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国民年金の第3号被保険者制度は、優遇なのか束縛なのか


 6月3日の読売新聞の、[論点スペシャル]「年金の『第3号被保険者』制度 『専業主婦を優遇』批判」という見出しで、次のように報じていました。
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[論点スペシャル]年金の「第3号被保険者」制度 「専業主婦を
優遇」批判
2014年6月3日3時0分 読売新聞

 サラリーマン世帯の専業主婦は国民年金の「第3号被保険者」とされ、自分で保険料を納めなくても、老後に基礎年金を受け取れる。「妻が外で働かないほうが得になる」という批判もあり、女性の活躍促進を成長戦略の柱の一つと位置づける安倍内閣のもとで、見直し論が目立ってきた。制度の現状と、有識者の意見を紹介する。(編集委員 石崎浩)

 国民年金の第3号被保険者は、厚生年金に加入する会社員、共済年金に加入する公務員など(第2号被保険者)に扶養される配偶者のことだ。20歳以上60歳未満、年収130万円未満であることが条件とされる。全国に約960万人いるうち男性は約1%だけで、女性が99%を占めている。

 第3号だった人に基礎年金を支給するための保険料は、厚生年金と共済年金の加入者全体で負担している。このため、主婦が自分で納める必要はない。

 「夫が割り増しの保険料を払っている」と思っている人もいるが、誤解だ。厚生年金の保険料率は、第3号の妻がいるかどうかとは関係なく17・12%(労使で半分ずつ負担)で、この中に基礎年金分の保険料も含まれている。共働きや独身の男女にとっては、第3号の分まで“割り勘”で負担していることになる。

 さらに、自営業者(第1号被保険者)の妻は、専業主婦でも月1万5250円の国民年金保険料を納めている。こうしたことから、「第3号の人を優遇し過ぎている」という批判が強い。

 また、パートの妻は年収130万円以上だと年金だけでなく健康保険の保険料も徴収される。この「130万円の壁」が、女性が働き方を抑える原因になっている。

 第3号の制度は、公的年金の1985年改正で創設された。それまでサラリーマン世帯の専業主婦は年金に加入するかどうかが任意だったが、この改正では未加入による無年金・低年金を防ぐため、専業主婦にも国民年金の加入を義務づけた。ただ、負担能力がないことなどを理由に、保険料は徴収しないことにした。

 最近、見直し論が目立つようになり、3月には政府の経済財政諮問会議で、4人の民間議員が連名で「130万円の壁」と税制の「103万円の壁」の是正を求める提言を行った。政府の産業競争力会議でも同様の意見が相次いでいる。

 だが、第3号の制度には「育児や介護のために、やむを得ず家庭にとどまっている妻が多い」などと、擁護する声も根強い。国民の意見は大きく割れているのが実情だ。

 3年ほど前には、厚生労働省が審議会に「年金分割案」という改革案を示した。「第3号の夫が支払った厚生年金保険料は、夫と妻が半額ずつ負担したと見なす」という内容だ。

 こうすれば、形式上は、専業主婦も厚生年金保険料を半分払ったことになる。「払っていない」という批判をかわすのが狙いだった。

 とはいえ、実質的に見れば、第3号の世帯に新たな保険料が課されるわけではない。第3号の妻は、現行制度と同様に基礎年金を受給できるだけでなく、夫の厚生年金の半分が妻名義に移る。「専業主婦がさらに有利になる」という批判を浴び、厚労省は撤回に追い込まれた。

 ◇103万円の壁 パートで働く妻の年収が103万円を超えると、夫が配偶者控除を使えなくなり、妻本人にも所得税がかかる税制上の仕組みのこと。夫の会社の配偶者手当も、妻の年収が103万円超だと支給されない場合があり、主婦が働き方を抑える原因になっている。

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女性の働き方
縛る…お茶の水女子大学教授 永瀬伸子氏

専門は労働経済学。女性のキャリア形成と家族形成について研究している。厚生労働省「女性と年金検討会」の委員も務めた。54歳。

 今の日本社会で最も考えなければならないのは、子どものいる女性が働きやすくなるように、雇用のあり方と社会保障制度の両方を大きく変えていくことだ。第3号制度の見直しは、その課題の一つと位置づけることができる。

 米国では男性の賃金が、中央値で見ると1980年代より実質的に少し下がっている。女性が働くことで、どうにか生活水準が上がっている。ところが日本では、男性の賃金水準が低下したのに、既婚女性は年収100万円程度までしか働かないことが多く、男性の賃金に頼っている。

 日本では従来、男性正社員が長時間働く雇用慣行があり、妻はフルタイムで働くことが難しかった。サラリーマンと専業主婦の世帯を第3号の制度が支え、パートの低賃金は「主婦だから」と容認されてきた。

 だが、近年は正社員の賃金低下に加え、非正規で働く男女も増えた。サラリーマンと専業主婦という、厚生年金がモデルとしている世帯はどんどん減っていくだろう。

 夫婦で働いて、それなりに暮らせる社会にしないと、男性の収入が下がるにつれて結婚する人が減り、少子化も進んでしまう。高齢化する日本の経済を支えるためにも、子どもを持つ女性が当たり前に働けるような環境を整備する必要がある。

 女性が活躍できないのは、その環境が整っていないからだ。第3号も、妻が低賃金でしか働かないことを前提とした制度であり、女性を縛っている。個人が外で働かない選択をすることは自由だが、国がそれを奨励するような制度を設けていることは大きな問題だ。

 公平性の面でも、例えば低所得で働き保険料を課されている母子世帯などと比較して、第3号の制度が果たして妥当なのか疑問だ。

 では、どう見直すべきか。

 第3号は、子どもを育てている期間に限定してはどうか。例えば12歳以下の子がいて、外で働いていない場合は、現行制度と同様に、保険料を納めなくても基礎年金の受給権を付与する。子育てをしていない専業主婦も当面、半額程度の年金権を得られるようにすることが考えられる。

 また、自営業者の妻についても、12歳以下の子がいて働いていない場合は、国民年金保険料を納めなくても基礎年金の受給権を得られるようにする。

 一方、130万円の壁を解消するために、パートなどの短時間労働者は賃金が低くても、収入に応じて厚生年金の保険料を納めてもらうことを原則とする。

 さらに、育児のために低賃金になった場合に将来の受給額を割り増しするなど、公的年金の給付設計全体を見直す必要がある。育児を年金制度の上で、より積極的に評価すべきだ。

 強調したいのは、第3号の制度を見直すだけでは、主婦に対する保護を手薄にするというメッセージとなり、かえって少子化が進みかねないということだ。

 女性が子どもを持っても、職業上の技能を向上させ、相応の賃金を得られるようにする必要がある。正社員と非正規労働者の大きな格差を是正するなど、労働市場と雇用環境を変えなければならない。保育所や学童保育などの拡充も急務といえる。第3号制度の見直しは、こうした改革とセットで行うべきだ。
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世帯で見れば公平…上智大学名誉教授 堀勝洋氏


年金シニアプラン総合研究機構理事長。旧厚生省などを経て現職。専門は社会保障法。著書に「年金制度の再構築」「年金の誤解」など。70歳。

 第3号被保険者制度には、今も存在意義がある。女性が家事、育児、介護を担う社会慣行が残り、女性が働き続ける環境が整っていないからだ。

 育児が一段落した後で女性が働こうとしても、パートなどの非正規就労がほとんどで、正社員への道は狭い。こうした主婦は、保険料を負担することが難しい。

 女性が働かない原因として批判されるが、夫のいる女性パートのうち就業調整をしている人は約2割にとどまり、「130万円の壁」を理由に挙げる人は、さらにその半分に過ぎない(厚労省のパートタイム労働者総合実態調査)。

 「不公平」とも批判されるが、果たしてそうだろうか。

 ここで、夫の賃金が月50万円の専業主婦世帯と、夫と妻の賃金が合わせて月50万円の共働き世帯を考えてみよう。厚生年金の保険料は、賃金に保険料率(現行は17・12%)を掛けた金額だ。世帯単位で見れば、両方とも50万円に保険料率を掛けた額なので、保険料は基本的に同じとなる。

 年金額も、世帯合計で見れば同じだ。厚生年金は納めた保険料に比例する仕組みであり、保険料額が同じなら年金も同額になる。基礎年金も、両世帯とも夫婦それぞれが同じ額を受給できる。このように、夫婦世帯の賃金が同じなら、妻が働くかどうかにかかわらず公平だ。

 自営業者などの妻は、専業主婦でも国民年金保険料を納めなければならないこととの不均衡も指摘されている。ただ、自営業者の国民年金の保険料は、本人が受ける利益に応じて負担する「応益負担」なのに対し、会社員などの厚生年金は負担能力に応じた「応能負担」で、そもそも仕組みが異なる。第3号に支給する基礎年金の費用を負担するのは、厚生年金と共済年金の加入者だけで、自営業者などは負担していない。

 第3号制度の代替案は、なかなか見つからない。厚労省は3年前に夫婦間での年金分割案を示したが、専業主婦が基礎年金だけでなく厚生年金も受給できるようになり、第3号への批判にこたえられない。離婚もしていないのに、国が一方的に夫の年金を半分に分割することも問題だ。

 自営業者などと同じ国民年金保険料を徴収すべきだという人もいる。だが、第3号の過半数は就労していないし、就労していてもその賃金は低い。所得の少ないこうした妻に保険料を課すことには問題がある。先に見た、賃金が同じ専業主婦世帯と共働き世帯の公平性も崩れる。保険料の未納も増えるだろう。

 第3号の夫の厚生年金保険料率を割り増しする案もあるが、今までのように事業主に半分を負担させることはできるだろうか。仮にできても、第3号の夫は労働市場で不利になり、リストラされやすくなるかもしれない。

 将来の方向としては、女性に不利な雇用環境を改善することにより、第3号の制度を廃止していくのが望ましい。

 だが現状では、第3号の制度は維持し、パート労働者への厚生年金の適用拡大を進めるべきだ。そうすれば妻の年金が充実するだけでなく、第3号の人数も減る。2016年に適用拡大が予定されているが、小幅にとどまり、第3号は約10万人しか減らない。さらに拡大する必要がある。
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 記事のタイトルは、 「『専業主婦を優遇』批判」となっていますが、記事の中では、「縛る」とか、「」とかの言葉が頻発していて、第3号被保険者について、どう捉えられているのかはっきりしません。

 永瀬伸子教授は、女性を「働きやすくする」と言っていますが、世の中には、専業主婦を希望する女性は多く、また働くとしても、育児・家事に妨げとならない「パート」程度の軽い仕事を希望している人も大勢います。教授の言う「働きやすくする」と言う言葉は、曖昧ですが、今よりも労働の割合が増えることを望んでいる人ばかりではありません。

平成24年10月 内閣府 「男女共同参画社会に関する世論調査」より抜粋


 教授は要旨として、第3号被保険者である専業主婦に対する年金の取扱を今よりも不利に変更して、それにより、就労を促すことが、女性を“束縛”から解放すると言うがごとき主張を展開していますが、この記事にも、過去の同種の新聞記事のどこをみても、
束縛”されている第3号被保険者(主婦)からの、解放を訴える声を見かけたことがありません。大声を上げているのは、不公平」を訴える第2号被保険者に属する(共働き)女性ばかりです。

 教授の主張は、現在の制度が「女性の働き方を縛る」というものですが、反対に教授の提案が実現すれば、専業主婦、準専業主婦(パート)としての生き方は大変困難になり、「女性の生き方を縛る」ことになるのは必至であろうと思います。この辺がまず大きな欺瞞であろうかと思います。なぜこのような欺瞞をするのでしょうか。

 「103万円の壁」、「130万円の壁」と言う批判もよく言われますが、
壁に遮られているはずの人(専業主婦など)からの声は紹介されず、壁の撤廃を訴えているのは、壁とは無関係の人(フルタイムで働く女性など)ばかりです。
 配偶者控除や、第3号被保険者の廃止があたかも対象者(専業主婦)の
解放であるかのような欺瞞に満ちた主張が、なぜ巷に満ちあふれているのでしょうか。

 第3号被保険者制度が専業主婦優遇かどうかは、上記の上智大学名誉教授 堀勝洋氏の意見にもあるように疑問ですが、仮にそうだとしても、世の中には反対に共働き優遇(専業主婦冷遇)の制度は、育児休暇制度、保育園に対する公費の投入を始め、いくらでもあります。彼女たちはそれらは「働いているから当然」と反論するかもしれませんが、労働の対価は賃金として受け取っているはずですから、それ以外の公的給付はすべて「優遇」といえます。
自分たちが優遇されている事実には口を閉ざし、少しでも自分たちが対象にならない(専業主婦に有利?)制度があると、目の敵のように、声を大にして不公平をアピールし、専業主婦向けの制度を廃止しようとするのはきわめて理不尽かつ冷酷な主張であると思います。

 彼等(彼女ら)は自分たちの主張が卑劣なもので、後ろめたいと感じているところがあるのでしょう。自分たちが受けている恩典には口を閉ざし、他人が受けている恩典のみに、執拗な攻撃をして廃止を要求するのはどう考えても卑劣な人間のすることであって、正面から主張できることではありません。だから、彼等
(彼女ら)の主張は屈折しているのです。
 それでは、彼女たちはなぜこのような屈折した主張をするのでしょうか。それは、彼女たちの多くは決して
望んで第2号被保険者になったのではなく、第3号被保険者になりたかったにも拘わらず、なれなかった人たちだからだと思います。

 平成26年6月4日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ