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配偶者控除の廃止を巡る議論、有権者(主権者)を欺いて恥じない政治家と女性記者、官僚、専門


 10月6日の読売新聞は、「配偶者控除 選挙意識 悲願の改革断念」と言う見出しで、次のように報じていました。
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配偶者控除 選挙意識 悲願の改革断念
2016年10月6日5時0分 読売

 政府・与党は、専業主婦世帯などを税制面で優遇する配偶者控除の廃止は
当面は見送る方針を固めた。安倍内閣の看板政策「働き方改革」の目玉として検討していたが、東京都議選などを控え、専業主婦世帯の反発を招きかねないと判断したためだ。(政治部 石井千絵、有泉聡)

公明に配慮 政府が方針
一転

■目玉政策

 「女性が
就業調整を意識せずに働ける仕組みを作る必要がある一方、家庭における配偶者の貢献を評価すべきだとの指摘もある。国民的な議論を行いながら十分に検討していく」

 安倍首相は5日の参院予算委員会でこう述べ、配偶者控除の見直しを慎重に進める考えを示した。首相はかねて見直しに
意欲的だったが、この日は慎重な物言いに終始した。

 配偶者控除の見直しは、安倍内閣の重要政策である
「女性活躍促進の目玉として検討されてきた。安倍首相が2014年3月の経済財政諮問会議で「女性の就労を抑制する税制を見直すべきだ」と指示したにもかかわらず、事実上、手つかずの課題だった。

 自民党税制調査会(宮沢洋一会長)にとっても、
働く女性から「不公平」との批判がある配偶者控除の見直しは長年の悲願だった。首相が8月の内閣改造で「働き方改革」を新たな看板政策に掲げたことに加え、7月の参院選を終えて当面は国政選挙がないとみられたことから、党税調内には「千載一遇のチャンス」との見方が出た。党税調幹部らは9月30日、党本部で非公式会合を開き、見直しの議論を10月中旬に始めることを確認していた。

■巻き返し

 自民党内では一時、見直しがなかば既定路線となり、自民党の茂木政調会長は9月14日の報道各社のインタビューで、配偶者控除に代えて「夫婦控除」導入を目指す意向を表明した。税制改正を「聖域」とする自民党税調を政調会長がバックアップする異例の展開となったが、公明党は「待った」をかけた。

 茂木氏の発言を伝え聞いた公明党幹部は、「自民党は夫婦控除の導入でたたみかけようとしているが、課題も多い。今年中に結論は出せない」と不満を隠さなかった。公明党が慎重な理由の一つは、支持母体である創価学会に
専業主婦世帯が多いことだ。来年夏には公明党が重視する東京都議選を控えており、改革は選挙後に先送りしたいのが本音だ。党内には「配偶者控除の廃止となれば、選挙に影響しかねない」(中堅)との悩みが広がっていた。

 さらに、「首相が来年
1月にも衆院解散・総選挙に踏み切る可能性がある」との観測がにわかに強まったことで、公明党の慎重姿勢に拍車がかかった。

■落としどころ

 自民党
税調では「選挙を優先して、改革が後回しになりかねない」(幹部)と不満は根強い。一方、改革を先送りすれば、「野党から『働き方改革は看板倒れだ』との批判を招きかねない」(首相周辺)との懸念もある。

 だが、首相官邸や自民党執行部にとっても、衆院選となれば公明党の選挙協力は不可欠なだけに、
税制改正の議論では譲歩せざるを得ないのが現状だ。

 政府・与党内での今後の議論では、来年度以降を含めた見直しの方向性について、年末にまとめる税制改正大綱にどこまで書き込めるかが焦点となりそうだ。


女性の社会進出 道半ば…子育て・介護 拡充必要

 女性の就業拡大の妨げになっているのは配偶者控除だけではない。政府は現在進めている「働き方改革」の議論の中で、税制面に加えて待機児童の解消や介護保険の拡充など、総合的な対策を示すことが求められている。

 パートなどで働く妻の年収が130万円以上になると、妻本人が国民年金の保険料(月約1万6000円)と、国民健康保険の保険料(金額は居住する市区町村により異なる)を納めることになり、世帯全体の手取り収入が減ってしまう。これを避けようと、
働く日数や時間を抑える人が目立ち、「130万円の壁」とも言われている。

 仮に配偶者控除を巡る「103万円の壁」を「150万円の壁」に引き上げたとしても、「実際には130万円を意識して、就業時間を調整することになり、引き上げ効果は限定的」(大和総研の是枝俊悟
研究員)との指摘がある。

 専業主婦世帯は1980年に1114万世帯あったが、2015年に687万世帯とおよそ半減した。これに対し、
パートを含む共働き世帯は614万世帯から倍増し、97年以降、共働き世帯が専業主婦世帯を上回っている。配偶者控除の廃止見送りの方針は、社会の変化を反映していないとの見方ある。

 ただ、専業主婦でも、働きたいのに子育てや介護で就労できない人も少なくない。人材紹介などを手がける「アイデム」(東京)の研究所が2012年に行ったアンケートによると専業主婦の8割が「働く意欲」を持っていた。それでも働いていない理由について、5割強の女性が「仕事と家事・育児の両立が難しいから」と答えた。女性が出産や育児をきっかけに退職する現状を改める必要がある。(経済部 
沼尻知子
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 今まで政府・自民党は「配偶者控除は妻の年収103万円を超えると適用対象から外れるという、いわゆる“103万円の壁”があり、その壁が働く妻の就労を抑制している」として、女性が生き生きと働けるようにと、その壁の撤廃(配偶者控除制度の廃止)を主張していました。そして、(マスコミ報道を見る限り)この方針に対して反対したり、異論を唱える人は一人もいませんでした。

 しかるにこの記事では、
選挙を控え有権者の反発の恐れがあるので、配偶者控除の撤廃は見送りとし、それどころか正反対に限度額103万円を150万円に引き上げることが検討されるとのことです。配偶者控除の廃止には公明党の支持母体には反発が予想されるとのことです。

 公明党の心配がその通りだとすれば、現に配偶者控除の適用を受けている女性は、その
配偶者控除を“103万円の壁”と認識しておらず、その廃止を望んではいないと言うことになります。今までの廃止論者の言っていたことはウソと言わざるを得ません。
 
マスコミは多数の反対意見を黙殺し、専業主婦は反対しているにもかかわらず、反対意見がないかのごとく、配偶者控除の対象者が廃止を望んでいるかのごとく、虚偽の報道をしていたことになります。

 また、記事の中では統計データに関しても、「専業主婦世帯」と、「
パートを含む共働き世帯」を比較して、共働き世帯が専業主婦世帯を既に上回っていると言っていますが、配偶者控除の是非の問題ですから、パートの中の配偶者控除対象者は準専業主婦として、共働き世帯ではなく、専業主婦世帯と合算して比較しなければなりません。これもウソ報道と言って良いと思います。

 更に記事を見ると、この自民党の方針転換は、以下のように説明されています。

1.今年7月の
参院選挙を終えて、当面国政選挙がなく、今が千載一遇のチャンスと認識していた。
2.来年夏の
東京都議会選挙を控えて、公明党が有権者(主に専業主婦層)の反発を恐れた。
3.最近になって、「首相が来年
1月にも衆院解散・総選挙に踏み切る可能性がある」との観測がにわかに強まったことで、公明党の慎重姿勢に拍車がかかった。

 選挙は有権者が主権者としての
権利を行使する数少ない貴重な機会ですから、議員の候補者や政治家は、選挙に当たっては争点となるべき問題については、十分に主張して、国民に信を問わねばなりません。それでなければ選挙の意味がありません。
 選挙に於いて争点となるべき問題を
封印し、選挙が終わってから主張を始めるのは、有権者を欺く背信行為と言うべきです。

 7月の参議院選挙中はこの問題を
封印して選挙に勝利し、当面は国政選挙がないと見られた今が「千載一遇のチャンスだ」と言う認識は、選挙ではをつき、選挙が終わってから有権者裏切る行動を取ると言う、悪質極まる背信行為と言うべきです。

 今回の配偶者控除の廃止を見送り、逆に所得制限の限度額を引き上げるという提案は、
差し迫った選挙を乗り越えることだけを考えた、有権者を馬鹿にした提案と考えざるを得ないと思います。それにもかかわらず、この読売の記事には有権者に対する欺罔・背信という観点からの、当面の(一時しのぎの)限度額引き上げ案に対する批判がありません。

 反対は公明党が中心のようですが、公明党の支持者(創価学会員)の主婦だけが特殊な存在ではないと思います。各党それぞれ支持者の中に一定割合の専業主婦(準専業主婦を含む)がいるはずですから、各政党、立候補者はそういう有権者に対して
主張を明確にして選挙に臨むべきであり、マスコミは読者(専業主婦)の関心事に対しては何事も隠すことなく、各政党・候補者の主張や世論などをわかりやすく記事にして報じるべきです。

 記事の最後の所には、「専業主婦の8割が『働く意欲』を持っていた。それでも働いていない理由について、5割強の女性が『仕事と家事・育児の両立が難しいから』と答えた」とするアンケート結果の紹介がありますが、紹介する時は一部ではなく、
調査の全体像を明らかにするべきです。アンケート調査の中には「誘導質問」などの悪質な「世論操作」もあり、更に新聞記事の中には、調査結果の都合の良いとこだけの「つまみ食い」あるからです。

平成28年10月13日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ