総合診療部に対する抱負

総合診療部の構成メンバーについて

私は、総合診療部とは各専門診療科の医師をコーデイネートし、学生・研修医を指導する部署として存在するものと考えています。卒後教育において時に研修医が燃え尽きてしまう一つ理由として、専門的すぎる教育があると思います。総合診療部は、指導医がどこまでを学生・研修医に教えるか、どのように教えるかについて大学の研修プログラムに強く関与する必要があります。そのため、自分の専門分野を持ちながら広い内科の知識をもち、患者の全体像を見る必要性を認識している医師を集めたいと思います。

卒後臨床研修と卒前のクリニカルクラークシップ

天理よろづ相談所病院で長く卒後臨床教育に関与してきましたが、医師免許取得直後の新人医師は、病歴聴取・身体診察を適切に行うことができません。卒前教育として、知識以外に身体診察の習慣や病歴聴取方法を習得しておれば、卒後研修はもっと実りあるものになるように思います。これは実地教育が不足しているためです。

卒前の実地教育として、学部の3-4回生に対してクリニカルクラークシップの実施を強く推進したいと思います。そこで学生に、受け身ではなく患者相手に問題点を解決していく臨床医学の楽しさを覚えて欲しいと思います。クリニカルクラークシップの実施は、大学病院だけでは不十分で、一般病院でも実施できるように働きかける必要があります。そこでは、研修医1-2名、2学年より各2名の計5-6名よりなるチームを構成し、その上に総合診療部の医師がつくようなチーム医療を考えています。チーム内では、研修医が学生を、4回生は3回生を教えることを義務づければ、教えることで自分の知識を整理できるようになると期待できます。学生は、チーム医療に組み込まれ意見を求められることにより、患者の問題点を自らピックアップし解決していく知恵、および社会人としての責任感を持てるようになることを期待できます。また、国家試験の選択問題とは異なり、実際の医療では、医学的判断以外に、患者本人の好みや価値観、周囲の状況等を考慮する必要性があるという医療倫理も理解できるようになります。

クリニカルクラークシップでは、内科を中心に行い、面接法、病歴記載法を習得し、バイタルサインから始まる順序立てた身体診察法を習慣化することを第一の目標とします。加えて、日常臨床で利用頻度が極めて高い心電図、胸部レ線、一般採血の有用性と限界も習得すべき内容と考えています。また、内科の指導医のもとで、外来で多くの新患患者の予診を取り、来院の動機や病歴の時間的経緯をきちんと記載できることも目標とします。

総合診療部は学生に対してクリニカルクラークシップ終了時に客観的臨床能力試験(OSCE)にて面接法と身体診察法の達成度を形成的に評価します。学生が長期間のクリニカルクラークシップを遂行するためには、すでに一部の大学で実施されているように講義時間を減らすことも必要です。OSCEの評価が悪ければ卒業を不可とし、医師国家試験の内容においても稀な疾患についての衒学的な問題の代わりに、臨床実習に熱心に取り組まなければ解答できない問題等に変更することも必要です。

卒後初期教育と生涯教育

臨床医である限り、生涯教育をきちんと受け、新しい医療情報のうちで患者に還元できる部分は知識として知っている必要があります。私は、初期研修と生涯教育における到達目標は同じレベルであると考えています。

病院内で、学生や研修医とともに、日常よく遭遇する問題の解決方法を症例を通じて論議する定期的なカンファランスを実施したいと思います。そのカンファランスでは、総合診療部の医師が司会をして、総合的に診療することに興味を持つその道の専門医を招いて、「非専門医にはどこまで知って欲しいか、どのタイミングで専門医におくるべきか」を考察したいと思います。学生・研修医を中心としたこのような症例カンファランスを通じて、各専門医が日常診療に必要な専門外の知識が得られれば、これが生涯教育ともなり大学病院自体の診療レベルも向上すると思います。地元の医師会とも綿密に連絡しあい、このような生涯教育を施行することで開業医と医学生の良好な関係を作っていきたいと思います。将来的には、一般開業医のなかでも学生教育をしてもよいといわれる先生には立候補していただき、診療所や医院での実習を可能にし、実際の医療現場を早く知れるようにしたいと思います。

指導医に対する評価

大学における医師の評価は研究業績でなされてきました。数字で表しにくい教育活動を正当には評価されてきていません。教育をきちんと行うにはマンパワーが必要です。いままでのように、卒前・卒後医学教育を一部の熱意のある医師のボランテア活動に頼ることではシステムとして機能しません。教育を行う指導医には、病院より教育を行う義務の見返りに何らかのタイトルまたは報酬をきちんとだすことが必要になります。そのような病院からの指導医に対する適切な評価がなければ指導医のなり手がありません。教授に選出されれば、この評価を積極的に行っていきたいと思います。

臨床倫理

大学病院等の専門病院では、救命という名のもとで、日本全体の医療費を考えないような治療が行われています。しかし、一方、自分の肉親が高齢で寝たきりになったり、ぼけたりすれば誰が面倒をみるべきでしょうか?天理市では、特別養護老人ホームの待ち期間は6ヶ月です。誰もが避けてと通れない「老い」と密接に関係する福祉行政にはきわめて少ない予算しかありません。医学生、研修医にこの現実をみる機会を与えることにより、医師免許をもった時、広い視点、強い責任感と使命感をもって活躍できる人を育ててみたいと思います。

研究

総合診療部は、学生・研修医を教えた成果を、毎年学会で発表し、論文とすることにより大学内および他の病院から評価されるようにします。また、総合外来におけるコモンデジーズに対する臨床研究も考えています。

最後に

私は、いままで、主に自分の循環器外来の患者を研修の資源として、聴診方法、病歴の再聴取等を実施してきました。研修医の医学教育に用いた患者はほとんどが私が長く診ていた外来患者ですので、いやがらずに研修医の教育に協力してくれました。臨床教育を続けていくためには、自分の患者を持つ必要があります。また外来における初診患者から病歴聴取の実習も、外来を持っていて初めて可能になることです。

アメリカの大学教授のように、管理職になってもフィールドワークを忘れずに、自分のクリニックをもって、そこで学生と診察をするということを行えればと考えています。