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職場での旧姓使用は無責任な「公私別姓」

 平成29年6月28日の日経新聞と8月23日の読売新聞は、それぞれ「判決文令状旧姓OK 裁判官や書記官」、「旧姓でも銀行口座…手続き円滑化 政府要請 女性の活躍推進」と言う見出しで、女性の職場での旧姓使用について次のように報じていました。
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判決文や令状、旧姓OK 裁判官や書記官
2017/6/28 20:16 日経

 最高裁は28日、裁判官や書記官が判決文や令状に自分の氏名を記す際、結婚前の
旧姓を使うことを9月1日から認めると発表した。

 旧姓使用は民間企業で広がっているほか、国家公務員も2001年に認められた。裁判所でも内部の連絡文書などでは認めていたが、
判決文や令状は作成者を明確にする必要性が高いとして戸籍姓に限っていた。

 最高裁は「
男女共同参画社会の実現に向けて旧姓使用を認める範囲を広げており、裁判関連の文書も対象に含むことにした」と説明している。

 最高裁大法廷は2015年12月、夫婦別姓を禁じる民法の規定を合憲と判断したうえで、「
改姓による不利益は、旧姓使用が広がれば緩和される」と指摘していた。
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旧姓でも銀行口座…手続き円滑化 政府要請 女性の活躍推進
2017年8月23日5時0分 読売

 政府は銀行業界に対し、結婚前の
「旧姓」を使って、銀行口座を円滑に開設・利用できるよう対応を要請した。結婚後に口座の名義を変更するように求められることなどに対し、職場で旧姓を使用して働く女性を中心に不満が出ていた。現在は銀行によって扱いがまちまちだが、政府の要請で、前向きな対応が広がると期待される。

 政府は7月、全国銀行協会に対し、「可能な限り円滑に」旧姓での口座開設などが行えるよう協力を求めた。
女性の活躍を後押しするためだ。

 銀行口座は現在、本人確認を徹底する観点から、結婚で姓が変わると、名義変更を求められるケースが一般的だ。大手銀行では、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行は、所定の届け出をすれば、旧姓での口座利用を「認めている」とするが、積極的な周知はしていない。

 さらに各行は「合理的な理由が必要」などという姿勢で、実際に旧姓での使用を認めるかどうかは、現場の裁量に委ねられているのが実情だ。

 一方、ゆうちょ銀行や横浜、千葉など主な地方銀行では、
旧姓の使用を認めていない。不正な取引を防ぐために厳格な本人確認が求められているとの立場だ。

 政府は、6月に決定した「女性活躍加速のための重点方針2017」で、
「旧姓の通称としての使用拡大」を明記した。マイナンバーカードやパスポートでは今後、段階的に旧姓を併記できるようになる方向だ。

 ある地銀の関係者は「
公的な証明書類に旧姓が併記されるようになれば、対応しやすくなるかもしれない」と話している。政府の対応が進めば、業界全体の取り組みも加速するとみられる。

旧姓の使用 職場で拡大

 結婚して姓が変わっても、職場で旧姓を使い続ける女性は増えている。名前を変更した場合、
自分のキャリア(職歴)が分断されると感じる人が多いほか、取引先や職場で混乱が起きることへの抵抗感が根強いためだ。結婚や離婚などのプライバシーを、周囲に知られてしまうとの指摘もある。

 一般財団法人「労務行政研究所」が全国の上場企業などを対象に行った調査では、仕事上の旧姓使用を認めている企業の割合は1993年の13・2%から2013年の64・5%に上昇している。

 公的な場面でも、
裁判所で9月から、判決文などに裁判官が旧姓を使えるようになるなど利用が広がっている。

 職場での旧姓使用が拡大する一方、
仕事で使っている名前と報酬や給与の振込先口座の名義が異なると、本人確認の手間などがかかる。雇い主などから同一名義の口座を求められ、職場で旧姓の使用をあきらめるケースもある。
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 どちらの記事も詳細を報じていないのでよく分かりませんが、今回は
「旧姓使用」の問題として論じられていて、今までの「夫婦別姓」とは異なる問題のように見えますが、夫婦別姓にも触れているので共通する問題と認識されているようでもあります。

 しかし記事は旧姓使用が職場だけに限られるように書かれていて、
家庭や個人生活でも旧姓を使用するとは書かれていませんので、職場の「旧姓使用」とは職場だけで旧姓を使用することとすると、実体としては職場と職場以外の家庭や個人生活で旧姓(偽名)と現姓(本名)の二つの氏名を使い分けるということになると思います。夫婦別姓ならぬ、公私別姓です。

 
氏名は一人につき1つというのが大原則です。氏名に限らず固有名詞は1つが原則です。国の名前も地名も同じ国、同じ都市に2つの名前があっては混乱し、名前の意味がありません。一人で2つの名前を使い分けるのは、他意のある反社会的行為と言って良いと思いますし、偽名を使う人間にろくな人間はいないと言って言いすぎではないと思います。

 そして公私別姓は
職場と家庭では別人として存在することになりますが、それは正しい職業観なのでしょうか。
 
判決文は直接的には訴訟当事者である原告と被告のために作成する文書である事を考えると、そこに本名を書かないというのはいささか責任感を欠いていることにならないでしょうか。自分の都合だけで本名を伏せることができると考えているとしたら、裁判所判事本人責任感が欠如していると言われても仕方が無いのでは無いでしょうか。

 
「夫婦別姓」は必然的に夫婦だけで無く、親子別姓兄弟(姉妹)別姓を伴います。どこの家庭も表札は2枚要ります。家族の名前を並べて書いても、他人には夫婦なのか、親子なのか全く分かりません。もっとも近い親族が別姓となっては、姓の意味がありません。

 また、職場における
「旧姓使用(公私別姓)」2つの氏名の使い分けであり、その人の周囲にいて片方の氏名しか知らない人に対して、同一人物を別人と誤認させて不測の不利益を与える可能性があります(例えば市役所に行ったら担当者は隣人だった等)。場合によっては不正事件の温床となる可能性もあります。

 このような重大な問題があるからこそ、夫婦同姓(家族同姓、公私同姓)とされているにもかかわらず、記事ではその点に
全く触れること無く「女性活躍」の視点からだけの議論に終始しています。
 「夫婦別姓」、「旧姓使用」の是非を「女性活躍」の視点からだけ論じている議論は、
超狭視野の議論と言わざるを得ません。中でも司法関係者(女性判事など)の多くが、この視野の狭い議論をしている現状は、彼女らの判事としての適格性に疑問を感じさせるもので、憂慮すべき事態と言えます。

 古来から、厳然たる
制度的夫婦別姓国家である中国・韓国は果たして「女性活躍」社会だったでしょうか。どちらかと言えばむしろ反対だったと思います。「同姓」、「別姓」は女性活躍とはあまり関係無いのでは無いでしょうか。
 もう一つ、今の
憲法は夫婦別姓を念頭に置いて制定されたものでしょうか。もしそうでなければ、夫婦別姓と憲法を結びつけて違憲云々を議論することもナンセンスと言わざるを得ません。

平成30年5月4日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ