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男女雇用機会均等法に反する「女性の活躍推進法」(性別の採用目標)


 8月29日の読売新聞は、「女性登用 後押し期待…大企業に数値目標 罰則なし、会社任せ課題」と言う見出しで、次のように報じていました。
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女性登用 後押し期待…大企業に数値目標 罰則なし、会社任せ課題 
2015年8月29日3時0分

〈推進法成立〉
 大企業に
女性登用の数値目標を作るよう義務づける女性活躍推進法が、28日の参院本会議で、自民、民主、公明など各党の賛成多数で可決、成立した。他の先進国に後れを取る女性の社会進出を強く後押しする期待がかかる。ただ、取り組みは企業任せの部分が多く、今後は実効性をどう確保するかに焦点が移る。
 同法では、従業員301人以上の大企業と国、地方公共団体に対し、2016年4月1日までに、女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画の策定、公表を義務づけた。300人以下の企業には努力義務とした。



 日本の労働力人口の減少が想定される中で、経済成長を続けるには女性の社会進出が不可欠だ。だが、企業における女性管理職比率は、
欧米の30〜40%台に対し、日本は11%にとどまる。世界経済フォーラムが世界各国の男女平等の度合いを測った指数(2014年)でも、日本は男女格差が大きいとして、142か国中104位に低迷している。

 このため、安倍内閣は女性の活躍推進を成長戦略の柱に掲げ、重要法案として成立を目指してきた。
 数値目標の設定は、
女性の採用や昇進の機会を増やすとともに、女性が長く働き続けられる環境づくりも進める。同法には、こうした効果が期待される。
 一方で、課題もある。

 女性の採用や登用の状況は企業・団体ごとに異なることから、各社の実情に応じて、数値目標を自主的に決められるようにした。そのため、安易な目標にしたり、計画を作るだけで実行しなかったりするケースが懸念される。衆院審議で目標達成の努力義務規定を盛り込んだが、目標が達成されなくても罰則はない。
 フランスは、役員の
一定割合を女性に割り振る「クオータ制」を法で定め、女性役員の割合を急速に伸ばしている。ドイツは16年から、大企業の監査役会での女性役員比率を30%以上にするよう義務づける。

 韓国では、女性管理職比率などの基準数値を国が示し、それを下回る企業には改善計画書を出させ、計画期間終了後に報告書を提出するよう義務づけた。この結果、女性管理職比率が上昇してきたという。
 女性登用制度に詳しい、大嶋寧子(やすこ)寧子(やすこ)・みずほ総合研究所主任研究員は「海外ではある程度強制的な手段を講じている例が多いのに比べ、日本の仕組みは弱い。海外との格差が広がる可能性もある。実効性を高めるには、
目指すべき水準を国が具体的に示し、行動計画の評価や助言を行うことが必要ではないか」と指摘する。

 〈女性活躍推進法のポイント〉
▽従業員301人以上の企業、国、地方公共団体は、
女性管理職比率などの数値目標を含む行動計画を2016年4月1日までに策定、届け出、公表をしなければならない
▽従業員300人以下の企業は努力義務
▽行動計画に書かれた取り組み内容を実行しない場合や、目標を達成できない場合の罰則規定はない
▽国は優良企業を認定
▽10年間の時限立法
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雇用機会の
均等だった。「女性の活躍推進」が意味するもの

 今回成立した、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」のポイントは、1.女性管理職の比率の目標値を設定する 2.目標数値は企業が自主的に設定する 3.未達成のルペナルティーはない 以上3点になると思います。そして、その狙いは「女性の採用や昇進の機会を増やす」事にある事は明白です。

 それでは一体どの程度増やすべきだというのでしょうか。一般に法律は、具体的にわかりやすく示されるべきで、何を根拠に目標値を定めるか、何の基準も示されない法律を制定されても、企業の実務者は戸惑うばかりだと思います。

 今回政府はなぜこのような無責任な法律を作ったのでしょうか。それはこの法律が、「男女雇用機会均等法」その他の法律に反し、男女平等を根底から覆すものだからだと思います。男女雇用機会均等法の一部を抜粋いたします。
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男女雇用機会均等法
第一条  この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法 の理念にのつとり
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。

(基本的理念)

第二条  この法律においては、労働者が
性別により差別されることなく、また、女性労働者にあつては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする。

2  事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本的理念に従つて、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない。
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 改めて言うまでも無く、
平等とは男女平等に限らず、機会の平等(均等)であって、結果の平等ではないのです。男女雇用機会均等法は機会の均等を求めているに過ぎません。そして機会が均等になったからと言って、結果が均等になるとは限らないことは言うまでもありません。

 しかるに今回の活躍推進法は、機会の均等から大きく逸脱して、
女性の採用や昇進の機会を増やす事を目的としています。これは機会の均等を否定して、結果の均等を目指したもので、明らかに雇用機会均等法に反します。

 女性活躍推進法が自らは目標値を定めず、ガイドラインすら示さずに企業に目標設定を丸投げしたのは、立法者が自らの行為が男女雇用機会均等法に違反する行為であると認識しているからだと思います。
 男女平等に違反する行為である事を認識していながら、敢えてその行為をし、しかも、予想される批判に対して責任を回避するために具体的な目標設定は民間企業に丸投げすると言う、極めて悪質な厚生労働官僚の実態を余すところなく示していると思います。

 彼等(彼女ら)が二言目には
“先進国、先進国”と言うのは女性活躍推進法の意図する女性管理職割合の目標設定について、まともな説明をなしえないからだと思います。
 
欧米の後追いをするだけなら、日本に議会は要りません。明治の初めに立ち返って、欧米から「お雇い外国人」でも招いて、法案作りを依頼すれば良いのです。

平成27年8月31日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ