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「配偶者控除・配偶者手当見直し」議論に見る、大きな欺瞞

 10月22日の読売新聞は、「配偶者控除見直し検討…首相指示、15年度以降」と言う見出しで、次のように報じていました。
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読売新聞 2014年10月22日10時23分

配偶者控除見直し検討…首相指示、15年度以降

 安倍首相は21日の経済財政諮問会議で、女性の就労の妨げとなっている「配偶者控除」など税制上の措置や社会保険制度の具体的な見直し策を検討するよう関係閣僚に指示した。

 介護報酬の適正化や薬価制度見直し、医療費を抑える改革などについては、塩崎厚生労働相に年内をめどに諮問会議に報告するよう求めた。

 首相は「女性の活躍に向け、検討を進めていただきたい」と述べた。政府は配偶者控除などの見直しを2015年度以降に行う考えで、諮問会議で中期的な課題として議論する。先行して国家公務員の配偶者手当の見直しを検討する。

 夫が会社員で妻が専業主婦の家庭では、妻がパート労働などで年収が103万円を超えると、夫の課税所得を減らせる「配偶者控除」を受けられなくなる。夫が会社から配偶者手当を支給されなくなるケースもある。さらに、妻の年収が130万円以上になると、社会保険料は自己負担になる。

 伊藤元重・東大教授ら民間議員は、
就業時間を抑える要因となっている「103万円の壁」「130万円の壁」を見直し、妻の収入が増えても世帯の手取り収入が大きく減らないようにすべきだと提言した。
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 この記事にある、配偶者控除、配偶者手当見直しの主張を要約すると、

1.妻のパート収入が103万円を超えると夫が配偶者控除を受けられなくなり、また、夫が勤務先から配偶者手当を受けられなくなる。
  同じく130万円以上になると妻が社会保険料を自己負担しなければならなくなる。

2.それは、「103万円の壁」、「130万円の壁」であり、妻の就業時間を抑える要因となっている。

3.従って、その壁を見直し、妻の収入が増えても世帯の手取り収入が大きく減らないようにすべきだ。

 と言うことになると思います。あくまでその見直しは、見直しの対象となる妻(と配偶者である夫)のためであるとの主張であるかのようです。

 しかるにこの種の議論では、見直しを主張しているのは常に対象者以外の人達(共働きの女性、少なくとも専業主婦や準専業主婦ではない女性と、まれに男性)であることがまず
不可解極まるところです。
 伊藤元重教授も「妻
就業時間を抑える要因となっている」と言う言い方で、「妻・・・」とは言っておらず、読みようによっては、「妻のため」ではなく、「妻を働かせる」のが目的であるようにも読めます。

 この点で根本的な疑問は払拭できませんが、この主の議論が表向きは専業主婦、準専業主婦のために、彼女らを抑圧している「壁」を取り払うための見直しであるかのごとき主張となっていますので。そうであるとしたときの疑問点を考えてみます。

 専業主婦・準専業主婦の人たちが、現状の配偶者控除、配偶者手当を「壁」と認識してその見直しを要求するのであれば、それは
限度額の引き上げ要求となるはずです。伊藤教授の「妻の収入が増えても世帯の手取り収入が大きく減らないようにする」は、一見すると限度額引き上げの主張ともとれますが、文字通りに考えれば、配偶者控除・配偶者手当の全廃・段階的減額を意味していると解釈することも出来ます。

 しかし現在、制度の恩恵を受けている人たちが、配偶者控除や配偶者手当を廃止しろとか、限度額を引き下げろという要求をするとは考えられません。他の控除制度・福祉制度を考えてみても、それは明らかです。彼女達の主張は、配偶者控除・配偶者手当の対象となる所得の
限度額を、(たとえば)200万円に引き上げろとの要求になるはずです。
 
しかるに世の見直し論者が言っていることは、配偶者控除・配偶者手当の廃止です。主張していることと、その根拠が全く相反します。

 もし、この考え方に異論があるならば、
世論調査をしてみればいいのです。配偶者控除または、配偶者手当の対象となっている専業主婦とパートなどの準専業主婦に、世論調査をして聞いてみれば良いのです。配偶者控除や配偶者手当の廃止、減額に賛成か反対か、賛否を問えば良いのです。当然すべき世論調査だと思いますが、この種の世論調査は私の知る限り実施されたことがありません。これも不可解極まる点です。

 配偶者控除、配偶者手当の見直し論者はなぜこのような不可解な主張をするのでしょうか。それは、先ほど伊藤教授の言葉にもあったように、見直し論者の本当の目的は専業主婦、準専業主婦を経済的に圧迫して、
共働きを強いることにあるからだと思います。

 これは非常に
悪質な考えです。それは、女性(夫婦)の多様な生き方を否定するものだからです。あまり大きくは報じられませんが、多くの女性が専業主婦・準専業主婦を望んでいます。「夫婦分業(役割分担)」と言う生き方はなぜ圧迫されなければならないのでしょうか。

 かつて、
共働きが少数派で、専業主婦が多数派の時、彼女達(共働き女性)は、保育所の増設や育児休暇の創設に代表される共働き女性に対する公的子育て支援を要求するに際しては、女性の「多様な生き方」を認めろと言っていました。
 そして、彼女達は
自分たちが少数派ではなくなった今になって、多様な生き方を否定しています。

平成26年10月28日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ