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男女平等(機会均等)に反する“男女共同参画思想”、矛盾と欺瞞に満ちた「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」

 5月17日の読売新聞は、「候補者数 男女均等に…推進法成立 政党に努力促す」と言う見出しで、次のように報じていました。
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候補者数 男女均等に…推進法成立 政党に努力促す
2018年5月17日5時0分  読売


 公職選挙で男女の候補者数を均等にするよう政党などに求める「政治分野における男女共同参画推進法」が16日の参院本会議で全会一致で可決、成立した。公布と同時に施行される。

 同法は超党派の議員立法。衆参両院や地方議会の選挙で、男女の候補者数が「できる限り
均等」になるよう政党や政治団体に努力義務を課している。政党・団体に数値目標の設定などの自主的な取り組みも促しているが、いずれも強制力はなく、実効性をいかに確保するかが課題となる。

 政府は、1999年成立の男女共同参画社会基本法に基づく男女共同参画基本計画で、国政選の候補者に占める女性の割合を2020年までに
30%にする目標を定めている。

 16年の参院選は24・7%だったが、17年の衆院選は17・7%で、衆院議員に占める女性の割合は10・1%にとどまっている。世界各国の議会で作る列国議会同盟(IPU)の調査(4月1日現在)によると、日本は調査対象の193か国の下院中158位と低い水準となっている。

 海外では、議席や候補者の
一定数を女性に割り振る「クオータ制」を法律で定めたり、政党の綱領などで立候補者数の女性割合を決めたりした結果、女性議員が増えた国もあり、今後の検討課題になりそうだ。

◆政治分野における男女
共同参画推進法の要旨

 【目的】政治分野の男女共同参画を効果的、積極的に推進し、男女が共同して参画する民主政治の発展に寄与する。

 【基本原則】衆院選、参院選、地方議会の議員選は、政党その他の政治団体の候補者
選定の自由、候補者の立候補の自由を確保しつつ、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指して行われるものとする。

 【国と地方自治体の責務】基本原則にのっとり、必要な施策を策定し、実施するよう努める。

 【政党・政治団体の努力】男女の候補者の数について
目標を定めるなど、自主的に取り組むよう努める。

 【実態調査】国は、国内外の実態調査や情報収集、提供を行う。

 【人材育成】国と地方自治体は、人材の育成と活用に資する施策を講じるよう努める。
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 突然の報道で、このような法案が提出されていたことも、審議されていたことも知りませんでした。読売新聞でも過去1年間にほとんど報じられていません。
 そこで成立した法律の全文を調べました。
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法律第二十八号(平三〇・五・二三)
◎政治分野における男女共同参画の推進に関する法律
(目的)
第一条 この法律は、社会の
対等な構成員である男女が公選による公職又は内閣総理大臣その他の国務大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣、大臣政務官若しくは大臣補佐官若しくは副知事若しくは副市町村長の職(次条において「公選による公職等」という。)にある者として国又は地方公共団体における政策の立案及び決定に共同して参画する機会が確保されること(以下「政治分野における男女共同参画」という。)が、その立案及び決定において多様な国民の意見が的確に反映されるために一層重要となることに鑑み、男女共同参画社会基本法(平成十一年法律第七十八号)の基本理念にのっとり、政治分野における男女共同参画の推進について、その基本原則を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、政治分野における男女共同参画の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、政治分野における男女共同参画を効果的かつ積極的に推進し、もって男女が共同して参画する民主政治の発展に寄与することを目的とする。
(基本原則)
第二条
政治分野における男女共同参画の推進は、衆議院議員、参議院議員及び地方公共団体の議会の議員の選挙において、政党その他の政治団体の候補者の選定の自由、候補者の立候補の自由その他の政治活動の自由を確保しつつ、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指して行われるものとする。
2 政治分野における男女共同参画の推進は、自らの意思によって
公選による公職等としての活動に参画し、又は参画しようとする者に対するこれらの者の間における交流の機会の積極的な提供及びその活用を通じ、かつ、性別による固定的な役割分担等を反映した社会における制度又は慣行が政治分野における男女共同参画の推進に対して及ぼす影響に配慮して、男女が、その性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮できるようにすることを旨として、行われなければならない。
3 政治分野における男女共同参画の推進は、男女が、その性別にかかわりなく、相互の協力と社会の支援の下に、
公選による公職等としての活動と家庭生活との円滑かつ継続的な両立が可能となることを旨として、行われなければならない。
(国及び地方公共団体の責務)
第三条 国及び地方公共団体は、前条に定める政治分野における男女共同参画の推進についての基本原則(次条において単に「基本原則」という。)にのっとり、政党その他の政治団体の
政治活動の自由及び選挙の公正を確保しつつ、政治分野における男女共同参画の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めるものとする。
(政党その他の政治団体の努力)
第四条 政党その他の政治団体は、基本原則にのっとり、政治分野における男女共同参画
の推進に関し、当該政党その他の政治団体に所属する男女のそれぞれの
公職の候補者の数について目標を定める等、自主的に取り組むよう努めるものとする。
(実態の調査及び情報の収集等)
第五条 国は、政治分野における男女共同参画の推進に関する取組に資するよう、国内外における当該取組の状況に関する実態の調査並びに当該取組に関する情報の収集、整理、分析及び提供(次項及び第九条において「実態の調査及び情報の収集等」という。)を行うものとする。
2 地方公共団体は、政治分野における男女共同参画の推進に関する取組に資するよう、当該地方公共団体における実態の調査及び情報の収集等を行うよう
努めるものとする。
(啓発活動)
第六条 国及び地方公共団体は、政治分野における男女共同参画の推進について、国民の
関心と理解を深めるとともに、必要な啓発活動を行うよう努めるものとする。
(環境整備)
第七条 国及び地方公共団体は、政治分野における男女共同参画の推進に関する取組を
積極的に進めることができる環境の整備を行うよう努めるものとする。
(人材の育成等)
第八条 国及び地方公共団体は、政治分野における男女共同参画が推進されるよう、人材の育成及び活用に資する施策を講ずるよう
努めるものとする。
(法制上の措置等)
第九条 国は、実態の調査及び情報の収集等の結果を踏まえ、必要があると認めるときは、政治分野における男女共同参画の推進のために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
(内閣総理・総務大臣署名)
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 男女共同参画関係の法律などの多くに共通することですが、定義に関わる条文が
冗長明確さを欠いていると言う点が指摘できます。
 この第1条は普通に読んでも、長ったらしくて一体何を言いたいのか
よく分かりません。何度も読み直してみてようやく、最後の「男女が共同して参画する民主政治の発展に寄与すること」が目的であることが分かりますが、抽象的すぎて一体何を考えているのかよく分かりません。そして「政治分野における男女共同参画の推進は、衆議院議員、参議院議員及び地方公共団体の議会の議員の選挙において、・・・男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指して行われるものとする」と続いていて、これが目的達成のための手段と言う事になるようです。

 まずこの法律の目的についてですが、現在わが国では男女が
平等(対等ではない)選挙権・被選挙権を有しており、「参政権(政治に参画ではない)」という観点から見ての男女の平等は既に実現していると考えられます。
 もしこれだけでは
不十分で、実際に立候補・あるいは当選しないと「参画」していることにならないとするなら、極論すればスイスのように直接民主制を採用するか、議員の選出は選挙によらず、くじ引きで選ぶしかなくなると思いますが、そういう議論をする人はいませんから、選挙権・被選挙権の「参政権」を有していれば、議員や知事・市長などの「公選による公職等」に立候補・当選しなくても、それは政治に「参画」していると言って良いはずです。この立法発案者が何を以て政治への参画というのか極めて不可解です。

 また、この法律が議員や知事・市長などの
当選者数の男女均等を問題にせず、候補者数の均等を問題とするのも理解に苦しみます。候補者をいくら男女同数(均等)にしたところで、当選者が均等になるとは限りません。候補者になれば落選しても「参画」したことになるのでしょうか。

 
「公選による公職等」に就く男女の数を均等にするのが目的であるならば、ストレートに選挙は男女別選挙として、議員定数男女別に同数に定め、男性有権者は男性候補者に、女性有権者は女性候補者に投票するとした方が、その是非は別にして実効性があると思います。なぜそういう主張をしないのでしょうか。

 現在の男女平等は権利と義務に於いて「男女の
区別をしない事」が基本原則であるのに対して、“男女共同参画思想”は権利(機会)の平等では無く、“結果”の平等(いわゆる悪平等)を求めていて、その為に社会に“男女の区別(例えば性別の目標値の設定)”を持ち込み、男女平等に逆行しているように見えます。

 
「候補者の選定の自由、候補者の立候補の自由その他の政治活動の自由を確保して(つまり日本の現在の状況で)」、政治活動を行って出た民意を反映した結果が、「男女の候補者の数が均等」にならない結果だった場合、これを均等にするような努力をすることは、必然的に民意を否定し、政治活動の自由を制約する努力をすることに繋がります。こうして考えると男女共同参画思想と政治活動の自由は相反し相容れ無いことが明白です。この法律は矛盾欺瞞に満ちています。

 候補者の定め方は各国によっていろいろですが、アメリカのように候補者を
予備選挙で選出するところは、その結果と異なる男女比率を実現しようとする努力は、有権者の民意の否定に他なりません。

 「
男女の割合を均等に」ときれい事を言っていますが、彼等(彼女ら)が問題視しているのは、「(一部の?)女性が希望していても女性の割合が低い分野だけで、既に女性の割合が高い分野(例えば小学校の教師)や女性が希望しない分野は均等化の視界に入っておらず、実質的には「女性が希望する分野で女性の割合を高めること」だけが目的です。

 女性候補者の割合を高くする目標を設定すると言うことは、必然的に
男性候補者の割合を低くする目標を設定することで有り、その目標を達成せんとすることは露骨な男女差別で有り、合理的な目標値を設定することは不可能だと思います。だから、立法提案者は自分で目標値を定めることをしないのです。自分でできないことを一般国民、政党に要求するのは卑劣欺瞞的行為と言うほかはありません。

 読売新聞はこの法律について記事の中で、
「強制力はなく」と言っていますが、法律にはすべて強制力はあります。法律に「男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指して行われるものとする」とあれば、均等を目指さなければならないし、「国及び地方公共団体は、政治分野における男女共同参画が推進されるよう、人材の育成及び活用に資する施策を講ずるよう努めるものとする」とあれば、それは「講ずるよう努める」ことを実行しなければならないのです。何もしないわけには行かないし、その方向を否定することはできないのです。

 強制力がないのではなく、
単に罰則がないだけなのです。議員立法全会一致で可決されたとありますが、強制力がないと誤解してこの法案に安易に賛成した会派や議員がいたとすれば、それは大変な誤解です。

 
“ヘイトスピーチ禁止法”が、言論の自由との兼ね合いから「強制力のない」法律と言われて成立しましたが、この法律が制定されて以来、この法律を根拠に各地の自治体などが、行政措置に於いて在特会の活動に施設の提供を拒否するなどの、様々な制約を科している実態が報じられています。

 今回の法律制定により、
矛盾と欺瞞に満ちた“男女共同参画思想”に反した行動は困難となり、その方向性は既定のものとなってしまったのです。

平成30年6月2日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ