I91
少子化対策も新型コロナ対策も、利用できるものは何でも利用する“性別役割分担禁止”への執念(その1)

 7月2日の読売新聞は、「男性の育休義務化 提案…政府有識者懇 年内に実行計画」問いう見出しで、次のように報じていました。
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男性の育休義務化 提案…政府有識者懇 年内に実行計画
2020/07/02 05:00   読売

 政府の有識者懇談会「選択する未来2・0」は1日、中間報告をまとめた。男性の
育児休業取得義務化や、高度にデジタル化した「スマートシティー」を全国に100か所作ることなどを提案した。政府は7月半ばにまとめる予定の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に盛り込んだうえで、年内に実行計画をまとめる方針だ。

 中間報告では
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、「通常であれば10年かかるような社会変革を一気に進めるべきだ」と指摘し、今後数年間で集中的に取り組む必要があるとした。

 「
女性の多様な活躍が出来る環境を徹底して整備する」とも強調。世の中の性別役割分担意識を変えるために、男性の育児休業取得義務化が有効だとした。
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 この記事が報じる「中間報告書」作成に向けた会議の議事要旨は下記の通りです。
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第8回 選択する未来2.0 議事要旨

1. 開催日時:2020年5月14日(木)07:30〜09:00
2. 場 所:オンライン開催
3. 出席委員
座長 翁 百合 株式会社日本総合研究所理事長
座長代行 柳川 範之 東京大学大学院経済学研究科教授
座長代理 松本 大 マネックスグループ株式会社代表執行役社長CEO
委員 大屋 雄裕 慶應義塾大学法学部教授
同 川口 大司 東京大学公共政策大学院教授
同 権丈 善一 慶應義塾大学商学部教授
同 滝澤 美帆 学習院大学経済学部教授
同 南場 智子 株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長
同 羽生 祥子 日経xwoman総編集長、日経DUAL創刊編集長、ecomom編集長
同 松尾 豊 東京大学大学院工学系研究科教授
同 広井 良典 京都大学こころの未来研究センター教授
同 横田 響子 株式会社コラボラボ代表取締役

(概要)
○翁座長
第8回目の「選択する未来2.0」を開催する。本日は全委員が出席である。
本日は
中間整理に向けて、委員の皆様から御意見を頂きたいと思う。中間整理概要は言わば中間整理の設計図である。また中間整理素案は、概要案を簡潔に文書化したものである。既に事前に御覧いただき御意見も頂いていると承知しているが、改めて中間整理の構成や追加で盛り込むべき事項などについても御意見を頂きたい。また、概要案では、「選択すべき未来」と「回避すべき未来」について、それぞれ「ニューノーマル経済」「巣ごもり経済」という仮称をつけているが、よりふさわしい名称などについても御意見を頂ければと思う。
そして、中間整理素案は、これまでの議論を包括的にまとめたものだが、その中で特に対外的に強調すべきメッセージや、こういった提案をしてはどうかというような御提案、目玉となるようなメッセージや提案などについても、委員の皆様のお考えを伺いたい。
事務局が参考資料を用意している。資料1は西村大臣が委員の皆様にぜひ御紹介したいということで、山口慎太郎先生の「『家族の幸せ』の経済学」について概要をまとめたものである。メッセージ・トピックと併せて事務局から説明をお願いする。

(中略)

次に
「父親の育休」についてである。日本の制度は男性の育休としてはきちんとした制度ではあるが、取得率が極めて低いという前提に立った上での記述である。一つ目の項目はノルウェーの事例の研究で、育休は「伝染」するということであり、日本の父親の育休取得を進めるには以下の3点が重要であると指摘している。1つ目は、育休取得を理由に職場で不利に取り取り扱われない環境の整備。2つ目は、給付金の増額であり、短期間の取得では給付金額をきちんと給料の100%とするといったこと。3つ目は、一番大事なのが、「勇気ある」父親の育休取得後のキャリアパスについての情報共有ということで、同僚などがこういった勇気ある育休を取得する、ないしは上司が育休を取ることにより、不利に取り扱われないことを目にした同僚が続々続いていくといった話が書かれている。
もう一つの項目に書かれているのは、
父親の育休はその後の父親のライフスタイルを変え、子供の発達を促すとの効果もあり、家族の幸せにつながるという分析である。

(中略)

 まず、若者についてである。日本の若者について、若者の自分自身への満足、ないしは将来についての希望が諸外国に比べて低い水準になっている。自分自身に満足しているという割合が
日本では45%なのだが、他国の平均が80%ということで、倍近い差がついている。
 自国の将来、自国の社会に対しての見通しについては、自国への満足、将来への見通しということも、同じく
日本が38.8%であるのに対して、他国の平均が54%である。
女性については、2020年の日本の
ジェンダーギャップ指数が、153か国中121位ということで、2006年の81位から悪化している。ちなみにOECD加盟国37か国においてはトルコに次いで下位である。
2019年の出生数であるが、御承知のように過去最小の86.4万人になっている。働き方について、日本を含む
出生率の低い国、日本、イタリア、ドイツ、この辺りになると思うが、男女別の週間労働時間分布に差が見られる。特に女性は長時間と短時間の二極化が見られる。
年齢階級別の年収分布について、2001年と2019年では大きな変化がないということで、年功序列の賃金の傾向に変化はない。非正規雇用の年収は、年齢のいかんにかかわらず300万円で頭打ちになっている。
デジタルについてであるが、日本の行政手続を含めオンラインサービスの利活用が進んでいない。OECD調査における
国際比較では、国の行政手続のオンライン利用率、クラウドサービスの利用率等々、いずれも非常に低いレベルである。
教育におけるICTの活用状況について、日本の中学校では、生徒に課題や学級での活動にICTを活用させる職員の割合が低い。
成人におけるICTを活用した課題解決能力について、個人差、できる人もいるわけであるが、全くできないという人もかなりの数に上っているというのが日本の現状である。次に、起業についてである。まず
開業率であるが、日本は開業率が他国に比べて非常に低い水準である。それから、起業意識の国際比較については、他国と比べていずれの項目も低いわけであるが、特に「周囲に起業に有利な機会がある」、「起業するため必要な知識、能力、経験がある」といった項目が他国に比べてとりわけ低いという格好になっている。
ベンチャーキャピタルの投資額、クラウドファンディングの規模については、日本のベンチャーキャピタルの投資額のGDP比、
米国、中国と比較して大きく水をあけられている。
それから、日本のクラウドファンディングの市場規模は拡大しつつあり、約2,000億円であるが、
アメリカに比べると大幅に低い。ソーシャルレンディングだけでアメリカが225億ドルに2015年度の段階で達している。幸福度について、世界幸福度報告によると、日本の幸福度の順位が40位から60位程度であり、かつ、若干悪化しつつあるという状況である。地域についてであるが、首都圏の人口集中諸外国と比較すると、日本のように首都圏の人口比率が高く、かつ、上昇を続けている国は見られないという傾向が出ている。
最後に、若年層における東京圏、地方圏それぞれの移動に関する意識であるが、東京圏にはやりがいのある仕事、娯楽・レジャー等に触れる機会が多くある、と感じている人が多いということである。それから、特に女性に関しては、女性が活躍できる場所、女性の採用意欲が東京圏で高いと感じている人が多い。以上、参考までに御紹介させていただいた。

(以下略)
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満足度・生活の質を表す指標群(ダッシュボード)
 https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/index.html

 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査
 https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo1.pdf

(以下の資料は省略)
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選択する未来2.0
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/index.html

 選択する未来2.0 中間報告 概要
 https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/gaiyou.pdf

新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(概要)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/20200626/shiryou1-1.pdf
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1.男性に育休を義務化
 一般的に考えて、「休暇取得」は
権利であって、義務ではありません。権利の義務化とは、あり得ない発想です。自分の思い通りに国民が行動しないことに逆上した、狂乱とも言うべき事態です。
 日本人は勤労(労働)を
美徳と考える国民です。「働き者」は称賛されます。働くことを「神様の命に背いた事に対するペナルティー」と考える人達とは、「労働(勤労)観」が異なります。見方によっては、休暇の強要は仕事をする権利を侵害する“人権侵害”です。雇い主であっても国家であってもそんな命令は不当です。

 そもそもこの義務化の目的が、対象となる
“男性本人”のためでは無く、「性別役割分担意識を変えるため」というのですから、人権侵害の可能性は十分あると思います。

2.意識改革
 「
性別役割分担意識を変える」とあり、この議論に於いては、軽く「意識」と言われていますが、この場合の「意識」とは、国民一人ひとりの「性別(夫婦)役割分担」の是非に対する、「考え方、思想・信条」であり、その自由は“憲法”が保証する不可侵の権利であると言って良いと思います。自分たちの“夫婦役割分担否定意識”と異なるからと言って、軽く考えるべきではありません。

 国がすべきことは、公正・公平な世論調査などにより、国民の「意識(意見・考え方)」を調査し、それに基づき、かつ尊重して政策を立案することであって、
国の方針に合わせて国民の意識を変えることではありません。それは本末転倒です。そして、そのために生じる国民に対する制約は必要最小限のもので無くてはならず、それを超えるものは“中国式”の全体主義に他なりません。

 すべての夫婦(父母)に、
「夫婦の役割分担」という生き方禁止すること自体が、生き方の自由を認めない人権侵害と言うべきであり、いわんやその為に、父親に望んでいない休業(育児休暇の取得)を強制することなどは論外と言うべきであり、人権侵害に当たることは明白です。

3.欧米模倣
 そもそも
性別の役割分担を否定して、その為には国民全員の「意識改革」が必要と主張する根拠は何なのでしょうか。「議事要旨」を見ると、挙げている根拠は大きく分けて二つあります。一つは外国(主として欧米)との比較であり、二つ目は国内のアンケート調査です。

 外国との比較では、性別の役割分担に関連して、様々な
国別の比較データが紹介され、多くのデータで日本が欧米の国に比較して見劣りがし、後れを取っているとして、欧米に合わせた制度への転換(模倣)が主張されています。

 この中間報告では、
新型コロナ対策に便乗して平時には出来ないことを、一気に推し進めようと言っていますが、現在新型コロナ感染予防対策とその基本となる国民の衛生意識では、欧米と日本の間に大きな相違があるにも関わらず、一言も欧米に倣えとは言っていません。その一方で、新型コロナに結びつけて論じられている性別役割分担については、欧米に合わせて意識を変えろというのはなぜでしょうか、なぜ、国民の衛生意識は変えなくて良いのでしょうか。

 すべての模倣では無く、
部分的に模倣すると言うなら、なぜその部分を模倣するのか理由を明らかにしてから、模倣を主張しなければなりません。そうでなく、すべてに於いて欧米の模倣をするなら、日本に政策立案者は要りません。翻訳者通訳だけ居れば十分です。

4.国内アンケート
 上記の「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」に、「インターネット調査により5月25日〜6月5日に実施。全国の15歳以上の
登録モニター10,128人から回答」とあるように、すべての調査は、この方式で行われているとみられます。

 様々なテーマで、様々な切り口で、様々な質問が大量に実施されていて、
集計結果をどう関連付けて、どう判断するかが問題です。
 これだけ質問が多いと、なんだか
“誘導尋問”では無いかと言う気がしてきます。
何事に付けても新たに何かを始めることは、よほどのことでも無い限り、肯定的な回答が出やすいと思いますが、問題はそれを始めることによる
デメリットが無いかどうかと言うことです。質問事項に対して、賛否両論を併記して賛否を問うのも一つの方法だと思います。

 様々な場面で、大量のアンケート調査が実施されていますが、実施方法については詳細な説明は無く、「インターネット調査」、
「登録モニター」とあるだけですが、一番肝心な「モニター」の募集・採用はどのような方法によったのかが何も書かれていません。これは調査結果の信頼性に係わる部分で、この説明が無ければ調査項目、調査結果がどのようであろうとも、それが全国民の意見の集約とみることは出来ません。

令和2年7月8日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ