I54
突然提案された人口1億人、少子化対策はどこへ行った


 6月8日の朝日新聞は、「『50年後も1億人維持』 政府、骨太の方針に人口目標」という見出しで、次のように報じていました。
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〈朝日新聞〉
「50年後も1億人維持」 政府、骨太の方針に人口目標
田中美保
2014年6月8日11時19分

 政府は6月末に閣議決定する「経済財政運営の指針」(骨太の方針)で、50年たっても人口
1億人を維持する目標を盛り込む。そのために来年度予算以降、第3子からの出産・保育の給付を増やすなど子育て支援を手厚くして出生率を上げ、2020年に少子高齢化の流れを変えるという。政府が人口目標を掲げるのは初めてで、「人口減社会」への対応を重点政策に位置づける。

 骨太の方針は政府の経済財政諮問会議がまとめ、来年度以降の予算づくりや政策に反映される。朝日新聞が入手した原案では、人口減少をデフレ脱却などの次に取り組む「最大のハードル」として、「50年後に1億人程度の安定的な人口構造を保持する」という目標を盛り込む。

 諮問会議内の試算では、女性が生涯に産む子どもの数を示す出生率をいまの「1・43」から30年に「2・07」に回復させれば、60年代でも1億人を維持できる。原案は、この実現に向けて「20年をめどに少子高齢化の流れを変える」と掲げる。ただ、出生率の目標は「出産の強制」との批判があり、盛り込まない。

 具体的には、来年度以降、子育て支援に予算を重点的につける。とくに第3子からは出産や保育などへの給付を増やす。首相をトップにした人口減少対策の会議も設ける。子育て支援のほか、子育てと仕事が両立できるように女性だけでなく男性も働き方を変えるような仕組みを検討する。

 政府は来年度予算づくりから、高齢者向けが多い社会保障予算の見直しなどに取り組む。ただ、高齢者向けが抑えられれば介護サービスなどが低下するおそれもあり、見直しは簡単ではない。(田中美保
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 政府により1億人の人口目標が突然提示されました。今の人口よりも2500万人も少ない数字ですが、何の根拠も示されていません。
 多くの国民は、驚いたと思いますが、新聞紙上には何の驚きも、疑問の声もありません。大変不可解です。なぜでしょうか。

 今までの少子化対策はどうなったんだろうか。もう、国はあきらめたのだろうか、多くの国民が感じた疑問だと思います。今の今まで、国民は少子化対策の重要性を聞かされてきました。1億人を言い出す前に、政府にはこの点について説明する責任があると思います。うやむやにすることは許されません。

 1990(平成2)年、合計特殊出生率が1.57となってり、少子化が憂慮すべき問題として認識され始めてから20年余り、少子化解消にあらゆる対策を最優先で実行しなければならない、多くの国民はそう思っていたと思います。
 数々の少子化対策を提案した人達も、人口減少・国家の衰退を食い止めるために、少子化対策が重要と言って、育児休暇、保育所の増設などの施策を提案してきたはずです。

 それなのに、突然「人口1億人」は余りに国民を馬鹿にした話だと思います。人口の現状維持を放棄した1億人が提示され、何の説明もありません。なぜ、1億人なのでしょうか、1億人ならば維持できるのでしょうか。
 本来であれば、安倍総理に真っ先に噛みつくはずの、朝日新聞を初めとするマスコミ、評論家がこれに異議を唱えないのは、大変不可解です。彼等はかなり以前から、少子化対策の実効性は信じておらず、ただ、共働きの女性達が
少子化問題を食い物にしてきただけではないのでしょうか。

 彼等が異議を唱えないのは、従来の少子化対策の失敗・破綻がもはや誰の目にも明らかであり、少子化問題が重要な課題と認識され始めた当初から現在に至るまで、一貫して誤った少子化対策を主導してきた人達(厚生労働省の女性官僚、新聞社の女性記者田中美保さんも?)、大学の女性教授ら)は“身の危険(失業)”を感じ、他人を
攻撃するよりも自分を守る事を第一に考えざるを得なくなったからです。

 「1億人」のかけ声と同時に、「少子化対策」の言葉自体が聞かれなくなりました。少子化対策について言及すれば、必然的にその破綻は明らかになってしまうからです。だから、彼女らは“少子化対策”という言葉を避けるようになったのです。ついでに言えば、「少子化」が、いつの間にか「
少子高齢」に名称が変わっていますが、出生率の低下による少子化と、長寿命化や団塊の世代の高齢化による高齢化とは明らかに別問題です。これも問題の焦点をぼかし、問題をはぐらかそうとする意図が明白です。

 代わりに聞こえて来るようになったのは、「人口減少」と「地方の消滅危機」です。このまま人口減少が続くと、多くの地方の町村、小都市が立ちゆかなくなって消滅し、反対に東京に一極集中するというものです。
 人口減少と少子化は本来同義ですが、「少子化対策」という言葉を避けたいために、敢えて「人口減少」という言葉を使うようになったのです。
 また、地方の過疎化と人口の都市集中は、日本の産業が農業・漁業中心から、工業、サービス業、情報産業へと構造変化したことによる人口移動で有り、少子化とは別の問題です。
巧妙な話のすり替えに他なりません。
 

 今後の人口減少対策として、女性や高齢者の登用、外国人移民、外国人研修生の導入や、機械化等が提案されていますが、それによって目先の危機を逃れることは出来たとしても、出生率が人口維持に最低必要とされる合計特殊出生率2.1を上回らない限り、現在の人口規模はおろか、1億人を維持することも出来ず、日本の人口は減少の一途をたどることは明らかです。そして、出生率低下の最大の原因は若い男女の未婚化です。その点に触れない「人口減少対策」は欺瞞と言うほかはありません。
 1億人であろうと、1億1000万人であろうと、未婚率の低下、出生率の向上を実現しない限り、日本の未来はないのです。

 日本がやがてそうなることが分かっていながら、有効な手立てを取らず、効果が無いと分かっている偽りの少子化対策(すでに子持ちの共働きの世帯を対象とした各種の補助金のバラマキと、専業主婦の迫害)に熱を上げてきた、彼女らの罪は重いと言わなければなりません。未だにバカの一つ覚えのごとく、「子育てと仕事の両立」、「男性も働き方を変える」云々と言っているのは、まさに
思考停止としか言いようがありません(いや、元々彼女らには思考能力はないと言うべきかもしれません)。

 日本の人口が減少するのは、自然災害疫病の流行でも、戦乱によるものでもありません。それは国の施策の重大な誤りによるものです。他にどんな理由を付けて正当化しようとも、人口の減少は施策の重大な誤りとしか言えません。なぜ、その点を指摘しないのでしょうか。それは、本来であれば誤りを指摘すべき立場の人、学者や高級官僚、マスコミ関係者らが、すべてその過ちを熱心に主張してきた人たちであり、
彼等が自らの誤りを認めるという良心を持ち合わせていない人たちだからです。

平成26年6月27日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ