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医療と倫理の問題について

 非配偶者間体外授精の倫理上の問題点が指摘されていますが、非配偶者間の体内人工受精は、遙か以前の昭和24年から行われていて、既に1万人が誕生しています(産経新聞6月6日夕刊)。倫理的な問題は今回の非配偶者間体外受精と同様のものがあると思います。これらの公然の事実に長年目をつぶり今回に限り問題視されるのはなぜでしょうか。

 遅ればせながら倫理問題をないがしろにする、医療の暴走に歯止めをかけようと言うのなら、医師が自らの行為を正当化する隠れ蓑として存在する「倫理委員会」なるものの欺瞞性に目を向けるべきであると思います。
 彼らが設置している「倫理委員会」には、そう自称する何の根拠も正当性もありません。産婦人科医や法学部の教授や弁護士がなぜ倫理委員なのでしょう。彼らは倫理問題の当否について決定する権限があるのでしょうか。
 日本産婦人科学会の会長である佐藤和雄日大教授は「「・・・外部から法規制の動きが出てくると言うことになっては問題ではないか・・・」と語っていますが(読売新聞6月7日朝刊)、医師や医学会が勝手に倫理問題の当否を判断し、手術なり人工授精を承認したり不許可にする方が大問題だと思います。倫理問題とは国民多数の倫理観に合致しているかどうかの問題であって、医師や弁護士が決める問題ではないのです。

 厚生省の母子保健課は「学会が専門的見地から決めているガイドラインは遵守されるのが望ましい。・・・国が基準を示すべきか否かについては厚生科学審議会で議論されており・・・」と言っていますが、産婦人科学会は倫理問題の専門家の学会ではありません(倫理問題の専門学会などないと思いますが)。厚生官僚や官僚に任命された審議会委員が倫理問題で結論を出すのも誤りです。

 この問題を判断するのは、産婦人科学会の会員でも、厚生省に任命された審議会の委員でもなく、一般国民多数でなければなりません。一般国民の正当な代表である政治家が、この問題について国民の多数意見を反映した決定をしなければいけないと思います。我が国では民主主義国家では当然のはずの考え方が欠如しています。そして政治家にそのような自覚がありません。政治家の資質の問題もありますが、政治の周辺にいる人たちがこの問題から政治家を遠ざけようとしているのがその原因だと思います。

平成10年6月7日      ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る      I目次へ