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有害・不毛の“少子化対策”に、なぜストップが掛からないのか
−「パプリックコメント」に隠れて、批判を逃れて続く効果の無い少子化対策−
5月6日のNHKテレビニュースは、「新たな少子化社会対策大綱の原案 育休中の給付金拡充など 政府」というタイトルで、次のように報じていました。
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新たな少子化社会対策大綱の原案 育休中の給付金拡充など 政府
2020年5月6日 4時56分 NHK
政府は、新たな「少子化社会対策大綱」の原案をまとめ、育児休業を取得中の人に支払われる給付金の拡充や、2人目以降の子どもに対する児童手当の上乗せを検討することなどを盛り込んでいます。
政府は、少子化対策の指針となる「少子化社会対策大綱」を5年に1度、見直していて、その原案をまとめました。
それによりますと、政府が目標に掲げる「希望出生率1.8」の実現に向けて、若い世代が希望する時期に、結婚して子どもを育てられる環境を整備するとしています。
そのうえで、育児休業を取得中の人への生活支援として、休業前の収入の最大67%を支給する「育児休業給付金」を拡充することや、2人目以降の子どもに対する児童手当の上乗せを検討することなどが盛り込まれています。
また、新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークなどの取り組みが広がっていることを踏まえ、仕事と子育ての両立を図るため多様な働き方を推進することや、地域における子育て支援の充実などに取り組んでいくとしています。
政府は、国民から広く意見を募るパブリックコメントも実施したうえで、今月下旬にも、大綱を閣議決定することにしています。
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このニュース報道は、行政の当事者についてはすべて、“政府”、“政府”となっているだけで、所轄省庁の名前も担当部局の名前も、担当責任者も担当者の名前も何も出ていない、珍しくもあり、摩訶不思議な報道です。
施策担当者が普通の感覚を持つ人で、この施策が胸を張って発表できるものと信じていれば、きっと自分の名前を出すでしょう。少なくとも隠したいとは思わないでしょう。取材した記者も同様です。
政策を担当した彼ら・彼女らが名前を出さない(隠す)のは、この政策がどういう代物であるのか、いかに質の悪い、悪質なものであるかを認識していて、自分が批判の対象になるのを避けようとしているのだと思います。
1989年の1.57ショック以来30年余りにわたって、時間と巨費を投じて進められてきた、“少子化対策”は成果ゼロです。少子化・人口減少は加速しています。これを否定する者はおりません。
前日の5月5日、NHKニュースでも、次のように報じられていました。
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日本の子ども1500万人余り 去年比20万人減 過去最少を更新
2020年5月5日 5時16分 NHK
5日は「こどもの日」です。日本の子どもの数は1512万人で、39年連続で減少して過去最少を更新し、少子化に歯止めがかからない状態が続いています。
総務省の推計によりますと、先月1日現在の日本の15歳未満の子どもの数は
▽男子が774万人、
▽女子が738万人の合わせて1512万人となっています。
これまでで最も少なかった去年よりも20万人減って過去最少を更新し、昭和57年から39年連続の減少となりました。
総人口に占める子どもの割合も、去年に比べて0.1ポイント下がって12%と過去最低を更新し、昭和50年から46年連続の低下となり、少子化に歯止めがかからない状態が続いています。
(以下略)
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報道の通り「日本の子どもの数は39年連続で減少して過去最少を更新し、少子化に歯止めがかからない状態が続いている」のです。(そしてこの5月5日のニュースでは、当然のことですが、データを発表したのは総務省である事が明示されています)
今までの“主として共働きの母親に対する子育て支援”の少子化対策が、何の効果もなく、むしろ逆効果であり、少子化を促進をしてきた事実は、もはや異論の余地が無いと言って良いと思います。少子化の原因は未婚者(非婚者)の激増であり、子育て云々は関係ないのです。
その時期をとっくに過ぎて、なお、変わり映えのしない“少子化対策”を、変わり映えのしない“口実”で、次から次と打ち出し続けるだけで、未婚者・非婚者に対して、決して真剣に接しようとはしていません。彼ら・彼女らは国難に便乗するという己の非道を認識しているからこそ、批判封じに走るのです。
ニュースを見てこの事態を知った国民が、抗議をしようとした時に、抗議・批判の声を上げる先が分からないように隠してこれを阻止し、役所が「募った」パブリックコメントだけを、採用するという、手の込んだ「世論対策」を実現しようとしているのです。
パプリックコメント(制度の仕組みは下記参照)の採用に当たっては、意見を寄せた者の数が十分で、偏りがなく広く国民の意見を反映したものであることが不可欠ですが、それは確認のしようがありません。しかも、その意見集約と行政の最終的な対応の公表が同時では、意見集約が不適切でも、また行政が集約意見を反映していなくて後の祭りでしかありません。
国民の意見に広く耳を傾けようとするなら、パブリックコメントをするからマスメディアが報じる所轄省庁を通じての、国民の意見・抗議の道を遮断するというのは、誤りでありしてはならないことです。
今回の「政府」のしたことは、国民の意見を反映させることよりも、その振りをして、手順を踏んだという形式を残すことだけを目的にした制度の悪用のように思われます(もしかしたら、お役所がこの制度を作ったのは、“形式を残す”こと自体が目的だったのかも知れません)。
そして、これは行政当局者についてだけ言えることではなく、このニュースを報じたNHKについても言えることです。記者は当然担当省庁の担当者(責任者)から取材しているはずであり、“政府”から取材することなどあり得ません。そして、取材する者が具体的な省庁・部局名、取材相手の名を秘す必要はなく、報じられていないのは取材相手の要請に応じて隠しているとしか考えられません。
国の安全保障に関わる、外交上の秘密事項でもない限り、取材源を隠す必要はありません。
これは取材記者倫理に反する、視聴者に対する背信行為だと思います。
令和2年5月9日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ
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パブリックコメント制度(意見公募手続制度)について
https://www.e-gov.go.jp/help/public_comment/about_pb.html
国の行政機関は、政策を実施していくうえで、さまざまな政令や省令などを定めます。これら政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民の皆様から意見、情報を募集する手続が、パブリックコメント制度(意見公募手続)です。
目的及び根拠
パブリックコメントは、国の行政機関が政令や省令等を定めようとする際に、事前に、広く一般から意見を募り、その意見を考慮することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てることを目的としています。
平成17年6月の行政手続法改正により法制化され、それまでの「規制の設定または改廃に係る意見提出手続(平成11年閣議決定)」に基づく意見提出手続に代わって導入されました。
(参照)行政手続法 第6章 意見公募手続等(第38条〜第45条)
対象
行政手続法に基づくパブリックコメントでは、命令等の案(命令等で定めようとする内容を示すもの)に対して意見を提出できます。
(ただし、一部例外があります。(行政手続法第3条、第4条及び第39条第4項))
(以下略)
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