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「出産退職の経済損失1.2 兆円」、次のターゲットは「出産退職」 −(専業主婦への敵意 その6)−

 
8月20日のNHKのテレビニュースは、「 『出産退職で1.2兆円の損失』民間シンクタンクが試算」と言うタイトルで、次のように報じていました。
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「出産退職で1.2兆円の損失」民間シンクタンクが試算
2018年8月20日 5時25分 働き方改革 NHK



 出産を機に仕事を
辞めてしまう女性は年間20万人に上り、これにともなう経済的な損失はおよそ1兆2000億円に達するとする試算がまとまりました。民間のシンクタンクは、育児休暇さらなる充実など女性が働き続けられる環境整備の重要性を指摘しています。

 
これは、第一生命経済研究所が、厚生労働省の出生動向基本調査などのデータをもとに試算しました。 
 ( http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2018/news1808.pdf
 それによりますと、1年間に出産を機に仕事を
辞めてしまう女性は、正社員やパートなどすべて合わせるとおよそ20万人に上るとしています。

 
そのうえで、こうした女性たちが仕事を続けていれば得られたはずのおよそ6000億円の収入が失われるほか、キャリアを持った女性が退職することで企業の生産性が低下する影響などでもおよそ6000億円の損失が生じるとしています。
 
こうしたことから、経済的な損失額は全体でおよそ1兆2000億円に達すると試算しています。

 
また、子育てが一段落してから再就職しても、収入の低下に直面するケースが多く、そのことも経済の成長力をそいでいると指摘しています。
 第一生命経済研究所は「女性が出産後も働き続け
られるよう、育児休暇のさらなる充実や保育施設の整備などの環境づくりが重要だ」としています。
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 報道は出産退職の「損失」について論じていますが、損失という以上、その損失が誰の損失なのかと言う事と、損失だけが発生して、その反面生じた利益は無いのかを考えてみる必要があると思います。反面利益があるのなら、損益を通算して考えなければなりません。

 そして、この議論に於いて重要なのは、
退職女性が受ける損失という視点で考える時、退職が自らの意思によるものか、不本意な結果なのかと言うことです。自らの意思で退職した者が“喪失”した収入が、本人の「損失」に該当するとは考えられません。



 報道の中で、「出産を機に仕事を
辞めてしまう女性」、「女性が働き続けられる環境整備の重要性」などと書かれているのを見ると、「出産を機に仕事を辞めてしまう女性は、本当は仕事を続けたいにもかかわらず、働き続ける環境が整備されていないため、働き続けることができないので、不本意ながら辞めてしまう」と言う認識が当然の前提になっていると言う理解に誘導されますが、その前提には根拠がないと思います。上記資料からも分かるように、退職者の多くは自らの意思で、家事と育児に専念するために退職しています。環境のせいではありません。

 (このことは、以前
配偶者控除の是非が論じられた時に、実際は控除の廃止を主張しているのは配偶者控除の対象者でない人(共働きの女性)がほとんどであったにも拘わらず、配偶者控除の対象者自身が制度の廃止を望んでいるかのごとき誤解に、読者・視聴者を誘導する報道が盛んに行われていたことを想起させます)

 退職により
喪失となる本人の(給与)収入20万人分、6,000億円すべて損失としてあげていますが、自分の意思で退職した女性の給与相当額までを、「損失」と言うのは誤りであり、他意あるものだと思います。当人の選択を否定することになりかねず侮辱ではないでしょうか。

 出産後に
専業主婦として家庭で育児に専念するか、子供を保育園に預けて外で働いて収入を得るのかは、個人の価値観人生観に依りますので、一概にどちらが正しいとは言えないし、他人がどちらかの選択に誘導すべきではありません。
 人は
金銭的な損得だけで行動するものではないし、いわんや勤め先の企業の利益のために、自分の生き方を犠牲にするものでもありません。

 もし、出産後の退職を金銭的な損失(損得)で議論するに当たって、本人個人だけでなく、勤務先企業も含めて考えるなら、それ以外の社会の損益も考慮する必要があります。
 
例えば家庭で育児をすることによる、社会に与える利益(保育所などの費用がかからない)と、反対に退職せずに子供を保育所に預けて働き続けることにより、社会に与える不利益(保育所費用の公費負担)をも考慮しなくてはなりません。それだけではありません。企業の損失に言及するのなら、有給の育児休暇の費用も同様に企業などの負担者の損失として考慮すべきです。

 
そしていくら試算とは言え、20万人とか、個人の所得の喪失と企業の被る損害が、(偶然?)同じ6,000億円で、合計が1兆2,000億円とか、アバウトな数字ばかりで根拠についても何の説明もなく、何やら胡散臭いものを感じます。企業損失などはどのような計算をしたのか首を傾げたくなります。

 このニュース報道は、最初から損失でないものを「損失」と捉え、出産後の退職を暗に一律に退職は本人の意に反するものであるかのように報じて、否定的に捉えることに終始しています。女性の多様な生き方を認めず、家庭で育児に専念するという生き方を、国家的損失であるかのような言い方で頭から否定しています。

 彼等がそこまでする
目的は何かと考えると、女性が専業主婦に収まることを何としても阻止したいからだと考えられます。「出産後も外に出て働け」と戦時の勤労動員みたいなことを言わんばかりです。彼ら彼女らがなぜ、多様な生き方を認めず、専業主婦の道を選ぼうとする女性達に「外に出て働く」ことを執拗に迫るのか、その理由は追々考えて行きたいと思います。

平成30年8月26日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ