I64
専業主婦(準専業主婦)への敵意(その3) −配偶者手当の廃止を狙う女性達の巧妙な嘘−


 3月30日の産経新聞は、「配偶者手当見直し『
中立な制度を』 厚労省検討会が報告書案」と言う見出しで、次のように報じていました。
-------------------------------------------------------------------------------------------
配偶者手当見直し「中立な制度を」 厚労省検討会が報告書案
2016年03月30日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 
専業主婦がいる世帯などの従業員に企業が支給する配偶者手当について、厚生労働省の有識者検討会は29日の会合で、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直し、就業時間の抑制を避けるよう求める報告書案を提示した。報告書は一部修正のうえ、4月上旬に決定。労働政策審議会(厚労相の諮問機関)などを通じ労使に周知を図るほか、5月に取りまとめる政府の「ニッポン1億総活躍プラン」にも反映させる。

 配偶者手当は各企業独自の制度で、労使交渉で金額や
要件を決めるのが一般的。ただ手当の支給要件として、配偶者の収入が配偶者控除の対象となる「年収103万円以下」としている企業が多く、女性が就業時間を抑制するケースも目立っていた。

 報告書案では、「(要件が)
女性の能力を十分発揮できない状況を生じさせている」と指摘。見直しの留意点として▽検討段階から従業員のニーズ把握▽賃金原資総額の維持−などを提示した。見直し後の賃金案については▽配偶者手当を廃止し基本給へ組み入れ▽一定の年齢までの子供がいる場合のみ配偶者手当を支給−といった具体例も列挙した。
--------------------------------------------------------------------------------------------

 この提案のポイントは、
 1つは今の配偶者手当制度は「
中立的」とは言えず、「中立的」に改めるべきだ。

 2つ目は、配偶者手当は
所得制限があり、配偶者を抑制しているので、その抑制をなくすべきだ。

 3つ目は、所得制限が
女性が能力を発揮する機会を奪っているので、機会を奪うのを止めるべきだ。
        以上の三点になると思います。

 2.と3.はほぼ同じ趣旨で、要するに配偶者手当の支給要件である、所得制限は女性の機会を奪い、抑制しているので、その「抑制」を撤廃すべきだと言う事になろうかと思います。提案の趣旨は配偶者手当の対象となっている配偶者の利益を守ると言うことです。少なくともそのような趣旨の提案であるように見受けられます。

 これに対して1.の「中立的」で有るべきだというのは、逆に言えば今の制度は中立的でなく、ある者に利益であり、ある者には不利益をもたらしていて不公平であり、改善を要すると言う指摘だと思います。
 それでは利益を得ているのは誰不利益を被っているのは誰という指摘なのでしょうか。一体この指摘・提案は誰のためなのでしょうか。その辺を曖昧にしていますが、はっきりと指摘した上でものを言うべきではないでしょうか。

 仮に中立的ではないとしたら、配偶者手当の対象となって恩恵を受けている人が、不利益を被っているとは考えられないので、不利益を被っている人がいるとすれば、それは配偶者手当の対象となっていない配偶者(フルタイムの共働きの妻)だと考えられます。

 そうすると今の配偶者手当は、理由は異なるものの配偶者手当の対象となっている人にとっても、対象となっていない人にとってもどちらにも不利益であり、改善を要すると言うことになりますが、それは事実なのでしょうか。
誰にとっても不利益である「手当」など存在するのでしょうか。とても信じられません。

 仮に双方に不利益だとしても、配偶者手当の対象になっている人といない人、その双方にとって改善の方向は同じ方向になるのでしょうか。
両者間で利害の不一致や対立はないのでしょうか。利害の対立があるとすればその調整の必要は無いのでしょうか。
 有識者達はその双方に意見の聴取はをした上でものを言っているのでしょうか。この検討会は「配偶者手当の利点」と
「その恩恵を得ている人の存在」を故意に無視しているのではないでしょうか。

 また「中立であるべきだ」という点についてですが、
この種の手当は本来労働の対価とは別であり、各家庭の事情や家族構成に応じて支給されるという性格のものですから、中立云々」は、見当違いの要求ではないでしょうか。多くの企業が支給している「住宅手当」、「扶養手当」などは、必ずしも「中立的」ではないと思います。
 これらの手当は日本企業に特徴的なもので、企業と社員が単に雇用者と被用者の関係ではなく、それ以上のものであることに由来していると思います。
 それにもかかわらず「中立」の要求を貫くのであれば、それは
日本的雇用慣習の全面否定に繋がりかねないと思います。

 次に、所得制限についてですが、企業の配偶者手当に限らず、公的な生活保護や福祉手当などにも、その性質上各種の
所得制限」があるのが一般的で、それを制約」として捉えるのは一般的な理解ではありません。
 もし配偶者手当の要件である所得制限が何らかの制約になっているとすれば、その対象者が要求するのは手当の
廃止ではなく、所得制限の緩和(103万円の限度額の引き上げ)となるのが普通です。配偶者手当の対象者がその廃止を望んでいるとは考えられません。
 

 最後に提案は「ニッポン1億総活躍プラン」に言及していますが、もとより何の意味も無い内容空虚なスローガンが、何のためにあるのかが垣間見られたような気がします。正当な理由も根拠もない提案を、
箔付けして正当化するために存在するものだと思います。
 少子化対策とは無縁の政策を「少子化対策」とこじつけて、予算獲得を図るのと同じです。我々は貴重な時間と税金を浪費してきました。

平成28年4月2日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ