受給者に負担を求める政策」であると誤解している人は少なくない。

 対象となるのは“将来の高齢者”、つまり「現在の若者」である。引き上げ論が浮上するたびに、中高年から反発の声が上がるが、すでに年金を受給している人や、まもなく受給者となる人に影響が及ぶわけではない。

 なぜなら、引き上げは人生設計上の混乱を避けるため、何十年もかけて少しずつ進められるからだ。日本で現在進められている65歳への引き上げも、「女性の報酬比例」の場合、決定から完了まで30年だ。国民会議が提案している再引き上げ案は、これから議論を始めようというのだから、さらに時間を要する。

 懸念されるのが、現在の高齢者らに“痛み”を求めることなく、現在の若い世代だけに「さらに負担をしてください」とお願いして、うまくいくのかということだ。

 最近は「世代間格差」という言葉が目立つ。その是非は別として、年金改革の成功には「あらゆる世代で負担を分かち合う」という公平感が不可欠だ。

 ◆世代内で支え合いを

 そこで、現在の高齢者にも応分の負担を求める2つの提言をしたい。第一に、年金受給者同士が支え合う「自立応援年金制度」(仮称)の新設だ。これは、一昨年2月に筆者が中心となって考案した本紙の年金制度改革案に盛り込んだアイデアである。

 具体的には、年金受給額が多い高齢者の基礎年金の税負担分を減額し、それを財源として低所得高齢者向けに「自立応援年金」として月額2万円程度を上乗せ支給する。

 これなら移行期間も不要であり、若い世代に新たな負担を求めることもなく最低保障機能を強化できる。

 対象を低年金者ではなく低所得者とするのは、低年金でもアパートの家賃や株の運用益などで生活に困っていない人がいるからだ。低所得者の線引きは、生活保護基準や所得税の公的年金控除額などを判断材料とすればよい。

 高額受給者は年金額に応じて減額する仕組みとする。最もカットされる人で月額3万円強だ。年金受給者のうち上位2割が想定される。

 もちろん、年金受給権は憲法29条で保障される財産権の一つだが、年金減額については「公共の福祉に適合するようにされたものである限りは違憲とはいえない」との昭和53年の最高裁判決があり、農業者年金基金の年金額を9・8%カットした例もある。

 ◆年金額の抑制も急務

 もう一つの提言は、社会の実情に合わせて年金額を下げる自動調整機能の導入だ。現在の受給者の年金額を減らすことで、将来の給付水準が下がり過ぎないようにしようというのである。

 少子化に伴う人口減少によって社会全体のパイが縮小するのである。年金だけ“社会の実力”以上の給付水準に留め置くわけにはいかない。

 実は、現行制度においても、おおむね100年間で一定水準の年金給付が続けられるよう、「マクロ経済スライド」と呼ばれる自動調整機能がある。賃金や物価の伸び率で増えるはずだった年金額を毎年一定の調整率分下げる仕組みだ。

 ところが、デフレ経済下では適用されないため機能してこなかった。これを物価や賃金が下落しても下げる仕組みへと変更することで、景気動向に関わらず発動させ、“将来世代”へのツケを減らそうということである。

 長い時間を要する支給開始年齢引き上げを「高齢者4割時代」に間に合わせるには、早急に国民の理解を得なければならない。そのためにも、各世代が少しずつ我慢する改革案が求められる。
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 これらの議論に共通して言えることは、現在の年金制度破綻に象徴される、少子化つまり人口減少問題に正面から取り組み、議論をしようとせず、
少子化対策の失敗に目をつぶり、この問題を世代間の不公平問題にすり替えようとしていることです。

 確かに世代間の不公平は著しく、若者の不満はもっともだと思います。それではこの不公平が生じた原因は何か、誰がその責めを負うべきかをまず考えなければなりません。

 原因ははっきりしています。少子化です。今の年金制度をはじめとして、すべての福祉を初めとして社会制度全体が、子供達の世代が親の世代を支えるという仕組みになっている以上、子供を産み育てるというのは、社会の構成員としての基本的義務であって、その義務を果たしていない人、つまり子供を産み育てない人、産み育てなかった人には、それに代わる負担をしてもらわなければなりません。

 具体的にどういう負担をしてもらうかと言えば、子供のいない(または子供が1人の)高齢者の年金・医療その他の福祉は削減し、子供のいない(または1人の)現役世代の年金保険料その他の税負担を加重すると言うことです。これが一番理にかなった解決方法です。

 子供1人を養育する費用は数千万円にもなると言われています。一般的に見れば子供のいない人にはその分負担能力があるはずです。

 また、そういう制度ができ、子供がいない(または1人)と言うことはかえって経済的にも不利だと言うことが分かってくれば、第2子、第3子を断念していた人の中に、もう1人子供を持とうという人が増えることが期待できます。

 最後にその対策として、「小塩隆士・一橋大教授と、NPO法人『育て上げ』ネットの工藤啓理事長に処方箋を問う」とありますが、処方箋にはろくな事が書いてありません。

 諸悪の根源が少子化と少子化対策の失敗にある以上、少子化対策の失敗に関与してきた人たちは、その失敗を直視しすべきです。まず、改めて少子化の原因と少子化対策の失敗を直視すべきです。

 雇用の不安定を未婚の増加の原因とし、それが少子化の原因としていますが、
雇用が安定していたときも少子化は進行していました。保育園を作れば作るほど少子化は進行しました。雇用の不安定も保育所の不足も少子化の進行とは関係ありません。無責任なことを言ってはいけません。

 少子化の真の原因、なぜ結婚しない人が増えたのかを突き止めると共に、
何の役にも立たなかった少子化対策(保育所の増設や育休の充実)に費やされている莫大な費用の支出を止めて、今後の少子化対策の費用に充てるべきです。

平成25年6月17日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ