I78
少子化対策破綻の現実を前に、言い訳の詭弁を弄する元厚労省官僚山崎史郎氏

 日本政策研究センター発行の月刊誌「明日への選択」平成30年1月号に、「人口減少対策は『内なる安全保障』」と題する、元厚労省官僚の山崎史郎氏に対する下記のインタビュー記事がありました。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
人口減少対策は「内なる安全保障」 「明日への選択」平成30年1月号



  山 崎 史 郎
地域ケア政策ネットワーク代表理事
前内閣官房地方創生総括官
昭和29年、山口県生まれ。東京大学法学部卒。
省高齢者介護対策本部次長、
首相秘書官、厚生労働省社会
援護局長などを歴任した後、内閣官房地方創生
総括官を務めた。著書に『介護保険制度史一
基本構想から法施行まで』(共著、社会保険研究
所)、『人口減少と社会保障』(中公新書)がある。

 2016年の
出生数が百万人を割って日本中に激震が走ったことは今も記憶に新しいが、安倍政権は少子高齢化を「国難」と捉え、数値目標を掲げて出生率回復に努めている。
そうした中で、「ミスター介護保険」と呼ばれた前内閣官房地方山崎史郎氏が「人口減少と社会保障(中公新書)という著書を上梓された。山崎氏は安倍政権下で少子化対策に携わってきたが、この本では人口減少と社会保障の関係を分かりやすく解説し、注目すべき提言を行っている。
少子化対策に絞って山崎氏に話を聞いた。

不発に終わった「第三次ベビーブーム」

−山崎さんは厚生労働省で介護保険制度の構築に尽力されてきましたが、まずは少子化問題に携わられるようになった経緯から。

 出生率が回復すれば、将来的には人口は安定的な状態になります。ただし、こうした効果が表われるまでには数十年間かかります。大事なのは、根拠のない楽観論や悲観論に惑わされることなく長い期間をかけても粘り強く対応していく強靭な気持ちを国民が持ち続けることだと思います。

 山崎 私は1978年に厚生省(当時) に入省し、94年から2006年にかけて、
高齢化問題こそ最大問題だと思い、介護保険制度の新設・導入に取り組みました。その後、雇用情勢が悪化し「超就職氷河期」と言われた時代に内閣府で若者の雇用対策などに関わり、2012年頃から少子化対策や地方創生を担当することになりました。
 実は、私は90年代後半から2000年代に苦しんでいたこの若者たちのことがずっと気になってきたのですが、その後、少子化対策に取り組む中で、彼らが
就職・生活難に遭遇したことが、結果的に今日の急激な人口減少を招く大きな要因となつたことが分かりました。拙著『人口減少と社会
保障』 にも書きましたが、要は期待されていた
「第三次ベビーブーム」という人口の山を形成できなかったということです。
 ご存じのように、団塊世代は270万人、団塊ジュニアは200万人生まれていたわけですから、いくら出生率が低くても、その団塊ジュニアの子供たちは一つの人口の山を作るぐらいは生まれるだろうと専門家は思っていました。しかし、第三次ベビーブームに対する期待は実現しなかったのです。
 こうした現実に対して私は非常な危機感を感じ、人口減少問題は、今後日本が直面する最も大き
な問題だと思い、自分なりに
いろいろ対策を打とうとしましたがなかなかうまくいかずほぼ空振り状態でした。特に、結婚や出産について政府が何かしようとすると、すぐに「戦前の産めよ殖やせよだ」と批判する声も強く、政府は長年これに非常に消極的だったのです。
 ところが、安倍政権になつてそれが大きく変わり、地方創生など人口減少問題に正面から取り組む取っ掛かりができました。実は、それまでの
政府は子育て支援はやってきましたが、人口減少を正面から捉えた対策はやって釆なかったのです。

(中略)

結婚できる環境整備がまず何より大切

  −子供を産み育てやすい環境ということですが、具体的には何を行うべきだとお考えですか。
 山崎 
そもそも、日本の出生率がなぜ下がっているかというと、主な原因は結婚をめぐる問題です。もちろん、結婚した夫婦が何人産むかも大事ですが、日本は非嫡出子の多いフランスなどとは
違って、結婚した夫婦が子供を持つのがほとんどなので、
出生率において結婚はきわめて重要なファクターなのです。

 その際、特に
男性は経済基盤が整わないと結婚してはいけないという規範力がものすごく強い。一般には、結婚に踏み切るのに必要な年収は最低三百万円とも言われていて、それを待っていると、今の日本の貸金体系では三十歳を過ぎてしまいます。当然、未婚化や晩婚化が進むわけですね。ですから、少子化対策の主眼は、特に二十代後半から三十代前半で若者たちが希望に応じて結婚して子供が産めるような環境を作ることに力点を置くべきだと思います。
 そうした年代の若者の生活を大きく左右するのは企業です。ですから、第一に企業が若い従業員のことを考えて残業を減らすなど、働き方を変えることがとても大事になるわけです。

 第二に所得の増加です。例えば
スウェーデンの場合、「連帯賃金」と言って、年功的な日本の賃金とは違って、若いうちからある程度の給与を出します。それができない企業は退場するしかない。なので、若い男女も安心して結婚や出産ができるのです。

 
フランスでは、企業が家族手当の財源の六二%を拠出しています。もともとフランスの家族手当は企業から始まっていて、経済界がずっと支援してきたのです。一方、日本の場合は、経済界は子育て支援や若い男女の家庭の形成維持にはあまり関心を持たない。人口という面での心配はあま
りしてこなかったのではないかと感じます。それが誤解であって、企業の行動が自分たちの会社や日本の社会や労働力の将来の数を決めるということを実感し始めたのは、ようやく最近になってではないかと思います。
 従って、少子化対策の一番の王道は、企業が子供は自分たちの将来の労働力であることを理解し、若い人たちを含めた働き方を改革して、従業員が仕事と家庭を両立できるような環境を整えることで
す。

結婚・出産の情報提供と街コン支援

 山崎 次に大切なのは、いわゆる妊娠適齢期などの情報提供です。これは産婦人科の専門家が明らかにされていることですが、男女ともに妊娠や出産に適した年齢というのがあって、女性は二十代から三十代前半ぐらいと言われています。もちろん個人差はありますが……。そうした事実を人々は意外と知らない。その結果、高齢になって不妊治療に通うなど、多くの人々が大変苦しんでいるわけです。
 これまで学校教育では避妊については教えてきましたが、妊娠や出産についてはほとんど教えて来なかった。最近になって、こうした妊娠適齢期についても、厚生労働白書や学校の副読本でも取り上げられるようになりました。

画期的なことですね。

山崎 ただ、こうしたことは、あまり国がやるよりは、産婦人科学会などの専門家の方々が主導的に取り組んでいった方がいいと思います。どうしても
国がやろうとすると、それだけで大きな議論になって、なかなか前に進まないのです。
 さらに大切なのは、
男女の出会いの場作りだと思います。近年、各地で「街コン」が行われるようになりましたが、人生の配偶者と巡り会う機会を作ってあげることは、見合い婚が少なくなつた現在、本当に大事なことなのです。

 この点で私が期待しているのは地方自治体です。特に人口減少に悩む首長さんたちは、県も市町村も一生懸命やっている。同じ市町村内だけでなく、少し離れた別の地域同士でやるのもいいと思います。最近は地方で暮らしたいという女性も増えています。
 ともあれ、出生率を向上させるためには、まず結婚して第一子を産んでもらわないといけませんから、
結婚への支援策を優先すべきです。

(以下略)
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------

 記事の中で、山崎さんは
「政府は子育て支援はやってきましたが、人口減少を正面から捉えた対策はやって来なかったのです」と言っていますが、これは全く事実に反します。下記の厚労省のホームページを見れば明らかなように、1989年のいわゆる1.57ショック以来、約30年の長きにわたって、厚労省は様々な「少子化対策」を実行してきました。少子化対策が「人口減少を正面から捉えた対策」である事はいうまでもありません。その多くが「子育て支援策」である事は間違いありませんが、子育て支援策こそが少子化対策の柱であると位置づけて実施されて来たのです。


厚生労働省 少子化対策の経緯(最初の部分のみ)
全文は https://www.mhlw.go.jp/za/0825/c05/pdf/21010705.pdf
または http://www.kcn.ne.jp/~ca001/H74-9.pdf


 そして、少子化対策として実施されてきた「子育て支援策」が、少子化対策としては、
何の効果も無く無残な失敗に終わったと言う事なのです。失敗を認めるのであれば、山崎氏の認識は正しい認識ですが、子育て支援をしてきたが、人口減少対策はして来なかったというのは、詭弁を通り越してそのものです。失敗の言い訳としても最低です。少子化対策が人口減少対策でなかったら、一体何なのでしょうか。どこが違うというのでしょうか。

 山崎氏の詭弁を聞いていると、厚労省は
子育て支援が少子化対策にはならないことを当初から知っていたのではないかとの疑念が生じます。少子化に効果が無いこととを知りながら、少子化問題を利用して、子育て支援を実施したのではないのでしょうか。
 そうなればこれは単なる失政ではなく、
確信的悪意により国民を欺き国の予算を悪用し、人口減少社会、国家衰亡の危機を招来したのですから重罪と言うべきです。

 2番目に、
「そもそも、日本の出生率がなぜ下がっているかというと、主な原因は結婚をめぐる問題です」とありますが、この認識に至るのが遅すぎます。
 下の二つのグラフからも解るように、
出生数の減少と、未婚率の上昇が並行していて、両者に密接な相関関係があり、少子化の原因は結婚の減少、未婚の増加である事は、1989年の1.57ショック以来のデータを見れば、容易に認識できるはずです。それにも拘わらずそれに対応する少子化対策が取られず、何の役にも立たない子育て支援からの軌道修正がされることなく現在に至ってしまったのです。





 少子化の原因が未婚の増加であると認識し、それに対応した少子化対策を取ろうとするならば、
なぜ結婚しないのか、その理由を当事者(未婚の男女)に聞くことが不可欠と思われますが、山崎氏はスウェーデン、フランスの企業対応は調べたようですが、彼の発言からは日本人の未婚の男女に聞き取り調査をした形跡は見られません。
 
 これは山崎氏に限らない問題で、少子化対策が誤って主として子育て支援を柱にして遂行されてきたために、少子化対策スタートの当時から、
意見を求めるのはいつも既婚の子持ち・共働き女性に偏っていました。その為か、未婚・晩婚増加の問題についても、未婚の男女に意見を求めることはほとんどなく推移してきたのが実態で、これは現在に至るも少しも改善されていません。
 
「結婚や出産について政府が何かしようとすると、すぐに「戦前の産めよ殖やせよだ」と批判する声も強く」とありますが、それは聞く相手が当事者(未婚の男女)でない一部の人に偏っているからです。

平成30年12月17日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ